28話 和葉
翌日、目が覚める。
龍族の一味襲撃前の騎士寮はうるさい程バカ騒ぎをしていたのに、今ではみんな真剣だった。決められた時間に起床し、国の復興作業に出ていた。
「お、起きたかい? ヤマトくん」
「カズハさん……」
カズハさんは薄着のローブを羽織り、椅子に腰掛けてお茶を啜っていた。
「今日は、俺とデートでもしないか?」
ニカっと笑う。僕は、この笑顔は作り物だと気付いてしまった。
騎士団本部の外に出ると、岩盤で覆われていた上空には真っ青な空が広がっていた。
「空が見えると気持ちがいいですね」
何気ない一言に、カズハさんは顔を曇らせる。
「そうだよな。やっぱ、空って気分がいいな」
そして、カズハさんに連れられて様々な国内を巡る。カズハさんは国民に愛されてて、みんなの前に顔を出すとみんなから笑顔で会釈を受けていた。ゴーエンとはまた少し違った空気感を感じた。
「ヤマトくんから見て、この国はどうだ?」
「素敵な国だと思いますよ。カズハさんはやっぱりみんなから好かれてて、気持ちの良い国です」
カズハさんは何も答えなかった。
「ここは……」
暫く着いていくと、カズハさんは本部裏のトレーニング区域に足を運ばせていた。最初に、守護神 アリシアさんと戦闘になった場所。そう考えると、僕はこの国に来て守護神とも神とも戦闘になったのか……。
すると、カズハさんは立て掛けられていた木剣を僕に手渡してきた。
この展開は、もう分かってる……。
「俺と戦え、ヤマト」
カズハさんの顔付きが変わった。ふと、アリシアさんの言葉を思い出すが、だからこそかも知れない。
「はい……!」
僕は剣を構えた。
「どちらかが膝を着いた方が負け。お互い神の加護による魔法は禁止。どうだ? イーブンだろ?」
「分かりました」
風神魔法での高速移動が禁じられるのは痛いな……。でも、属性の数で圧倒してる僕に文句は言えない。
「それじゃ、始めだ」
そう言うと、真っ先にカズハさんは僕に距離を詰める。
「岩魔法・ブロックロック!」
僕の背後に無数の岩石が出現する。
目の前にはカズハさんの拳。前後からの攻撃……こういう魔法の使い方もあるのか……!
-岩魔法・ブレイク × 風魔法・フラッシュ-
背後の岩石を岩魔法で防ぎ、そのまま片手から暴風を放ち、カズハさんを吹き飛ばした。
「風魔法の威力すげぇなぁ! やっぱ、沢山属性があると戦闘も有利に運べそうだな……!」
しかし、流石は七神だ。普通の人なら吹き飛んで倒れるか、防具が粗末なものなら気絶する程の威力があるのに、平然と立っている。
-水魔法・アクアガン-
僕は片手から遠方のカズハさんへ水魔法を放つ。
「ハハっ、流石に避けられるぜ!」
違う……!
-風魔法・フラッシュ-
「ハァ!」
僕は水撃に身を隠して接近していた。そして、アクアガンを避けるカズハさんの方向に向かってフラッシュで即時移動し、木剣を叩き付けた。
カズハさんは防具もない腕でガードした。
「カハッ……!」
しかし、倒されたのは僕の方だった。
「アゲルくんに聞いてないの? 詠唱しなくても魔法は唱えられるんだぜ」
そう、今まさに、僕の木剣が当たると同時に岩魔法で僕は背中を強打させられた。
読まれていた……いや。炎龍の上で、僕がカズハさんを倒した時と逆のことをされたんだ……!
