10話 ヒーロー
さて、万事休すな展開になってきた……。
ダンさんの魔法は確実に効かない。グランさんは、老いのせいか立っているのもフラフラだ……。ルークさんは、助力はしても流石に正面切って仲間割れなんてしないだろう……。
僕は……。
【風神魔法・ウィンドストーム】ならヴォルフよりも高速移動が出来るけど、木剣なんかじゃ傷を負わせられる気がしない。【風魔法・フラッシュ】で吹き飛ばしたところで、気絶すらさせられないだろう。
なんだよ、さっきから……気が散る――――。
さっきから、木剣を持つ手がドクンドクンと脈打っている。緊張してるのか……僕は……いや違う……この感覚は……!
-炎魔法・ラグマ-
「うわっ……!」
「おおおお!? なんだそれぇ!?」
僕の持っている木剣は、その全てが燃え盛っていた。しかし、木剣が燃えている訳ではない。
「あ、熱くないのか……? それ……?」
ダンさんも急な発火に驚いている様子を浮かべる。
「多分、『炎魔法』ですね……。燃えてるのは、木剣と言うより、この外側みたいだ……」
そうか、これが発動条件だったのか……武器を介する魔法……ってことだったんだ……!
でも、炎を纏った剣を振るったところで、ヴォルフの属性は水魔法。相性は最悪――――――。
そんな中、ほんのりとした熱を伝って言葉が過った。
" 任せたぜ、ヒーロー "
「任されました……」
「どうした? いい作戦でも思い付いたのか?」
「違います。ダイジョーヴイ! なんです!」
「は……?」
-風神魔法・ウィンドストーム-
僕は一直線にヴォルフの眼前へと迫った。野生の勘か……ヴォルフは風神魔法の速度に僅かに着いて来れている……。
ヴォルフの水陣は自身の身体能力強化と、自分以外に触れている者から魔力を吸い取る。
なら、ずっと飛び回っていればいい……!
「オラァ!!」
僕は炎を纏った木剣をヴォルフに振り翳した。
そして、水龍の加護とやらで遠方への見えない攻撃、水の音の振動を利用した攻撃。
なら、それをされる前に攻撃してしまえ……!!
しかし、ヴォルフの高められた身体脳力は、今まで試合で見せていたものとは比べ物にならなかった。ヴォルフは野生の勘で、すっ飛んで来た僕の位置を予測し、更に野生の反射神経で爪を突き立てていた。
相打ち――――に見えた。
「なん……だこれ……」
ジュウゥ……と小さく音を立てている。僕の炎を纏った木剣は、見えない何かを蒸発させていた。
「は!? なんでだ!? 水龍の加護を受けた水魔法だぞ!? 炎魔法なんか簡単に打ち消せるのに……!!」
驚愕に、ヴォルフは初めて口を開いていた。
どうやら、ヴォルフの水魔法の攻撃を、僕の炎の木剣が蒸発させているようだった。しかし、僕も思う。炎に水は相性最悪だ。何故……?
いや違う……これは炎魔法じゃない……!
-炎神魔法・ラグマゴア-
「これが『炎神魔法』だったのか……!」
【炎魔法・ラグマ】により、武器に炎魔法を付与。更に【炎神魔法・ラグマゴア】は、その炎で全ての魔法を蒸発させる上位互換な魔法になっているんだ――――!
「でも……これじゃあ君は気絶させられそうにないから、少し痛いけど我慢してくれ……!」
そして、僕は片方の左手を上空へと向ける。
-風魔法・フラッシュ-
勢い良く吹き出る風魔法に、僕の木剣がヴォルフの放った見えない水魔法の全てを勢い良く蒸発させ、その勢いのままにヴォルフの脳天に木剣を叩き落とした。
木剣の触れた水陣は、ジュア! と音を立てて消えた。その激しさに、木剣はまたしても砕けた。
ヴォルフは……気絶していた――――。
「炎の加護……貰っておいて良かった……」
「凄いね。流石は神の力!」
ルークは、見越していたかのように目の前に現れる。
「あっ、いつの間に!!」
しかし、ルークは一瞬でヴォルフを連れ、僕の目の前から消え去り、上空に移動していた。
移動が全く見えなかった……まさか瞬間移動……!?
