⑤ 猛獣襲来
作業を開始して9日目、都市城壁迄の水路がもうすぐ出来るという頃、北側の森から猛獣が現れた。
獣の外見は、かつて地球に存在していたというサーベルタイガーに酷似していて、白い毛皮で覆われ、大きな牙が上顎から二本突き出している。
作業員に獣の名前を聞くと、虎と答えたので猛獣の名前まで日本語と同じかよ~と、何故か親近感が増したが、その体格は全長4m程と非常に大きな獣なので、襲われれば被害は大変な事になりそうな予感がした。
しかし護衛の獸人数人は、すぐに槍を使って猛獣の周りを取囲み、巧みに攻撃をかわして足元に槍を刺し、身動きが出来なくなると棍棒で頭を叩いて討伐してしまった。
討伐した獣は、すぐに河原に運んで腹を裂いて解体して内臓を取り出し、血抜きをしたら荷車に載せて持ち帰るようだ。
護衛の一人に聞くと、狩った獲物の毛皮や肉、牙は商人に売って得た金は護衛の褒賞金になるので、出来るだけ素材の価値を損なわない様に討伐していると言い、想わぬ臨時収入に護衛達は皆喜んでいた。
洗って綺麗にした内臓は彼等の夕食になるようだが、それなら保存がきくソーセージの作り方を教えてあげれば、食事の足しになるかと思い、塩や血や肉片を腸に詰めて茹でることでソーセージが完成すると教えてあげた。
その代わりに小腸の一部を分けて貰い、河原で内容物を出して良く洗って持ち帰ることにして、今晩は宿の調理場を借りてソーセージを作ってみようと思った。
今日は猛獣の襲来があったので、作業員の退避や駆除に時間を取られ、予定していた作業が出来なかったが、あと2日あれば城壁にたどり着くと思って少し早く街に戻ることにして解散した。
宿に着くと店主のカールに頼んで、夕食の片付けが終わったら調理場を借りてソーセージを作ってみたいと申し出た。
カールは『ソーセージってどんな料理なんだい??』と聞いてきたので作り方と長期間保存可能な肉を使った食材だと言うと、興味津々でのってきた。
夕食の後、調理場を借りて持参した腸の内側を湯で洗ってから、片側を絞り袋の口金に被せ、ミンチした獣肉と香辛料と塩をよく混ぜた物を口金で絞り出し、腸の中に空気が入らないよう隙間なく充填してから腸の両端を縛ってからボイルして完成です。
此処では胡椒がなくて他の香辛料で代用したので微妙な味わいかも知れないが、数日たてば熟成して食べ頃?かも知れない。
今日の猛獣も、どこかの料理店の肉料理となって提供されるのだと思うと、つくづく弱肉強食の世界だと感じた。
後日、干していたソーセージの試食では少し臭みはあるが、燻製にしてみたら臭みも消えて、カールが宿の肉料理のメニューに加えたいと言ってきたので了承し、またソーセージが夕食に出されるかと思うと、食事のバリエーションが増えて少し喜ばしい事だ。
あとは胡椒やターメリックがあれば、カレーを始め色々な料理のレシピが試せると思ったが、この世界の人々には未だ未知の食材であり、無理を言っても仕方ないかな~。
かつて、日本海軍でビーフシチューを作ろうとして出来た料理が、肉じゃがだったという話があるが、当時デミグラスソースの作り方を知らなくて、食べた将校の記憶をもとに、日本の料理人が醤油と味醂と酒で味付けしていたら肉じゃがになったという逸話があるが、いずれ今ある香辛料だけでカレーを再現出来ないか挑戦してみようとも思っている。