⑮ 浄水器を完成させる
炭焼き窯の製作と浄水器の製作を並行して作業するにあたり、設置した浄水器のろ材は定期的に消毒する必要がある。
それに活性炭が吸着する汚れの状況により、ろ材を再生処理する事を考え、殺菌出来る代用品を探してみたが、次亜塩素などの薬品はここには無く、仕方がないので塩酸を生成する事にした。
塩酸の製造は、塩水を電気分解して発生する塩素を回収して水に溶かすと薄い濃度の塩酸溶液が得られるが、この世界には電力を得る手段が無いので、まず発電機を設計して風車か水車の動力を使って発電する方法を考えないと継続して使えないが、それまで当面は私が持参した太陽光発電パネルを使い、電極板に電線で接続すれば電力は得られるので、生成に必要なガラスの容器を工房に製作依頼してみることにした。
工房でガラスの加工をする職人に図面を渡して製作可能か聞くと、幾つかの部品に分割して製作すれば可能だが、こんな変わった形の容器は見たことがないとガラス粉職人に言われたが、それでも職人は数日かけて試作してくれた。
電極板は銅製のプレートで、銅線も工房で手配出来たので宿にある太陽光パネルを持ち込んで屋外に置いて配線する。
塩水は岩塩を水に溶かしてから容器に入れて電極と太陽光発電パネルを電線で繋ぐと+側の電極板表面に塩素ガスの気泡が発生し、-側の電極では水素ガスの気泡が出て容器上部から繋がるガラス管を通って、隣の水を入れた回収容器に送られて容器内の水と反応して塩酸が出来る仕組みだ。
朝から夕方までの間、電気分解して回収瓶に溜まった塩酸を保存容器に移して濃度を測ると数パーセントの水溶液が得られた。
試しに手で扇いで臭いを嗅ぐと塩素臭がするので、後は大量に製造して厳重に保管する段取りをするだけだ。
ミーシャを通じてターシャに公衆衛生に使える塩化水素の使用法と取扱いでの注意事項を伝えて、公衆衛生局で厳重に管理するようお願いした。
これで当面は塩素が製造可能になったが、電気分解で塩素を取り出した後の塩水中には低濃度の水酸化ナトリウムが生成される。
溶液はアルカリ性の特性を持ち、酸の中和剤や、鞣し革の加工にも使えるので、天日乾燥させて水分を飛ばした後に残った結晶物を集めて保管する。
この世界で化学薬品を取扱いする場合、現地の環境汚染を防止すると共に、自然保護を考えた開発を軸にして技術支援をしないといけないと改めて思う。
発電機の図面を作成する際に考えるのは、この世界で可能な技術を使った物でないと実現出来ないので、構造はシンプルなDCモーターの構造を元にして製作することにして図面を起こしたが、そこで永久磁石の入手方法が可能か?というのが問題になり工房で確認すると、材料の磁鉄鉱と思われる鉱石が工房の片隅にあることを突き止めた。
永久磁石とエナメル線、電極ブラシ、軸受け、スプリングなどの製作に付いて指導して簡易なモーターを水車や風車の軸にギヤを取り付けて回転数をUPすると充分な電力が得られると考え工房の職人と打合せの日々が過ぎ、そうこうしていたら炭焼き窯が完成して、炭焼きの実証実験の日がやってきた。
火入れ後は昼夜3日、火口に薪を投入して送風機で窯内部に高温の空気を送り、その後数日かけて窯を冷やして炭の出来具合を確認すると、備長炭のような炭が荷車一杯に出来あがった。
この炭を細かく粉砕して活性炭へ更に加工し、塩化水素で、内部洗浄した浄水器の容器や、ろ材にクレール商会の布を順に積層して上水道の水を注ぎ込み、試飲すると井戸水のような無味無臭な水が浄水器の下部から流れてきた。
その夜は、 工房のメンバーと一緒に完成の余韻に浸りながら祝杯を交わした。
宿にはどうやって帰ったかわからずじまいの夜であった。




