25話 VS 岩の神
リオラさんは一時撤退し、僕に話し掛ける。
「ヤマトさん、気を確かに。今迷ってしまっていては、全てが失くなってしまいます。覚悟を決めてください」
そうだ。リオラさんの言う通りだ……。今は、悩んだり迷っている時間なんてない……。
「流石に私の力では岩の神の相手は出来ません。私があのカエンと言う男を抑えておくので、ヤマトさん、あなたがしっかりカズハさんを守るのです」
守る…………。
「頼りにしてます。ヤマトさん」
そう告げると、リオラさんは漆黒の長剣を構えて難なくカズハさんの横を横切って行った。
カズハさんに見えていない……? アレも何かの能力なのか……?
そしてそうなると、岩の神 カズハさんの視界に映っているのは、逃れられない僕たちと言うことになる。
「ヤマト……」
「アズマ、カナンを連れて離れててくれ」
「相手はカズハさんだぞ……! あの……優しい……」
僕の覚悟は既に決まっていた。
「僕がカズハさんを守るよ」
「え……?」
「僕がカズハさんの守りたいものを守る。カズハさんが本当に守りたいもの……」
そして、アリシアさんとの会話、この国の兵士たちとの会話、誰に対しても平等なヤマトさんの姿。
「この、守護の国を守る…………!」
そして、僕は岩の神 カズハさんの前へ向き合った。光剣はない。頼れるのは今までの魔法と、この腕の防具だけ――――。
神との戦闘…………!
「お前が龍長か……手加減は出来ないぞ……! この国はこの俺、岩の神が守る!!」
カズハさんは声を荒げている。そして、高速移動で僕の眼前へと現れる。先程の攻撃で遠距離魔法は効かないと分かったのか、今度は近接戦闘に切り替えて来たようだ。
「岩魔法・ガントレット」
僕は咄嗟に【岩魔法・ブレイク】を発動。
間一髪、僕の前に岩石が出現した瞬間、カズハさんの目で追えないほど高速な連撃のパンチが繰り出された。
「これ……拳は魔法じゃないから、ラグマゴアだったら防げなかったな……」
岩の国へ来てもうかなりの魔法を得たが、本当の強敵と戦う時は魔法の選択を間違えられない……! 岩魔法が防御魔法で本当に良かった……。いや恐らくアゲルの話なら、僕がそろそろ自分を守れる魔法を得たいと思っていたから、この国の岩魔法として発現したのかも知れない。
更に、カズハさんは岩魔力の高速移動により、僕の背後に回り込む。
「岩魔法・クロノス!!」
早い……!!
僕の四方に長方形の岩盤が出現し、僕を覆った。自然の国のランガンさんの【岩魔法・クローズ】に似てるけど、やはり神の魔法は一味違う……。条件がなくとも、好きな場所に自在に魔法が出せる。
-炎神魔法・ラグマゴア-
でも、魔法攻撃なら破壊できる……!
ドカンッ! と、僕は岩盤を破壊した。
「防御には優れているようだな! 龍長!!」
やっぱり僕を龍長と勘違いして戦ってる……。
「空の上なら大丈夫だろう……」
そう呟くと、カズハさんの身体から蒸気が溢れる。
もう三国の神を見て来たんだ。分かる……。岩の神の岩神魔法が放たれる…………!!
カズハさんは、両腕を大きく広げた。
「岩神魔法・クロノ=スタシス!!!」
嘘……だろ…………!!
ゴゴゴゴゴ……! と、地鳴りが鳴り響き、カズハさんの背後には国をも覆うほどの岩盤が出現した。
守護神のダンさんの隕石とは桁が違う……。
「こんなの……天変地異じゃないか…………!!」
僕だけであれば、【仙術魔法・神威】の空間移動で逃げることは出来る。でも、この岩盤が炎龍に衝突したら、大きな瓦礫と炎龍が国に落ちて大災害が起こる……。いや、カズハさんのことだ。もしかしたらこの岩盤ごと、炎龍や僕たちを国の外へと追いやるつもりかも知れない。信じよう……カズハさんは守護の国を守る神だ……!
地鳴りと共に、巨大な岩盤は炎龍にぶつかる。そのまま炎龍は咆哮を放ち、身動きが取れないままズルズルと国外へ動き始めた。僕たちの地盤、龍の背はガタガタと震える。
やっぱりそうだ……。岩盤を勢い良く龍に当てて破壊することも出来たはずだが、カズハさんは国への被害を考慮してる。
「アズマ! カナンをしっかり支えてやってくれ!」
「ま、任せろ!」
まだだ……! カズハさんの目は……まだ僕を捉えている……!
グン! とカズハさんは僕に向かってくる。
さっきよりも目で追える……。
風神魔法……。
いや……仙術魔法・神威……!
