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砂の城  作者: F
57/60

準備

娘のサヤと秀人くんから話を聞いた時には、(とうとうこの日が来たか)と思った。

実は、夫から〝秀人くんから相談があった〟と先に聞かされていた。


サヤが休日出勤の時に、2人きりでゴルフの練習に行った際、話があったという。今思えば、夫に先に話をしたくて2人で練習に行ったのだと思う。


〝サヤにはまだ話をしていないが、結婚準備の為に一緒に暮らしたい。ケジメをつけて、と言われれば先に籍を入れてもいい〟と秀人くんは言ったという。


夫は、3人でゴルフに行くから私よりも2人の様子が分かっている。

〝秀人くんと居ると、サヤが本当にいい顔で笑うんだ。秀人くんもサヤを大切にしているのが分かる。可愛がって育てた娘を取られる様な気分になるのは悔しいが、秀人くん以外にはサヤを任せられない気になっているのは確かだ〟と夫は言った。


〝一緒に住む話には賛成するの?〟私の質問に夫は、〝一度2人に任せてみないか?〟と言う。


〝どんなに好き合っていても、現実は厳しい所もある。上手くいけば結婚も考えればいいし、上手くいかなければまた温かくサヤを迎えよう〟


秀人くんは、私から見ても好青年だ。

挨拶もしっかりしているし、細かい所までよく気がつく。

夫やサヤでさえ気付かなかった、玄関先の花瓶でさえ、秀人くんは気付いた。

〝今日生けてある花は新しい花瓶とよく合ってますね〟


お正月の最後の休みの日に、帰ってきたサヤの顔が違った。

〝お母さん、明日からもう少し料理教えて〟

〝何かあったの?〟分かっているが聞いてみる。

〝また話すね〟

サヤから幸せそうなオーラが滲み出ている。

母親としては、娘の幸せを一番に祈ってあげなくてはいけない。寂しいと思う自分の気持ちを抑えてでも…。


「一度、2人でやってみたらいい」夫が隣で伝える。

「近くに住むと言ってくれてるし、ゴルフでも会える。秀人くんの出張の時には、サヤはこっちに戻ってくればいいし、ご飯も今まで通り食べに来なさい。急に居なくなると、お母さんが寂しがるから」

「はい」

2人が顔を見合わせている。

2人の幸せそうな姿をみると(これで良かったんだ)と思うしかない。



家から歩いて15分程の所でちょうどいい物件が見つかったと、サヤから聞いた。

秀人くんが先に引っ越しをし、サヤが少しずつそこへ荷物を運び込むという。


一緒に夕食の準備をしながら、サヤに聞いてみる。

「サヤは環境が変わることに迷いはなかった?」

人参をスライサーで細かくしながら、サヤは答える。


「一瞬だけね、この家が居心地良かっただけに、これからどうなるんだろうって不安がよぎったけど、秀人の顔見たら、大丈夫かなって。

前に秀人の上司が言ったんだって。〝今、何がしたいのか?〟って。

それを聞いてから、何か決断しなきゃいけない時は自分に問いかけるの。

〝今、何がしたい?〟〝今、何をしなきゃいけない?〟って」

「で、サヤの答えは秀人くんを選んだんだ」

「そう…今は秀人と一緒に居て、秀人と一緒に笑い合いたい」

「秀人くんで良かったの?」

細切りにした人参とキャベツを合わせる。

「秀人じゃなきゃダメだよ。私をこんなに大事にしてくれる人は他には居ないよ」

即答する娘の言葉に安心する。


「そうだね、秀人くんならサヤを一番に考えてくれるね」

ご飯が炊けた音が鳴る。

「ご飯よそって、お父さん呼んできて」

サラダを盛り付けながら、サヤに声をかけた。



うららかな春の日差しの中、玄関先で2人を見送る。

今日からサヤと秀人くんが一緒に暮らす。

秀人くんが大きいバックを持ち、サヤは紙袋を持っている。

「忘れ物はない?」

「あってもすぐに戻ってこれるよ」

「それもそうだね」


「秀人くん、サヤを頼むよ」夫が言う。

「はい」と返事をし、サヤと顔を見合わせる。


「じゃ…」とサヤが夫と私を交互に見た。

そして1つ落ち着くように息を吐くと、胸に手を当てて私達を見ながら言った。

「今まで大事に育ててくれて、ありがとう」


言いながら、涙をこぼすサヤを思わず抱きしめる。


「…幸せになりなさい」

サヤの頭を撫でながら、溢れてくる涙にそれだけ言うのが精一杯だ。

「お母さん、ありがとう…」

娘の成長を笑って送り出してあげたかった。


サヤの涙を拭い、「行きなさい」と声をかけた。

夫がそっと私の肩を抱く。

秀人くんが、深々と頭を下げてから、サヤの涙を拭った。

これからは、私の代わりも秀人くんが担ってくれるのだろう。


静かに閉まる玄関に、また涙がこぼれてくる。

「お母さん、感動してる所悪いんだけど早速明日ご飯誘ってあるから」

「えっ?」

「真由帰ってくるし、家族が増えたみたいで楽しいなぁ」


夫は能天気過ぎる。

でも、これに何度も今まで救われてきた。

「早く言ってよ。すぐに食材買ってこなきゃ。明日は何がいいかしら?」

「サヤの好きな炊き込みご飯と、真由の好きな茶碗蒸しがいいんじゃない?」

「それがいいわね」

パタパタと出かける準備をする。

今日のうちに出来る下準備をしておこうと思う。



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