オセロと宿題
お正月に食べすぎた胃の負担を考えて、今日は鍋を作った。
鍋の出汁は市販の物を使用したが、つくねは手作りしたし、牡蠣も入れてさらに出汁が美味しくなった。残った出汁は、後で雑炊にするために取ってある。
卓上コンロも鍋も新しく購入し、秀人の提案で鍋は2人にしては大きいサイズを選んだ。
「キッチン用品が増えたね」
「これで四季折々の調理器具が揃ったからね」
「秀人、お薬は?」
「もう飲んだよ」
病院へ一緒に行ってから、サヤが気にするようになった。安心させるために、キチンと管理する。
「急に暑くなったから、鼻水が止まらないよ」
「鼻をかんできて」
洗い物を秀人に任せて、サヤが席を外す。
「秀人電話鳴ってるよ〜」
「誰から〜?」
「杉山さん。この前のお友達だね」
サヤが携帯を見せる。急いで手を拭いて電話に出る。
秀人がサヤの顔を見て、一旦受話器から離して小声で言う。
〝鼻が赤くなってるよ〟
軽くサヤの鼻を触ると笑う。
ふくれっ面の表情を見せたサヤは、そのまま洗い物を引き継ぐ。
秀人がサヤと背中を合わせて、電話をする。
秀人の優しい声が背中を伝わってくる。
「ボードゲームでもしない?」
テレビは正月番組がまだ盛り上がっている。
「どうしたの?」
「すっごく前に買ったのが実家から出てきたんだよ」
「オセロ、久しぶり」
2人で盤を挟んで座る。
「サヤさん、この前の宿題考えてくれた?」
パチンと秀人が石を置く。
「直して欲しい所だよね。覚悟してぇ」
「ちょっと怖いんたけど…」
「まずは、靴下を脱ぎっぱなしにしないで欲しい。秀人家に着くとまず靴下脱ぐけど、脱ぎっぱなしなんだもん」
「…気をつけます。他には?」
サヤも考えながら、白い石を置き、挟んだ石の色も変える。
秀人も続けて置き、最初なので早いリズムでゲームは進む。
「たまに無意識で肩を鳴らす所。ボキッていうから普通にビックリする」
「それはホント無意識だよ。クセになっちゃってるんだよねぇ」
「他にはない?」
「あの時…」
「あの時?」
「ちょっと強引な時がある」
「あっ、それはごめん。オレに余裕ない時だわ」
サヤが一旦考えて石を置く。また色を変える。
「他にはない?」
「コンビニスイーツかな。私を喜ばそうとマメに買って来てくれるけど、もう少し頻度抑えてくれていいよ」
「分かったよ」
「他には…?」
「考えたんだけど…他は思いつかなかった。何かあったとしても、その次の瞬間には上回って支えてもらうから、リセットされちゃうみたい」
「何か少しホッとした…」
「秀人の番だよ。オセロも宿題も」
「はいはい。サヤさんに直してもらいたい所は…」
秀人が隅に石を置く。終盤に差し掛かって一度に3枚の色が変わる。
「オレにもっと頼ってもらいたい。この前も固いカボチャを切るのに頑張ってたけど、オレが近くにいる時位声かけてくれればいいのにって思う。」
「忙しそうだと、つい声をかけるのためらっちゃう」
「あの時別に忙しくなかったよ。サヤさん、相手に対して悪いかなぁって遠慮するのが普通になっちゃってる。オレには特に、何も気を使わず一度は声を掛けて欲しいな」
「分かったよ。他にはある?」
「結局、オレもサヤさんの笑顔見ると、この顔が見れるならいいやって思ってリセットしちゃうんだ。惚れた弱みで、なんでも許せちゃう。度を越しての非常識な所もサヤさんに限って無いしね」
サヤが石を置く。一気に色が変わる。
今の所、サヤの白い色の方が多い。
「でもさ秀人、今はお互いに〝好き〟という感情で補えている部分があるけど、あと20年、30年経った時に同じ様にいれるかな…?」
「サヤさんはどう?」
「今の秀人とならいれると思うよ」
秀人の左手がサヤの手を取り、サヤを見た。
「同じ時間を過ごす程、相手の気持ちが言葉にしなくても分かってくる。
サヤさん、今不安かなぁ、喜んでるかなぁって… 不安に思っていそうなら、抱きしめるし、喜んでるなら余計喜ばせようとする。
結局相手を思いやる気持ちと行動があれば、ずっと一緒に好きでいられると思うんだ。
それでも足りない部分はやっぱりとことん話をする。こうやって少しでも不満があれば解決に向けて話すし、日頃の何気ない会話で、もっと相手の事が理解出来るし、それが言葉にしなくても伝わる第一歩になるから」
「〝好き〟の範囲が広く深くなるのかな。信頼感や安心感も含んでより安定したモノに…」
秀人は頷いて、手をほどきサヤの頬を撫でる。
「オレと今まで一緒に居てどう?サヤさんにとって幸せな時間を沢山過ごせてる?」
「うん、秀人と居るとすごく楽しいよ。すぐに時間が過ぎちゃう」
「無理させてない?」
「無理する位ならこんなに一緒にいないよ」
「最近、出張から帰ってくると、家で待っていてくれるでしょ?抱きしめると、帰ってきたんだなぁってすごくホッとする。オレは、これからもサヤさんが待っていてくれる家に帰ってきたい」
「うん…」
秀人の次の言葉を待つ。
「このマンション来月末で契約更新なんだ。
サヤさんの家の近くでもう少し広い所を探すから一緒に暮らさない?」
「…それは同棲って事?」
「うん、結婚に向けて」
「本気、だよね?」
「冗談でこんな事言う訳ないだろ」
「秀人…」
サヤの両手を握る。
サヤの目にみるみる涙が溜まる。
ポロポロとこぼれると同時に抱き寄せる。
「ごめん、驚かせて」
「違うよ…幸せだなぁって思ったら涙が止まらなくなって…」
「バカだなぁ、サヤさんは。これ位で泣いてたらこれからもっと幸せになるのに、涙がたりなくなるよ」
ふふっとサヤが笑う。
ティッシュで涙を拭く。秀人は手で涙を拭う。
「また鼻が赤くなるから泣かないで」
「もう泣かない」
サヤを優しく見つめる。
「愛してるんだ。もうサヤさん以外は考えられない。プロポーズは改めてするけど、オレのお嫁さんの予約はさせて…返事は改めての方がいい?」
「もう私の返事は決まってる。私も秀人のお嫁さんになりたい」
そう言って、まだ涙の跡が残るサヤの笑顔に、秀人の胸もいっぱいになる。
秀人の優しいキスはしばらく続く。
いつものキスとは違って、安心感が増す。




