23話 龍の襲来
アリシアさんは、全ての鎧を消すと、軽装になって僕たちのことを案内した。予想通り、黒い鎧は全て魔法で創られたものだった。
「さっきの試合なんですけど、例えばハナから僕が戦わないことを宣言していたら合格だったんじゃ……」
「いえ、戦わない選択をするへっぴり腰なんて、岩の神に会わせるわけないじゃないですか」
そう言うと、アリシアさんはニヤッと笑う。
「でも、私すらをも打ち負かす脅威もまた、会わせるわけにはいきません。戦闘を選んで私に敗けることで本当は合格にしようと思っていました」
途中棄権もまた、敗北宣言みたいなものか……。何はともあれ、よかった。あのままじゃ、アリシアさんを打ち負かしてしまうところだったから――――。
「それより、アゲル! 闇魔法ってなんだ!? 初めて聞いたぞ! そんなものがあるのか!?」
すると、驚くようにアゲルは答えた。
「いやいや、ヤマト。光魔法があるんですから、闇魔法も存在して当然だとは思わないんですか!? 光と闇は対になるものです。光があれば闇もあるのですよ」
確かに……光があるなら闇もある……か。腑に落ちてしまってなんだか悔しい。
「って……あれ……?」
アリシアさんに着いて行くと、僕たちは一番最初の入国審査の元まで戻って来てしまった。
「ここ、入国審査の国の入り口ですよね?」
「はい、こちらに岩の神はいますよ?」
すると、一つの部屋をコンコンと叩いた。そして、中から欠伸をしながらのそっと男が出て来た。
「あ、騎士団長様だ。お疲れ様で~す」
ん? この声……。
「僕の入国審査をした受付兵の方ですよね!?」
「ああ、日本とかよく分かんないこと言ってた君か!」
「よく分かんないこと言ってた人を通さないでください!」
そう言うと、アリシアさんは男の頬を捻った。
「いたたた、アリシアちゃん痛い……」
「えっと……で、こちらの方が……?」
「はい、岩の神 カズハ様になります」
守護神が騎士団長で、神は受付兵……?
「あー、そういや君は俺に会いたかったんだよな。ちょっと入国の人多かったから、最初アリシアちゃんのところへ向かってもらおうと思ってな、すまんすまん!」
そう言うと、悪びれもなく手を合わせた。
なんだか、岩のカチカチした想像とは真逆の、風のようにフワフワした感じの男だった。
「じゃあ、君がいずれ訪れる七神の加護を回る旅人でいいんだな?」
「はい、既に風・炎・水の神たちと会って来ました」
「うわ! ゴーエンに会って来たのかよ! アイツ怖かっただろ〜!」
岩の神 カズハさんは、他の神たちとも仲が良さそうで、今までの旅路を楽しく話すことが出来た。
「あ、そうだ。今夜はウチ泊まってけよ。まあ、ウチって言っても騎士兵の宿屋なんだけどな! あ、ちゃんと女の子は女性騎士の部屋があるから安心してくれ!」
そう言うと、騎士団総本部の奥へと案内し、僕たちを男女に分け、僕とアゲル、アズマの三人は、カズハさんの案内の元に男部屋へと入って行ったのだが……。
「よっしゃあ! 俺の勝ちだ! イッキ! イッキ!」
「ガハハハ! お前ら、休憩の兵士はちゃんと休憩しなきゃダメだろ~!」
中では、上裸の男たちが腕相撲大会を開き、酒瓶がゴロゴロと転がっている騒がしくむさ苦しい場所だった。
「あ、カズハさん! 腕相撲しましょうよ!」
「いんや、今日は客人が来てるもんでな。お前ら、少しは片付けておくんだぞ!」
そう告げると、綺麗な場所に僕たちの荷物を置かせてもらい、僕たちは一度部屋の外へと出た。
「むさ苦しいところでごめんな〜」
ヘラっとカズハさんは片手を上げた。
昔はこういう空気は凄く苦手だったが、旅をして行く内に少しだけ、愉快な気持ちになれた自分がいた。加われと言われたら流石に抵抗はあるが……。
すると、本部の最上階へ行き、更に展望台へと案内してくれた。そこからは守護の国全域が見渡すことができ、上から見るとすごく整った綺麗な街に見えた。
「おかしいと思ったか? 守護神が騎士団長を務めてて、神の俺は下っ端の受付兵。まあ受付兵も交代制だから、傭兵したり学校の先生したりしてるよ」
そう言いながら、カズハさんは街を眺めていた。
「最初は確かにおかしいと思いましたけど、こうしてカズハさんと話していると、理由が分かる気がします」
僕が答えると、カズハさんは笑った。
「アッハッハ、俺みたいな奴に固い役職なんて無理無理! アリシアちゃんの方が打って付け!」
「カチカチ頭とは誰のことを言ってるのですか?」
後ろからセーカとカナンとリオラさんを連れたアリシアさんが現れた。どうやら女子部屋も同じような雰囲気だったのか、二人はげっそりとした顔を浮かべていた。
「ち、違うぞ!? 守護の国に相応しい、真面目でお優しい御方だ〜って話を……」
「それよりもカズハ様。神を巡る旅人が来たら、話したかったことがあったんですよね?」
「話したかったこと……?」
すると、二人の顔付きが変わっていた。
「ああ、君が来たら話したいことが……」
その瞬間、まさに一瞬だった。
守護の国は、周りも、上空ですらをも岩石でスッポリと覆われた国。その上空に聳える岩壁が、パックリと消滅し、綺麗な空が映し出された。
その途端、本部全体に緊急警報が鳴らされる。
『緊急警報! 緊急警報! 敵は上空!!』
敵は上空……? 飛んでるのか……?
