秀人の誕生日
「お誕生日おめでとう、秀人」
「ありがとう、サヤさん」
昨日の今日で少し気恥ずかしい。
今日は体を動かしたいという秀人の希望で、室内型のスポーツレジャー施設に行く。
「迎えに行った時、庭に居たお父さんにゴルフ誘われたよ」
「パットの練習してたから。秀人はやった事あるの?」
「大学の時、打ちっぱなしとショートコース位はね」
今日もよく晴れているが、明日から天気が崩れるらしい。
「お父さん、秀人に教えたくて仕方ないんだよ。娘2人は興味示さなかったから」
「今から行く所で先に練習しとくよ」
サヤが助手席でホームページを開いて、施設を説明する。
秀人はサヤとをイメージして、ついニヤニヤする。
「サヤさん、何部だった?」
「小、中は陸上で高校はお遊びで卓球だよ。秀人は?」
「小学校はサッカー、中、高はバスケ、家の近くにバッティングセンターがあったから、野球もやったよ」
「何でも出来るね。何から行く?」
「手前から回ってこ。まずはバッティングから!」
秀人はやっていた、というだけあって120キロの球速でもキレイに打ち返す。
ネット裏で一緒に見ていた中学生らしき男の子達がざわつく。
「130キロ行って!」
子供達からリクエストが入る。
「余裕、余裕」
快音とともに、球は大きく飛び限界のネットに当たる。
「おぉ〜!」
「サヤさんは隣の打席のソフトボールでやるといいよ。球が大きいし当たりやすいから。
キミたち!オレが見ててやるからやってみるんだ!」
サヤは髪を束ね、ヘルメットを被る。
秀人がネット裏に立ち、声を上げる。
「ちゃんと球を見ろ!手だけで打たず、腰から回転させるんだ!」
「サヤさんは、打つ時に水平にバット動かして」
「ちゃんと最後まで振り切れ!遠くまで飛ばないぞ!」
「サヤさんは、バットもう少し短く持って手の間は離さないで」
「当たったからって満足するな!内野ゴロだぞ!」
「サヤさん、ナイスバッティング!」
先に打ち終えた子がネット裏に戻ってくる。
「彼女さんと違いすぎない?」
「そう?」
少年たちと別れ、テニスコートに移動する。
「1回練習してみよ。おヘソの位置で打つんだよ」
秀人のフォローもあってか、初心者の割にラリーは続く。
「サヤさん、上手いよ」
「結構卓球と似てて楽しいかも」
「よし、目標15回にしよ。とりあえずネット越えてくれればいいから」
サヤが上手く返せなくても、秀人がフォローしてくれるのでラリー回数は続く。
「サヤさん、ゆっくりでいいよ」
「あと3回!」
「ラスト!」
最後は、返した所で座り込んでしまう。
「緊張した〜」
サヤが笑う。
秀人もそれを見て笑いながら、立ち上がるのに手を貸しにくる。
「疲れた?」
「まだ大丈夫、次何しよっか?」
「あそこのパターゴルフしよう」
暑くなったサヤは上着を脱いで、半袖Tシャツになる。
「私意外とこれ上手いよ」
自分で言うように、距離間の勘がいいサヤは結構な距離があってもカップに沈めてくる。
真剣にカップまでの距離を測る姿を見守る。
白いTシャツと首元が眩しい。
昨日のネックレスも輝いている。
「サヤさん、ゴルフ絶対向いてるよ」
秀人は最初こそ何度か打ったが、次第に持ち前の器用さで順調に上がる。
「サヤさん、本格的に一緒にゴルフ始めない?」
「お父さんが張り切っちゃうかもね」
「いいじゃん!3人でコース出たいなぁ」
「親孝行になるかな」
サヤが水分補給してる間に、秀人がドリブルからシュートまでのバスケ練習をしてる。
華麗にシュートまで決める姿に見惚れてしまう。
時々サヤの方を見て、気にしてもくれる。
「カッコいいよ!」
サヤの声援に、レッグスルーも披露して、シュートまで持って行く。
「オレにも飲ませて」
サヤから飲みものを受け取ると、美味しそうに水を飲む。
「やっぱり久しぶりだと感覚が鈍ってるな」
「そう?すごくカッコよかったよ」
「それは、カッコつけてたから。コツ教えるからスリーポイント練習しない?」
秀人から、ボールの持ち方、姿勢、ゴールまでのボールの軌道を丁寧に教わる。
フォームを安定させながら、段々距離をのばす。
「サヤさん最後に手首のスナップ効かせてみて」
秀人が隣で見本を見せる。
次にサヤの手を持ち、ボールを置く。
「小さい手だなぁ」
「今さら?」
「改めて思っただけだよ。さぁやってみよ!」
次第にリングに当たるようになり、何度目かで決まった。
「サヤさん、ナイス!」
「やったぁ!」
秀人とサヤの楽しむ声や笑い声がいつまでも続く…
「体動かしたし、お昼は軽くにしたからお腹空いたでしょ?」
女将さんの店で定位置に着いている。
「今日は全部女将さんのお任せでお願いしちゃった」
「予約しといたの?」
「昨日来れなかったからね」
まだ開店して間もないけど、結構お客さんが居る。
「久しぶりに体動かすと気持ちいいね」
秀人が、体を伸ばしながら言う。
「私は定期的にジム行ってるけど球技、楽しいね」
「ジム通ってどの位たった?」
「来月で半年かな。そういえば、紹介しなくて良かった…?」
秀人がお茶を飲む。
早速女将さんが、小鉢と刺身を持ってきてくれた。
「一緒に行きたいけど、ジムはサヤさんの1人時間にして。それも大切だからさ」
「信じてくれてるんだ」
「当たり前だろ。
今日思ったけど、姿勢が良くなったよね」
あぁ、とサヤが言う。
「インストラクターの人が、背中を鍛えるといいって鍛え方教えてくれるの。」
「男のインストラクター?」
サヤが笑う。
「信じてくれてるんじゃないの?