「それに俺の使った魔法はたった一つだ。まだまだだな、ヤマトくん!」
確かに、炎龍の上ではもっと沢山の魔法を絶え間なく繰り出していた。
「やっぱり七神の皆さんは強いです」
「でも、俺は本気の勝負でヤマトくんに負けた」
「それは、国を守ろうと炎龍に岩神魔法をぶつけたから隙が出来ただけで……」
「いや、一対一で本気の戦いをしたらきっと負ける」
断言するカズハさんの目は本気だった。そして、うつ伏せになっている僕に手を差し出す。
「ヤマトくん、君は既に七神よりも強い」
そう言いながら、僕の上体を起こした。
確かに沢山の属性の魔法に、今では四神の神の魔法すら扱えるけど、七神の使うようなあんなに膨大な魔法は僕には使えない……。
「納得いかないか? 理由を教えてやるよ」
そう言うと、カズハさんは僕と肩を組んだ。
「えっ……」
少しだけ、気恥ずかしい気持ちになる。
「お前はさ、俺たちの想いを託されてるからだ」
そう言うと、またニカっと笑った。今度は作り笑顔じゃない。
「おっ、来たな!」
すると、ゾロゾロとやって来たのは、守護神にして騎士団長を務めるアリシアさんと騎士団の全員。そして、魔法学校の生徒全員が連れられて来た。
「 お前たち!! この国にあそこまでの被害があって、一人も死者が出なかったのは、コイツが居たからだ!! 守護の国として、全身全霊で感謝をしろ!! 」
カズハさんが叫ぶと、全員が拍手を向けた。
「ありがとうー!!」
「止めてくれてありがとうございます!」
「傷治してくれてありがとうございます!」
「幻影解いてくれてありがとうございます!」
そして、アリシアさんが一歩、僕の前に来る。
「ヤマトさん、貴方がいなければ、この国の死傷者は百人以上に及んだでしょう。守護神である前に、この国の騎士団長として正式にお礼を……」
そう言うと、膝を着き、僕に頭を下げた。かっこいい騎士だと思わされる立ち振る舞いだった。
でも、なんだろう。僕も慣れてきたのかな、この世界に。
スゥッと息を吸い込む。
「 僕は確かに、治癒魔法で皆さんの洗脳を解き、皆さんを治癒しました! でも、その魔法を発現させてくれたのはカズハさんの力があったからです! 僕一人じゃきっとこの魔法は発現できなかったから、だから……!! 」
僕は、思いの丈を民衆に向けて叫んだ。
すると、更に奥から、
「 そんなの分かってるよー! 」
声を上げたのは、ニヤニヤと笑う八百屋のおばさん。そして、次々に沢山の声が上がる。
「カズハさん! いつもありがとうー!」
「俺たちの神は最高だー!」
「カズハさんにいつも守られてるんだ!」
カズハさんは、呆然と立ち尽くしていた。
「で、でも……俺は……お前たちを岩の中に封じ込めて守った気になっていただけで……」
-岩神魔法・ヒルブレイク-
僕はその場にいる全員に、岩の膜を張った。
「この防衛治癒魔法は、岩の神に与えてもらいました。そして、僕は七神よりも強いのだと岩の神に教わりました」
「ヤマトくん……」
「そして、この魔法のように誰かを守れる魔法を、不器用でフワフワしてて、だけど真面目な……そんな岩の神から授かったんです」
自然と、カズハさんからは涙が溢れていた。
「あなたが誰も守れないなんてことはない。誇らしい、守護の国の土台らしい守り方をしてきた、神なんですよ」
そして今度は僕が、カズハさんの肩を組んだ。
「この想い、託されました」
民衆の声が鳴り響く中で、岩の神はただただ泣いた。アリシアさんも頭を下げたままだったが、きっと涙を零していたんだと思う。
平和を願う葉は、ヒラヒラと風に舞う。
『和葉、君に相応しい名だ』
唯一神バベルが、この名をカズハさんに付けた想いが、僕にはなんだか理解できたような気がした。
泣き虫で臆病で、本当は自信のない青年は、小さな石を積み重ね、沢山の人に愛される神になっていたから。
この世界で繁栄している七国には、それぞれを統治する七人の神がおり、特別な力を宿す。
世界を治めるのは世界の唯一神。七国の神と契約し、神々に力をもたらした人物。
ヤマト(主人公):風・炎・水・岩・神威/光剣・グローブ
アゲル(大天使ミカエル):光
カナン:炎+爆破/弓
セーカ:雷/拳
アズマ:水/治癒
〇守護の国
セキュリティが強固で、国の周囲全てが岩盤で覆われている国。兵士教育が盛んで、兵士たち自らが交代で次代の生徒たちの指導をしている。
カズハ(岩の神):岩
アリシア(騎士団長/守護神):闇
リオラ:闇・寅の仙人 ディムに仕えている者。
ディム:寅の仙人。仙術魔法により時空移動が可能。
大人カナン:カナンが連れ去られた後、急に現れた大人の姿のカナン。
●龍族の一味
カエン(龍長):炎
ドレイク:雷・洗脳
ガンマ:闇・幻影
炎龍




