⑦ 痴呆老人を助ける。
東門前から北側の鍛冶屋に向かう途中、倒れている老女を助けた。
診療所のベッドに寝かせてすぐに意識が戻ると老女は『此処はどこ?、何故此処にいるの?』と話し出した。
『貴方が路上で倒れていたので、この診療所に運んできた』と言うと、老女は申し訳なさそうな顔をして『何処のどなたか存じ上げませんが、助けて頂きありがとうございました。』と言うと途方に暮れた表情で
『実は家に帰ろうとしたら道に迷ってしまい、辺りを見てもどこなのか分からないので、歩き続けていたら空腹と疲れで倒れてしまったのです。』と話してくれた。
『私はこの街で水路工事をしている風間と言いますが、貴方の御名前は?』と尋ねると
『エルザ▫マクシミリアンと申します。』
『お住まいの番地は??』と聞くと少し困った顔をしていたが、突然思い出したように『五番街のクレール商会です。』と告げた。
診療所の看護師に老女の住所の番地を聞くと、『宮殿から南側に五番街の標識が道路にあるので、クレール商会の看板を探せばすぐに見つかると思います。』と言われた。
そこで老女のエルザの介護を頼んで、私が五番街のクレール商会に知らせに行く事にした。
診療所から宮殿に向かい、其処から南側の五番街のクレール商会を探せば、すぐに見つかりようやく目的地に到着した。
クレール商会の外観は荘厳な屋敷という感じで、商会に入ると使用人が出てきたので、用件を話すと慌てて奧に行き、すぐに身なりの整った女性を連れて戻ってきた。
『貴方がお婆様の居場所をご存知なのですか?』と聞くので、『そうです、たまたま倒れていた所に遭遇したので近くの診療所に連れて行き、今は意識を取戻したので診療所で安静にしていまよ。』と伝えると。
『失礼しました。私はマリー▫マクシミリアンと申します。ところで貴方様は?』と聞かれ、『風間▫淳と言います。たまたま移動中、道路に倒れていたお婆様を見たので介護して診療所に運んでお知らせに来ただけです。』
その女性はホッとした様子で『お婆様がいる診療所に案内して頂きませんか?』と言うので『勿論、これから案内します』と返事した。
クレール商会が用意した馬車に乗って診療所に向かう途中、これまでの経緯を話すと、マリーという女性は老女の娘さんで、昨日から老女が行方不明になって捜していたと聞き、これまでも何度も同じような事があったというので、どうやら老女は痴呆症状が進んでいるようだ。
馬車が診療所に到着したので、マリーを病室に案内してから鍛冶屋に行こうとしたらマリーからお礼をしたいと言って引き留められ、暫く病室で待っていると、『連絡して頂いたお礼をしたいので、ご一緒に夕食でも如何でしょうか?』と申し出があり、エルザ、マリーと一緒にクレール商会に向かうことになった。
商会に到着すると奥の食堂に案内され、夕食をご一緒するよう勧められた。
出された料理は、この街では高級な素材を使った物らしく、スープやメインディッシュはフランス料理に近い物があり、宿屋の料理とは異なる味覚で香辛料も多数惜しげも無く使われているような味がした。
食事会での話題は私の身なりについてや。現在の水路工事についての苦労話し、そしてお婆様の放浪話しなど、お二方が興味津々に聞いてきたので2時間以上に渡って会話してしまい、遅い時間になったので宿屋迄馬車で送って貰った。
帰り際、マリーさんが『困った事が有れば気軽に相談して下さいね』と言われたので『お婆様のことで困った時はお声がけ下さい。』と言って商会を後にした。
宿屋に着くと店主のカールが心配して声を掛けてくれた。
『遅い時間だけど、夕食はどうする?』と聞かれたので『すまないが、外食してしまい、今晩の夕食は用意しなくて良いですよ。』と言って謝った。
おかみさんも調理場で片付けせずに待っていた様子なので、連絡しなかった事を謝っておいた。
今日は色々な事があって疲れたので、部屋に入るとすぐにベッドで寝てしまった。