『炎龍です!!』
龍……!!
僕が呆気に取られていると、カズハさんはヘラっと呟いた。
「ッカ〜! 龍か〜! バベルが生み出した最古の魔物、俺も直で見るのは初めてだな〜」
そこには余裕にも見える口調に見えた。
「カ……カズハさん! 龍ですよ!? 龍が攻めて来たのに……そんな悠長な……」
「ヤマトくん。俺はこれでも神だぜ? 龍の一匹くらいならまあ大丈夫かな〜」
そうだ……龍を見るのは初めてだが、今まで龍族の一味と戦って来て、七神は龍族の一味より遥かに強い。
他の神みたいに戦えないって制限がないなら、カズハさんがいれば大丈夫かも知れない……!
『続報をお知らせします!! 魔法学校の生徒全員が操られている模様!! 騎士団本部へ攻め入って来ています!! 騎士団長、指示をお願いします!!』
カズハさんの余裕は、青ざめた顔を見て分かった。
神の力は確かに絶大……でもだからこそ、本当に守りたいものを守れない……。
「アリシア、龍は俺一人でなんとかする! 騎士団の指揮を取って生徒全員を気絶させろ!」
「分かりました……!」
神と守護神の関係を知らなければ、傭兵が騎士団長に指図している絵柄にも見える。
しかし、指示の的確さ……やはりカズハさんは紛れもない岩の神だ。
「絶対に、誰一人死なせることは許さない!」
「僕たちはどうしましょうか、ヤマト」
「カズハさん……僕たちは……!」
「一緒に戦ってくれるか、ヤマトくん……! なら、全員でアリシアの援護に回ってやってくれ……!」
「分かりました!!」
そして、全員で急いで本部内を駆けた。
階段の途中で、僕は一人の男に止められる。
「やあ、初めましてだね」
「貴方は……?」
聞かなくても分かる。龍族の一味だ……!
「どうしました? ヤマト?」
見えてないのか……!?
「僕は龍族の一味、研究者のガンマ。他の人に僕の姿は見えていないよ。何故ならこれは幻影だからね……」
幻影……。自由の国の幻影魔法の龍族……!
「今日は少し大所帯でね。簡単に潰れちゃっても困るからアドバイスに来てあげたんだ。岩の神は一人で龍討伐に向かったようだけど、それじゃあ岩の神は死ぬよ」
カズハさんが……神が敗ける……!?
「岩の神が相手にしようとしているのは、七龍の中で最も強いとされている炎龍。そして、炎龍を暴走させない為に操っているのは……」
僕は唾液をゴクリと飲み込んだ。今までの龍族で見たことのない属性だ。
「龍族の一味……我らが長、炎龍の加護を持った人だ! ふふ……この宴を愉しもう!」
そう言うと、ガンマと言う男の姿は消えた。
「ヤマト、どうしたんですか!? 急がないと!!」
「ごめん、今、僕の目の前に幻影魔法の龍族の男が現れたんだ……。やっぱり僕だけでも、カズハさんの援護に行ってくる!!」
そして、僕は再び、展望台へと上った。
この世界で繁栄している七国には、それぞれを統治する七人の神がおり、特別な力を宿す。
世界を治めるのは世界の唯一神。七国の神と契約し、神々に力をもたらした人物。
ヤマト(主人公):風・炎・水・岩・神威/光剣・グローブ
アゲル(大天使ミカエル):光
カナン:炎+爆破/弓
セーカ:雷/拳
アズマ:水/治癒
〇守護の国
セキュリティが強固で、国の周囲全てが岩盤で覆われている国。兵士教育が盛んで、兵士たち自らが交代で次代の生徒たちの指導をしている。
カズハ(岩の神):岩
アリシア(騎士団長/守護神):闇
リオラ:寅の仙人 ディムに仕えている者。
ディム:ガロウと同じく異世界からやってきた仙人の一人。守護の国の近くの森に住み、寅の仙人と呼ばれる。
●龍族の一味
??(龍族の一味の長):炎
ガンマ:闇・幻影
炎龍




