9話 水龍の加護
僕とダンさん、注目株のグランと言う初老の男性、そして龍族の一味のヴォルフは、他の追随を許さない猛攻で圧倒し、遂に準決勝戦まで上り詰めた。その殆どが一発ノックダウンと言う波乱な展開に、最早観客席は大興奮を抑えられずにいた。
準決勝戦第一試合は、僕とグランと言う男性だった。守護神であるダンさんと渡り合う実力者だ。
「ダンの認める旅人さんか。よろしく頼むの」
「あ、いえ……こちらこそ、よろしくお願いします」
なんだか、強いとは聞いていても、老人と戦うのは気が引ける――――なんて思わされたのは、最初だけだった。
グランさんは岩魔法の使い手で、脚と腕から拳に掛けて長い鎧を身に纏った、ランガンさんのような戦闘スタイルだが、全身をゴーレムにしてしまうランガンさんとは違い、部分的に岩石に変えている為、スピードが速い。
風の加護を受けている僕ですら避けるので精一杯……と言うか、一撃でも喰らえば即気絶する……!
「速度はかなりのモンじゃのぉ。風魔法の使い手か?」
「そうですね……。一応、風魔法で移動してます……」
風神魔法ってかなりのチート技だと思うのに、実践経験の差でここまで防戦一方に回されてるなんて言えない……。
【風神魔法・ウィンドストーム】での移動も、『目で示した場所に高速移動する魔法』の為、いくら一方通行の速度が早くても、相手の攻撃を避けながらだと、相手を上回る速度で挽回が成せなかった。
「それじゃ、もう一段階ギアを上げるかの。本当はダンとの試合まで取っておきたかったんじゃが……」
そう言うと、グランの鎧は更に膨張した。
「ちょっ、待っ……! まだ早く……」
目では追えているのに……身体の反応が間に合わない――――! 速い……グランさんの岩の拳が目の前に……。
僕は咄嗟に木剣を前に、防衛姿勢を取った。
バコン!!
「わああっ!」
大きな音を立て、木剣は折れてしまった。でもなんだ……? 折れる瞬間、何かを感じたが……。
「試合終了! 勝者! グラン!!」
これにて、僕は準決勝でグランさんに敗退した。
「お爺さんに負けちゃいましたね」
「実戦経験の差だと思う……グランさん、相当に戦闘慣れしてる様子だった」
「ふむ……」
アゲルは一本指を立てて微笑みかける。
「まあでも、準決勝まで残ったんですし、喧嘩祭りが終わったら、無事に炎の加護も獲得ですね!」
「そうだな……!」
なんだろう。すごく悔しい。でも、なんでだろうか。すごく、嬉しい――――。
アゲルと共に、カナンの待つ観客席へ向かうと、既にダンさんとヴォルフの試合が始まっていた。しかし、僕とグランさんの試合とは裏腹に、観客席は静まり返っていた。
何故なら、
「おい……どうなってるんだ……」
ダンさんが、防戦一方になってしまっていた。観客たちは唖然としてしまっている。
「あー……、出ちゃってるな、アレ。一応、攻撃魔法になっちゃうのかなぁ……」
「ルーク! ……さん……。 どう言うことですか!? 強いとは分かっていたけど、ここまで一方的なんて……」
ルークさんは、ルールは厳守させようとしていたのか、一応祭りは成立させたかったのか、頬を掻きながら説明を始めた。
「ヴォルフが四つん這いになるとね、彼の『爪』から周囲に水魔法が放たれるんだ。あの会場内全域に広がってる水浸しのやつね。あの水陣の中では、ヴォルフは自身の移動速度を上昇させることができる。まあでも、それはみんなやってる移動魔法だからいいと思うんだけど……」
龍族のイカれた血が疼いたのだ。
「勝手にスイッチが入っちゃってるね、瞳孔開いちゃってるでしょ。あの水陣はもう一つ特長があってね」
次の瞬間、ダンさんの棍棒は破壊された。
「自分以外の魔力を吸っちゃうんだよね……」
そして、ダンさんは準決勝で敗退となった。
「見ていられないな……決勝は棄権させるよ」
そう言い、ルークさんは去って行ったのだが、暫くの時間の末、予定通り決勝戦のアナウンスが流れ始めた。
「あれ、棄権させるんじゃ……」
グランさんとヴォルフが出場して来る。ヴォルフはニタニタと笑みを浮かべ、最早人とは形容し難いほど殺気立っているのが伝わった。
試合開始直後、ヴォルフが水陣を広げた瞬間、グランさんはその場に膝を突いてしまった。
「まずい! さっきの試合よりもっと早く相手の魔力を吸収してるんだ!!」
このことを知っているのは僕らだけなのに……。
「ヤマト!」
そこには、炎の神 ゴーエンが突っ伏していた。そして、僕に木剣を手渡した。
「ダンも既に向かわせた。あのジジイを助けろ」
「でも……試合が……」
「アイツはダンとの試合の時点で既に攻撃魔法を使用していた。ルール違反で失格だぜ。ジジイとダンの試合を改めて執り行いたい。その前に、違反者を排除して来い」
僕の目をまじまじと、真っ直ぐな瞳で見つめる。
「……行ってきます!」
「あ、ちょっと待て。先に渡しておこう」
「なんですか? すぐ向かわないと……」
そう言うと、ゴーエンは僕の肩に手を乗せた。
「参加賞。炎の加護だ。任せたぜ、ヒーロー」
僕は黙って頷いた。
ヴォルフの周りには、ダンさんの棍棒から放たれたであろう大きな岩石で四方を封じられていた。
しかし、ヴォルフは難なく岩石を破壊する。
「よう、来たか! ヤマト!」
「ダンさん! 大丈夫ですか!?」
「おう! 治癒師に速攻で治癒してもらったからな! アイツの水陣に触れると魔力が吸われちまう。俺が会場内に無数に岩石の足場を用意した。その上で戦え!」
「分かりました!」
流石は守護神、見極める力と対応力が早い……!
