閑話 大人カナンさんとショッピング!
今回の閑話は、第28話の裏側で行われていた話になります。
ストーリーが前後しますが、ご了承ください。
カナンちゃん救出の話し合いの翌日、私は新装備を得る為に仕方なくヤマトの部屋を訪れた。
「ヤマト! 仕方ないから買い物に付き合ってあげる!」
しかし、そこに居たのは休憩中の男性騎士だけだった。
「あ……ヤマトくんのパーティの……」
ノックもない乱雑な扉の開け方をしたせいか、男性騎士たちは困惑を露わにしていた。
「す、すみません! 皆さん復興作業で、ヤマトしかいないと思っていたもので……」
「ハハ、大丈夫ですよ。ヤマトくんたちのパーティが居なかったら、生徒を守り切れなかった。貴女様も、立派なこの国の英雄ですから」
そう言うと、騎士たちは朗らかに笑った。
英雄……か……。えへへ……なんだか照れてしまう。
「ヤマトくんは今朝方、カズハさんに連れられてどこかに行ってしまいましたよ? 何か用事でも?」
「えっと……守護の国は兵士育成が盛んだから防具とか凄いの多かったし……新装備を買いたくて……。それで、お金もないし、ヤマトに付き合って貰おうかと……」
すると、騎士たちは大きな声で笑い出す。
「アハハハ! 救世主にタカリですか! 本当に仲の良いパーティなんですな!」
仲が良いって言われると、照れてしまう……。
「お買い物なら私と一緒に行く?」
背後から声を掛けてきたのは、
「あ、大人カナンさん……」
カナンちゃんとは仲が良い自信がある。
自由の国へ向かう船内で出会って、一緒に遺跡探索もして、ホテルでも元気を分けて貰って、自由の国でドレイクの罠からみんなを助けた仲だ。二人きりの女子メンバーでもあるし、カナンちゃんは幼いこともあって、正直一番素直になれる。
ここにいるのは、カナンちゃん……。だけど、私が知ってるカナンちゃんではないから、どう接すればいいのか分からない……。
「私と接し辛いわよね。セーカちゃん」
「ちゃん……?」
「あ、ごめんなさい。今の私は、まだ幼いから呼び捨てだったわね……」
困った顔を見せる大人カナンさん。やっぱり、どこかカナンちゃんだ。
「行きましょう。お買い物……!」
そう言って、私は大人カナンさんの手を引っ張った。
「セーカちゃん、お金ないって本当?」
「えへへ……実は……」
本当にお金は持ってない。
ヤマトは国を救ってるし、なんか報酬金とか感謝料とか貰ってそうだから、本当にタカろうと思ってた。
「じゃあ、今回は私が出したげる」
「え……いいんですか……?」
「うーん、そうだなぁ」
そう言うと、人差し指で顎を指す。そして、私の前に指を掲げウィンクをした。
「敬語を外してくれたら、奢ってあげる!」
むむ……。大人とは言えカナンちゃんのくせに……。
「そんなの! 簡単なんだから!」
「ふふふ、ありがとう」
そう言うと、大人カナンさんは歯に噛む様に笑った。
守護の国は七国の中でもトップを争う程、商業や冒険者育成が盛んな国でもある。その為、下級装備からお高い上級装備までより取り緑だった。
「す……すごい……。ゴーエンは『腕っ節で装備の差なんか埋めろ!』とか言って、最低限の装備ばかり取り入れるから、こんな素材の装備見たことないや……」
鋼鉄にも様々種類があり、当然だが、その価値によって壊れやすさも断然変わってくる。物理防御に優れたタイプか、魔法防御に優れたタイプかでもまた様々変わってくる。
「鏡越しに眺めてないで、中入ったら?」
大人カナンさんはキョトンとした顔で指を指す。
「む、無理だよ! そんなお高い装備……私なんかが身に付けられるわけないじゃん!!」
「私なんかって……。ふふ、炎の神に鍛えてもらったお弟子さんのセリフとは思えないわね」
言われてふと思い出す。自分のプライド……。
「ち、違うわよ! ゴーエンの弟子だからこそ、装備の価値なんかに拘らないって話!」
しかし、長年使っている、特に敵と接触の多いグローブには、小さな穴がポツポツと開いていた。
「あの、この防具を頂けますか?」
「ちょっと、何勝手に選んでるのよ!! この腕の防具はグランとお揃いの……」
すると、薄い生地のグローブを手渡した。
「え……グローブ……」
「そう、グローブ。ゴム質のものより、鋼素材の方が更に強力な雷になるでしょ? それに、グローブだけなら腕の防具もそのまま身に付けていられるわよ」
正直、夢にまで見ていた、鋼素材のグローブ……。
腕輪のようにガッチリと嵌め、手の甲は鋼素材で、指は曲がりやすく部分部分にゴムが付けられていた。
「それから、これ」
「何よこれ、弓じゃない……」
