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砂の城  作者: F
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うつつを抜かす

「今日は何作ろうか?」

秀人の質問にサヤが答える。

「今日は餃子かハンバーグがいい。ストレス発散したいからみじん切りと捏ねるヤツ!」


土曜か日曜のどちらかに、秀人の家で一緒に料理を作るのが恒例になってきている。

一緒に何かを作るは楽しい。同じ時間と空間を共有して、感想も言い合えるから。


それにしても珍しくサヤが感情を露わにしてる。

それも秀人にだけ見せる姿だと思えば、微笑ましい。


「じゃ、お話を伺いますよ」

材料を買いに行った結果、キャベツが安かったので餃子になった。

秀人がキャベツの葉を剥き、水で軽く洗う。

サヤが何枚か重ねてみじん切りにしていく。


「私が、間違えたのが一番悪いんだよ」

そう先に前置きしたサヤの話を聞いてみる。


サヤの話はこうだ。

納品書のデータ入力が終わり確認していた所、ある材料の在庫が、発注した数と合わないことが判明したという。

その日のうちに納品書を遡ってみたら、データ入力した数値が違っていた事が分かった。

すぐに修正し、一旦集計をかけてしまっていたので、再度やり直す旨を直接江川課長と材料発注する管理課に謝罪しがてら報告をしに行った。


「たまたま担当が居なくてそこに居たのが伊藤主任だったの。そうしたら、なんて言ったと思う?」

「なんて言ったの?」

「男にうつつを抜かしてるからこうなるんだ!って」


「えっ?オレその時居た?」

「居なかったから打ち合わせでもしてたんじゃないかな」


最近時間をズラしているとはいえ、一緒に食堂へも行くし、社内で会えば普通に話もする。

2人が付き合っている事は暗黙の了解になっているが、派手な行動は控えているはずだ。


ボウルの中のひき肉を混ぜながら、サヤが悔しそうな顔をする。

「すぐその日のうちに気付いて直したのに!他の管理課の人なら軽く許してくれるのに!

他の人みたいにメールで連絡すれば良かった…」

具がサヤの手によってぐるぐる回される。

「はいはい、サヤさん野菜を入れますよ」

秀人がみじん切りした野菜を合わせる。


「何でそんな言い方するんだろう。私達が何か目に余る行動でもしたかな?」

「伊藤主任はサヤさんを気に入ってたから、妬みからだよ」

「もしそうだとしても、あんな言い方しなくてもいいのに…」


秀人が味付けをしていく。

もう一度混ぜ合わせて、包む作業に入る。


「オレから伊藤主任に言おうか?」

「いい。また何か言われちゃいけないし、秀人が嫌な気分になっちゃいけないし」


秀人はキレイにヒダをつけて餃子を包む。

「秀人作った事あるの?」

「子供の頃にやった覚えはあるよ」

「私もやった事あるはずなのにな。コツ教えて」


一緒に包んでいると、さっきまでのサヤがどこかへいってしまったように笑顔が戻っていた。

上手く出来ない、と笑いながら餃子を包んでいる。

きっと話す事で、スッキリしたのだろう。


食べる頃になれば、いつものサヤに戻り美味しい顔になる。

「すごく美味しく出来たねぇ」

「サヤさんのストレス解消が込められてたからね」

「おかげでスッキリしちゃった」

こういう引きずらないとこも、サヤを好きな理由の1つだ。





「伊藤主任」

コピーを取るために1人になった時を見計らう。

「向井さんが仕事でミスをしたのは申し訳ないのですが、プライベートの文句は僕に言ってもらっていいですか?」


「何の話?」

コピーを取りながらチラリと秀人を見る。

「先日、男にうつつを抜かしてるから、とか言われたとか」

「あぁ」


「仕事はしっかりやる人なんで、たまのミスをその言い方はないんじゃないですか?」

「でも、ミスはミスだろ?」

「すぐに修正して、謝罪にも来たのに、ですか?」


コピーを終えた伊藤主任は、

「オレ、お前と違って忙しいんだよ」

と言いながら、逃げるように去っていく。

分かり合えない人とはどこまでも平行線のままだ。

なるべく関わらないようにするしかない。

ふぅ~とため息をつき、気持ちを切り替える。


見積もりの確認を美玖とし始めた時だった。

「あれぇ?」と坂本課長が声を上げた。

「麻生、この材料どれだけ発注したか分かるか?」

美玖が、控えを確認する。

「1000×2000を5枚です」

「こっちは合ってるな」


隣の島に居る、管理課の課長にそのまま声をかけに行く。

「この前のシライさん所の材料、発注が10枚になってるけど営業課以外にも発注依頼かかってる?」


なんとなく成り行きが気になって、秀人も目で追ってしまう。

隣の美玖も気にしているようだ。


管理課長はパソコンをたたき、担当の伊藤主任に確認する。

「注文日も同じ日だし、もしかしたら二重なってないか?」

「いや、あの…」と発注依頼書をみながら伊藤主任があたふたしだす。

「この材料、デッドストックはマズいんじゃないか?」

管理課長がカレンダーを見る。

「もうキャンセル期間は過ぎてるぞ」


坂本課長が伊藤主任の側に立つ。

「で、実際欲しかったのは結局何枚なんだ?」

「営業課のみの5枚です…」


「伊藤主任、キミがこの前嫌味を言った向井さんは、自分のミスを認めてすぐに謝罪にきてたけどな」

伊藤主任が、勢い良く立ち上がる。

「すみませんでした」


「ミスは誰にでも起こり得る。それを周りでフォローしていくのが組織なんじゃないか?」

「はい…」


坂本課長が、管理課長へ近づく。

「ここの仕入れ先の常務を知ってるから特別にキャンセル出来るか聞いてみるよ」

「助かります」

伊藤主任も立ったまま頭を下げている。


秀人は会社携帯から坂本課長にメールを送る。

〝課長大好きです〟


すぐに返信がくる。

〝オレはそうでもないから、仕事しろ〟



材料倉庫に行こうと通路に出た所で、後ろから声を掛けられた。

「今泉、悪いが向井さんにこの前の事謝っておいてくれ」

バツが悪そうに、伊藤主任が言う。


「伝えておきます」

胸がスッキリし、身が軽くなったようだ。

早くサヤさんに伝えてあげなくては…



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