しかし、ヴォルフは遠方から爪を振るうと、ダンさんの胸に大きな傷を与えた。
「どうして!? あんな遠いのに……!!」
「大丈夫だ……! もう魔法は発動してある……!」
血を垂らしながら後退するダンさんの上空には、会場の半分を埋め尽くす程の、隕石にも見て取れるような岩石が集められていた。
「これが……ダンさんの加護の力か……!」
「ヤマト! グランさんを連れて反対側まで避けろ!!」
そして、ダンさんの大きな隕石が放たれる。こんな大きな岩魔法、防げるはずがない……! 流石は守護神の力だ……!
ヴォルフを覆っていた最後の岩石を破壊すると、既に隕石はヴォルフの目前に迫っていた。
「ガァオォーーーン!!!」
ヴォルフは、狼の遠吠えのように叫んだ。
「雄叫び……? 勝てないと悟って叫んだのか……?」
「いや、違うぞ、ヤマト……」
ダンさんの顔が青ざめていく。
「俺の放った隕石を見てみろ……」
隕石はヴォルフの眼前で止められ、次第にビキビキと細かく砕け始めた。
「そんな……あの巨大な隕石を破壊するなんて……」
「あれは、水魔法を口から振動させて放ってるんだ。アレこそが『水龍の加護の力』だね」
「そんなことが……、って、ルークさん!?」
ルークさんは、初めからその場に居たような顔で僕らの避難した岩石の上に立っていた。
「棄権させるって言ってたじゃないですか!」
「いや言ったんだけどね!? アイツ、俺にもすっげえ殺気向けてくるし、こんなところで仲間割れも出来ないし、棄権させられなかったって戻ったら君たちにも怒られそうだから隠れてたんだ!」
そう言うと、うざったいテヘペロ顔を披露する。
「そんなんじゃ許されませんよ! まあでも、こうして解説に来てくれたのは助かりました。これは仲間割れにはならないんですか?」
「他に見てる仲間もいないし、俺個人としては楽園の国とも良好な関係でありたい。ヴォルフも狼の習性でとっくに理性は飛んで、戦闘マシーンになってるしね! アハハ!」
アハハじゃないんだよ、まったく……。
そして、戦闘マシーンと化したヴォルフの瞳は、確実に僕たちを捉えていた。
この世界で繁栄している七国には、それぞれを統治する七人の神がおり、特別な力を宿す。
世界を治めるのは世界の唯一神。七国の神と契約し、神々に力をもたらした人物。
ヤマト(主人公):光剣
◇風魔法 フラッシュ
◇風神魔法 ウィングストーム
アゲル(大天使ミカエル):光属性
◇光魔法 オーバー:対象を三秒間停止させる
カナン:炎属性+爆破/弓
◇炎魔法×爆破
〇楽園の国
年中お祭り騒ぎで、観光客が後を絶たない国。神の方針から神を「様付け」で呼ぶことを禁止しており、皆呼び捨てでその名を呼ぶ。
主に漁を盛んに行い、モンスター退治などは極小数精鋭で行う。牢などはなく、罪人は追放という処置を取る。
ゴーエン(楽園の国の神)
ダン(守護神):岩属性/棍棒
◇岩魔法 ダダンラッシュ:強力な岩魔法の範囲攻撃を振るう
グラン:岩属性/拳
○龍族の一味
ルーク
ヴォルフ(水龍の加護):水魔法/爪