僕が空間移動で移動した場所は――――。
「ここだァー!!!」
-炎魔法・ラグマ × 風魔法・フラッシュ-
炎に包まれた腕をフラッシュの勢いでカズハさんにぶつけた。カズハさんの背中に命中し、カズハさんはその勢いのままに吹き飛んだ。
僕が移動した場所は……変わらず同じ場所だ。
カズハさんの高速移動に合わせ、一瞬だけ神威で姿を消し、カズハさんが僕に攻撃を仕掛ける僕が元々いた位置に変わらず出現し、背後から攻撃をした。
そのままバタリとカズハさんは倒れ込んだ。炎龍を引き摺っていた巨大な岩盤は消え去っていた。
「アハハハハ! ヤマトくんが神を倒しちゃった!!」
リオラさんの剣技を余裕で交わしながら、両手を上げてカエンは笑い出した。
「すごい! 覚醒はそんなに進んでたんだ!!」
覚醒……? 何のことだ……? アゲルからそんな言葉聞いたことないぞ……?
「君、もう飽きたからいいや。闇魔法もてんで弱いし」
カエンがリオラさんに向けて手を翳した瞬間、
「え……?」
リオラさんは炎龍の背から遥か遠い場所に移動し、そのまま急落下して行った。
「クハッ……!」
そして地面に叩き付けられ、血を吹き出した。
まずい……リオラさんが死んじゃう……。急がないと……! あれ……でも僕も……。
フラッと、突然意識が消え掛かる。今ここで倒れちゃいけないのに……。
「おっと……」
僕を支えてくれたのは、アズマだった。
「無茶しすぎだ。魔力の使い過ぎだな」
こんな時なのに、アズマさんはヘラっと笑った。そして、僕に治癒魔法を送り込んでくれている。
「いやー、ヤマトくん! 素晴らしいよ! 君の成長具合も見れたし、岩の神の岩神魔法も見れた!」
拍手を送りながら龍長 カエンは近付く。
「今日は本当に収穫が多かった! それじゃあ僕は引き上げるとしよう!」
カエンは炎龍に魔力を注ぐと、炎龍は再び大きな咆哮を上げて翼を大きく広げた。
「今、国民に幻影魔法を掛けている闇龍の加護を受けたガンマと言う男はとても遊び好きでね。僕はもう帰るけど彼はまだ遊ぶかも知れない。武運を祈ってるよ」
そう言うと瀕死のカズハさん、僕とアズマは気付いたら空中上にいた。カナンは、炎龍と共に連れ去られてしまった。
「カナン! カナン!!」
「ヤマト! まずは着地をどうにかしないと! さっきの岩と風のやつ出来るか!?」
「まだ……魔力が足りてない…………!」
地面に急落下していく。
「うわあああああ!!」
「岩魔法・ドック…………」
か細い声でカズハさんは詠唱すると、僕たちは地面ギリギリでぐにゃりとした岩魔法のクッションに落ちた。
「カズハさん……?」
「ヤマトくん……迷惑を掛けてしまったようだ……。神として……情けない……」
「そんなことはないです……洗脳されていたんですから……」
そうだ。僕も洗脳に掛かり、仲間たちと戦う羽目になってしまった。責めることは出来ない。
そして、カズハさんは僕の腕に触れる。
「俺は守護の国の神なのに、発現した魔法はどれも攻撃にしか使えない魔法だった……。守護神にこの国の騎士団長を任せたのも、俺より国を守れると思ったからだ……」
そう言うと、ニヤッと顔を向けた。
「岩の加護だ……。アリシアは……強い。闇魔法を盾にして守ることに優れている。それでも、国民全てを守るには荷が重すぎる……」
そして、同時に膨大な魔力が注ぎ込まれていることを実感した。
僕に魔力を与えて、託してるんだ。
「どうか、救ってやって欲しい……」
そう言うと、魔力が殆ど底をついたのか、カズハさんは気を失ってしまった。アズマは無言でカズハさんの治癒に入った。
「ヤマト」
アズマは僕を見ずに呟いた。
「分かってるよ、アズマ」
この国を、守る。
この世界で繁栄している七国には、それぞれを統治する七人の神がおり、特別な力を宿す。
世界を治めるのは世界の唯一神。七国の神と契約し、神々に力をもたらした人物。
ヤマト(主人公):風・炎・水・岩・神威/光剣・グローブ
アゲル(大天使ミカエル):光
カナン:炎+爆破/弓
セーカ:雷/拳
アズマ:水/治癒
〇守護の国
セキュリティが強固で、国の周囲全てが岩盤で覆われている国。兵士教育が盛んで、兵士たち自らが交代で次代の生徒たちの指導をしている。
カズハ(岩の神):岩
アリシア(騎士団長/守護神):闇
リオラ:闇・寅の仙人 ディムに仕えている者。
ディム:ガロウと同じく異世界からやってきた仙人の一人。守護の国の近くの森に住み、寅の仙人と呼ばれる。
●龍族の一味
カエン(龍長):炎
ドレイク:雷・洗脳
ガンマ:闇・幻影
炎龍