大人カナンさんは、私に弓を手渡した。
「私、弓なんて使えないわよ?」
「ううん。明日、幼い私を救出できたら、新装備としてあの子にもプレゼントしてあげて欲しいの」
その弓には、私のグローブと同じマークが記されていた。
「きっとそのマークに気付いたら、お揃いだって大喜びしちゃいそうね」
「分かった……ちゃんと渡しておく……」
「それとー」
大人カナンさんは、一度物品を見出すと止まらないタイプだった。次から次へと試着やら購入をする。
「はい! 最後にこの指輪! そのグローブに嵌める感じで付けられるはずよ!」
「そんな……戦いにオシャレとか、私には不要だし!」
「年頃の女の子なんだから、いいじゃない!」
言われるがままに、私は指輪を嵌めた。
「うん。とても似合ってるわよ」
こう言ったアクセサリーの類は身に着けたことがない。正直、少しだけ小っ恥ずかしかった。
「それとねー、じゃん!」
大人カナンさんは、背後に回り込むと器用な手付きで素早く私の髪を纏め上げてしまった。
「ちょ、ちょっと……!」
「ふふ、戦闘においてその長髪は弱点だと思わない? 括ってあった方がきっと戦いやすいわよ!」
そう言って、また朗らかに笑った。
暫くベンチに腰掛けていると、全ての店は一斉に戸締りされ、みんなどこかへと行ってしまった。
「なんだろう? お祭り……ではないわよね」
「行ってみる?」
「何かあったら大変! 私たちも行こう!」
向かった先は騎士団本部裏のトレーニング区域。ヤマトが騎士や生徒たちから頭を下げられ、たくさんの声を上げられていた。
そして、ヤマトは叫び始めた。
「ヤマト……」
すると、私たちの着いて行った店の人たちは、元々話し合っていたかのように声を上げ始めた。
「な、なんなの……!?」
「ふふ」
大人カナンさんは隣で静かに笑っていた。カズハさんは涙を溢れさせていた。
「セーカちゃん、さっきの言葉、蒸し返すようで悪いんだけどね」
長い切れ目は、真っ直ぐヤマトを見つめていた。大歓声の中、肩を組む、岩の神とヤマト。
「私なんか、の行いが、この人達を救ったのよ」
私は、自分の軽率な発言に何も言えなくなる。
でもだからって……ヤマトみたいに私は強いわけじゃないから……。
「あれ? その金髪! 生徒たちから守って騎士団まで送り届けてくれた、ヤマトさんとこのパーティにいた子じゃないの!」
「え、あ、あの時の!」
ヤマトたちと離れた後、私は騎士団の外に出て、雷魔法のスピードを生かし、逃げ遅れてる人たちの救助に向かっていた。
その時に助けた八百屋のおばさんだった。
「あの時はありがとね」
そう言うと、私の手を無理やり握った。
「あら、綺麗な指輪! その蒼色の瞳にすごく似合ってるわね〜!」
「ちょっと! その子、私のことも助けてくれた子よ! 雷魔法で生徒たちに外傷を負わせないように気絶させて私のことも助けてくれたの!」
「おいおい、俺もだぜ! その子、女の子なのにこんな太ってる俺のこと抱き抱えちまって、騎士団まで雷魔法で一っ飛びよ!」
あわ、あわわわわわ……。こんなの、慣れてないからどうしたら……。
その時、無言で大人カナンさんは頭を撫でた。
(どーしたー? セーカ元気ない?)
自由の国のホテルで、カナンちゃんが暗い私の空気を察して撫でてくれた手と同じ……。
少しだけ、涙が零れてしまった。
そのまま、夕焼けの街に私たちは帰って行った。
「ふふ、あそこで泣いちゃうなんて。まだまだ英雄様とは程遠いかも知らないわね」
そう言って、また静かに笑う大人カナンさん。
いいえ、
「私の実力があれば、あんなチート野郎のヤマトなんかすーぐ追い越すんだから! カナンちゃん!」
そう言って、私は満面の笑顔を向けた。
この世界で繁栄している七国には、それぞれを統治する七人の神がおり、特別な力を宿す。
世界を治めるのは世界の唯一神。七国の神と契約し、神々に力をもたらした人物。
ヤマト(主人公):風・炎・水・岩・神威/光剣・グローブ
アゲル(大天使ミカエル):光
カナン:炎+爆破/弓
セーカ:雷/拳
アズマ:水/治癒
〇守護の国
セキュリティが強固で、国の周囲全てが岩盤で覆われている国。兵士教育が盛んで、兵士たち自らが交代で次代の生徒たちの指導をしている。
カズハ(岩の神):岩
アリシア(騎士団長/守護神):闇
リオラ:闇・寅の仙人 ディムに仕えている者。
ディム:寅の仙人。仙術魔法により時空移動が可能。
大人カナン:カナンが連れ去られた後、急に現れた大人の姿のカナン。
●龍族の一味
カエン(龍長):炎
ドレイク:雷・洗脳
ガンマ:闇・幻影
炎龍




