表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

常務の娘 2

立夫が銀行に出向き、応接室に行った

 「君か、前島君は!?」

海堂が足を組みドカッとソファに沈んでいたが 姿勢をムクっと起こした 


立夫のふてぶてしい顔つきと堂々たる体躯に少なからず驚いたようだ

「電話で話した通りだ、娘を返してくれんか、君の話を聞こうと思ってきたんだ 」

海堂常務は社内報ではおなじみだが 会うのは初対面だ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


常務の娘は千賀子といい 27歳になる。立夫と肉体関係ができてから3カ月。

2週間前に妊娠していることが判明してから一気に炎上した 


「なにい?妊娠?しかも入籍しているだと?!」

聞かされた常務は寝耳に水だった・・

常務は千賀子については妻に任せ、家庭を顧みないわけではなかったが まさかこんなことになろうとは・・


「とんでもない野郎だ!そんな平行員などと結婚させてたまるか!」

妊娠したと聞いて激怒に輪をかけたのだ、

弁護士を通じて手切れ金を渡すから別れろと云って矢継ぎ早にやって来た 銀行も退職せよという高飛車なものだった

常務の娘、千賀子をモノにした経緯はあとで書くとして 千賀子を前島のマンションに住まわせ 事実上の夫婦になっていた

それを踏まえたうえで 立夫は娘を 返してほしければ支店長にしてくれと厚かましい条件を付けていた

支店長就任と引き換えに 娘を質にとると言い放ち 離縁などする気など毛頭ないから

父親である海堂は怒り心頭になって当然だろう・・・


立夫はこの件で千賀子の父親である海堂とは、電話で話すのは昨晩で3回目で 今日は初めての直接顔会わしての対決だった

これ以上の電話ではラチが開かぬとみてしびれを切らしたのであろう・・東京からわざわざの足を運んでの来訪である

「常務、何度言われても俺の求めに応じてくれない以上 返す気はないですよ 千賀さんから伝わってるでしょ?」

「ああ・・何度も聞いているがね・・支店長なんて出来ないよ 君は三流大学出でなんの実績もない。そんな人間を破格の昇格なんてさ 対内的に説得できないんだよ」


常務はでっぷりとした体格をゆすらせ・・あごの張った顔に黒縁のメガネだ・・上目遣いに人を見下した視線を飛ばしてくる 立夫にしたら 大きな態度をしやがってと反発したくなる


「常務、あなたのツルの一声で決まりだろが!・・最低でもそれぐらいにならないとね・・それが俺の承諾の条件だよ 俺はね 銀行に入ったのは金も欲しいが出世なんだよ・・」

巨大銀行の常務と言えばまさに天皇のような存在だ 普通なら対等に会うことすら叶わないが 敬語もやめて俺にしていた


「おまえは本当に卑劣な人間だよ 私の娘と知ったうえで近づいた そして出世の道具に使おうとしたのだ」常務は憎悪といら立ちをあらわにした


「そうだよ それが悪いか・・? 言わせてもらうが 千賀子のことは俺も本当に好きなんだよ 出世の道具だけとは思っちゃいないさ、千賀子はその辺判ってるはずだぜ 入籍だって俺から頼んだのではないぜ 千賀子から哀願されたんだ つまり俺たちは相思相愛なんだよ」


「疑わしいもんだ 千賀子はお前に騙されてるんだ・・別れさせたい・・ お前みたいなロクデナシとはな・・千賀子は美人でいくらでも縁談があったんだ それをお前みたいな男と・・


「親父さん そんな言い方はないだろ‥ロクデナシとはなんだ!俺から仕事を奪い干したのはあんたの指図だろ そんなことをしたところで 意地でも別れねえからな・・話は決別だな・・これだけは念のために言っておくよ 人事異動で左遷や地方に俺を飛ばしたら 千賀子を連れて行き あんたには返さないからな・・」


踵を返そうした。

「ううむ・・ま,前島君、待ってくれ・・わしが言い過ぎた 頼む 娘が妊娠したのなら 産めばわしの初孫だよ 勝手にしろとは言えないんだよ。母親から、泣きつかれてるんだよ 察してくれんか・・」


「・・・」


「支店長は無理だが 支店長代理はどうだろう・・其れならなんとかできる・・決裂はなんとも避けたくこうして足を運んだのだ」


呻くような哀願声を出した・・

「だめだね 代理なんて何の権限もない ここの支店長か 神戸か三宮の支店長だ・・いいかい?これだけは一歩も引けないぜ・・」

「わかった それなら こうしてはどうだろう 支店長就任は確約するが1年先にということにしてもらえないか・・」


常務は 内々で人事と話をつけてきたと経緯を説明した

「1年?・・長いな・・」


立夫はしぶった 

「常務、言っちゃ悪いが何が起きるかわからん人生だよ それに一年後に なかったことにしてくれと 反故にされないとは限らないからな」

「あはは 前嶋君 そう来ると思って わしの私案をもってきたんだ・・」


「なんですか??」

「わしの海堂という姓を名乗ってくれないか?」


「ン?」

「それはわしの義理の息子として 養子縁組をするってことだ・・それだけではない 大阪の難波支店長としてやってほしいのだ

「難波支店?」「そうだ、姫路支店よりでかいぞ!」

「・・・・」

「親父さん、難波支店なら すぐにしてくれるのかい?」

「ああ、そうだ 難波支店長は 外して地方に飛ばすことにしているんだ

それなら文句はないだろう?」


前島君 わしの話を最後まで聞いてくれ・・と 態度を変えてきた

海堂は10分ぐらい説明してくれた

聞き終えてから 立夫は少し沈黙した後 おもむろに答えた


「そうですか、その条件なら、妥協しますよ」

「おお、そうか、礼を言うよ しかし、君は度胸の据わった大した男だ、見直したよ・・」と

常務は相好を崩して 手の平返しの低姿勢で手打ちの握手を求めてきた


姫路支店長は無理だが 難波支店長ならOKだという街道の魂胆は分からないが話の内容は全く悪くないと思った 

(難波か姫路を離れるのはちと抵抗あるが 以前は門真にもいたし 知人もいる、なんといっても大都会の大阪だ こいつは面白くなったぞ・・)

銀行にはいって10年、窓際ばかりのたらいまわしだったが やっと俺にも運が回ってきたと思った

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