⑫ 家庭訪問
上水道の工事再開から30日が経って、最初の浄水場の位置に到達した。
地下から地上の浄水場への揚水ポンプを据え付けする工程において、トンネル上部の開口を石組みで固めてそこに揚水ポンプを組み込んで水が汲み上げられるか試してみて問題がないか確認しているが、ポンプ保守や点検の為の開口部の寸法を考えると、人が降りられる事を想定して直径は60cm以上の開口部となっている。
テストは傾斜ポンプの下部に水を満たした桶を置いてポンプのハンドルを回すと水が出てくるか試したがどうやら問題無く汲み上げられそうだ。
上水路の開通後の水位が30cm以上あれば汲み上げ可能で、予想される推定水位は1m~2mとなることから充分な余裕があると考えた。
浄水器の設置は準備に時間がかかる事から、設置するのはもう少しかかりそうだ。
後は同じ作業の繰り返しなので、技術指導を含めて今後の作業員対応をダグに任せて見ようと思う。
明日は作業が休みなので、午後から親睦を兼ねてダグの家を訪れることになった。
ダグの住まいは都市中央に近い広場に面した高級官僚の邸宅で、宮殿からは徒歩で数分の場所にある。
家に向かう途中の店で子供が喜びそうなお菓子の手土産を買って向かった。
家に着いてドアベルを鳴らすと老夫婦が現れ、少し後でダグ夫婦が顔を出したので自己紹介をして室内に入り、応接間で世間話をする事となった。
テーブルの正面にはダグ夫妻が座り、右側に両親が座っている。
「お休みの日に突然お伺いして申し訳ないです。」と言うと、ダグの奥さんのケイトさんが「主人より伺っております。本日はわざわざ我が家にお越し下さり、ありがとう御座います」と言うと、お茶の用意をする為に席を離れて行った。
ケイトさんは色白でスリムな知的な佇まいの小柄な女性で、ダグの色黒でガッチリしたマッチョな筋肉質な体格とは対照的な女性だった。
彼女の父親は白髪の威厳のある風貌で、評議員ということもあり老獪な騎士のような大柄な男性で、一方母親は落ち着いた小柄な色白の女性で控えめな雰囲気があり、父親に従う貞淑な母親という感じに思えた。
お茶の準備が出来る迄部屋を眺めていると、豪華なシャンデリアや、色彩鮮やかな絨毯や飾り棚、宝剣など如何にも貴族の部屋のような佇まいを醸し出していることから、この家の主がこの街の高貴な身分であるのが分かる。
ケイトさんの父親から「今回依頼の技術協力について、貴方にとっては初めての見知らぬ場所で、日々色々なご苦労があると思いますが、こちらの方で対処出来ることがありましたら遠慮なく息子に申して下さい」という申し出があった。
どうやらこの家の主は私の使命や依頼内容について熟知していることから、評議員というのはこの仕事の意義について良く理解しているのが分かった。
暫らくするとケイトさんがお子さんを連れてお茶の準備をして戻ってきたので、持参したお菓子をその子に手渡すと初めはキョトンとした顔をしていたが、中をのぞいてお菓子だと判ると嬉しそうな顔をしていたから安心した。
ダグの息子は栗色の髪で5歳になったばかりの可愛い盛りで、家族みんなから愛されているのが良くわかった
私はこれからの工事概要と必要な資材や労務に係る要員の見込みについてお茶を飲みながらダグと家族に説明して、父親に予算や財務状況について問題ないかを聞いて、これからの方針を考えることにした。
夕方までこの街の事について話し込んでいたので、ダグの家族に迷惑を掛けた事を詫びて退去することにした。