「止めてくれてありがとう! それじゃ、また会おう!」
そう言うと、ルークは一瞬で消え去ってしまった。
そんな中、
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
大きな音と共に、島全体が揺れ始めた。
「今度はなんだ……!?」
「ふぅ……。やあっと私の出番だぜ……」
会場の端には、全身から炎を発したゴーエンがいた。
「貴様らァ! もうこの国に来るなァ!!」
そう叫ぶと、ゴーエンは海に向けて拳を突き出した。
-炎神魔法・シャイニング=ブロウ-
「嘘……だろ……!?」
ゴーエンの突き出した拳は、海をパックリと割り、拳の跡がくっきりと現れた。
「チッ……ギリギリ届かなかったか……。逃げ足の早い奴らだ。まあいい、顔は覚えたからな」
炎の神 ゴーエンが戦えなかった理由は、多分この島を破壊してしまうからだろうと察した。
こ、怖い。すごく怖い。あと……怖い。
「ほーら、さっさと敗退者はどいたどいた!」
パンパン! と、僕に向けて合図を送る。ここまで壊滅させておいて、この神はまだ祭りを続行させるつもりなんだ……。
僕は駆け足で観客席まで避難した。グランの治癒と、会場の壊れた箇所の修復が済み次第、決勝戦を執り行うらしい。
「お疲れ様でした、ヤマト!」
「あ! アゲル! なんで助けに来なかったんだ! 【光魔法・オーバー】で止めてくれれば少しは……」
「龍族に【光魔法・オーバー】は効かないんです。それに、万が一にもカナンちゃんを負傷させるわけにはいかない。炎の神の超パワーは知っていましたからね。今回、足手纏いになってしまう僕は、カナンちゃんを避難させていたんです」
そう言うと、朗らかに笑った。
「そ、そっか……。なんか、ごめん……」
「ヒトは、ごめんよりもありがとう、と言われたい生き物らしいですね」
「お前はヒトじゃないだろ」
砕けた木剣で軽くチョップをかまし、僕たちは避難していたカナンと合流した。
そして、最終試合、決勝戦が行われた。例年の注目株の二人が新たな進化を見せ、観客席は大盛り上がりだった。
二人の戦いはとても楽しそうで、なんだかこっちまで見ていて楽しくなってくる試合だった。
「岩魔法VS岩魔法。まさに、漢の勝負ですね」
「うん。すごく……かっこいい」
「カナンも岩魔法使えるようになりたい!」
「カナンには爆発があるだろー!」
最後は、グランさんの鎧をダンさんが破壊し、ダンさんが優勝して喧嘩祭りは幕を閉じた。
帰還船の中で、炎の神 ゴーエンと、守護神 ダンさんは改めて僕たちの前に姿を現した。
「今回は助かったぜ。ありがとう」
そう言うと、ゴーエンは手を差し出した。こう素直に感謝されるとなんだか照れるが、僕もその手を握り返して微笑んだ。
「俺のことも忘れるなよ! ヤマト!」
ダンさんは拳を突き出した。
「はい! 僕もダンさんみたいに強くなります!」
そう言い返し、拳を合わせた。
「次の国に行くなら、また船を出してやるよ! 船でなきゃ行けない国があるからな!」
「えぇ……、いいんですか……?」
「喧嘩祭りを救ってくれたヒーロー様だ! そんくらいさせてくれ!」
そんな次の国の目的地は、水の神がいる島国。
自由の国。
この世界で繁栄している七国には、それぞれを統治する七人の神がおり、特別な力を宿す。
世界を治めるのは世界の唯一神。七国の神と契約し、神々に力をもたらした人物。
ヤマト(主人公):光剣
◇風魔法 フラッシュ:暴風を放出
◇風神魔法 ウィングストーム:目線の場所に高速移動
◇炎魔法 ラグマ:武器に炎を付与
◇炎神魔法 ラグマゴア:全ての魔法を蒸発させる
アゲル(大天使ミカエル):光属性
◇光魔法 オーバー:対象を三秒間停止させる
カナン:炎属性+爆破/弓
◇炎魔法×爆破
〇楽園の国
年中お祭り騒ぎで、観光客が後を絶たない国。神の方針から神を「様付け」で呼ぶことを禁止しており、皆呼び捨てでその名を呼ぶ。
主に漁を盛んに行い、モンスター退治などは極小数精鋭で行う。牢などはなく、罪人は追放という処置を取る。
ゴーエン(楽園の国の神)
◇炎神魔法 シャイニング=ブロウ:超パワーの炎パンチ
ダン(守護神):岩属性/棍棒
◇岩魔法 ダダンラッシュ:強力な岩魔法の範囲攻撃を振るう
グラン:岩属性/拳
○龍族の一味
ルーク
ヴォルフ(水龍の加護):水魔法/爪
◇水魔法:水陣を巡らせ、自身の身体能力強化、及び、水陣に触れている者から魔力を奪う
◇水魔法:爪や咆哮の水魔法を放つ
◇水龍の加護:自身の攻撃を見えなくさせる