ちゃんと彼女居るって言ってたよ」
秀人の箸が止まる。
「何で彼女居ること知ってるの?」
「最近上手くいってないんだって。相談にのってほしいって話を聞いてるからだよ。ん、この里芋の煮物美味しいね」
サヤの美味しい顔に追求出来なくなってしまう。
「2人では会わないでよ」
「会うわけないじゃん」
「はい、揚げ物だよ〜。
秀人、あんたの好きなエビフライはサービスだよ」
「おぉ、路子さん。ありがとう」
「趣味じゃないけど、たまには秀人も撮ってみよっか」
女将さんがエビフライを食べる秀人を撮って、サヤとコソコソ笑っている。
「ちょっと、何?写真見せて」
女将さんはさっさと携帯をしまい、「インスタ見て」と行ってしまう。
「なんだよ、もう」
携帯を出して、確認する。
「コレ、オレじゃなくても良くない?」
伏し目がちで正面を見てないし、エビフライがメインだ。よっぽど知ってる人しか秀人だと気付かない。
「サヤさんとは扱いがまったく違う…」ブツブツ文句言う秀人が面白くて、サヤは静かに笑っている。
「秀人甘いの苦手だから、ケーキを何にするか女将さんに相談したの」
「うん、うん」
「そしたら女将さんが作ってくれたの!」
サヤが指す方向を見ると、フルーツが沢山のったタルトケーキを路子さんが持ってきてる。
「すごいじゃん、路子さん!」
「美味しそう〜!」
「2」と「4」のロウソクを飾ると、女将さんが
「シュウトをお祝いしまぁす」と声を上げた。
どこからともなくハッピーバースディトゥーユーの歌が始まる。
お店に居る人がみんなで手拍子をして、秀人に注目しお祝いしてくれてる。
最初は恥ずかしそうにして、サヤに助けを求めるように見ていた秀人も、サヤの笑顔に助けられ、歌が終わる頃には胸がいっぱいになったようだ。
大きな拍手の中、火を消すタイミングで
「オレは、幸せ者です!」と宣言し、一気に火を消した。
いつまでもなりやまない拍手に、サヤと2人で顔を見合わせて笑い、みんなにお礼を言った。
「路子さん、このケーキなら1ピースいけるよ」
「そうでしょ。上はフルーツで下はチーズケーキにしたから。あんまり甘くないから、苦手な秀人でも食べられると思ってね」
「女将さん、甘いもの好きの私でも美味しいです」
2人で食べきれない分は、来ていた子供達にお裾分けする。
「女将さん動画撮りました?」
「もちろん!ウチで誕生日祝いをやりませんか?って宣伝できるじゃなぁい」
「さすが!」
女将さんに送ってもらって、秀人と一緒に動画を見る。
「秀人、幸せそう…」
「実際、幸せだけどね…。ありがとうサヤさん」
「おめでとう、秀人」
女将さんにお礼を言って店を出る。
「少し歩く?」
「うん」
「この2日間が楽しくてすっかり忘れてたけど、明日から普通に会社なんだなぁ」
「明日は月曜日で、材料沢山入ってくるし、雨予報なんだよなぁ」
手を繋いだまま、2人で顔を見合わせて、暗くなってしまう。
「オマケに木、金と出張だった事も思い出した。サヤさんと会えないなぁ」
「長期の出張じゃなくて良かったけど、寂しいなぁ」
2人で顔を見合わせる。
「サヤさん、やっぱりオレの家行かない?」
「秀人にまだ渡せてないプレゼントもあるし」
「よし、そうと決まれば戻ろう」
来た時よりも帰りの方が早足になる。
腕の中に居るサヤが愛しくて、何度も至る所にキスをしてしまう。
「くすぐったいよ…」とサヤがクスっと笑う。
「寒くない?」サヤの白い肩が布団に入るように掛け直す。
「秀人の体温で温かいよ」
「良かった…」
「秀人はどんな1年にしたい?」
サヤが秀人の顔を優しく撫でる。
「そうだなぁ、仕事はひたすら頑張る。お客様の満足気な顔が見たいから、とにかくがむしゃらにやるよ。
私生活は、サヤさんと一緒の時間を沢山作りたいな。サヤさんの笑顔を一番に見たいし、ちゃんと2人で話し合いをしながら大切に過ごしていきたい」
「うん…ありがとう」
「サヤさん眠い?」
秀人がサヤの頬に触れる。
「まだ眠くないよ」
秀人が深いキスをするから、思わず声が漏れてしまう。そのまま秀人に身を委ねる。
「誕生日プレゼントだけどね、キーケースにしたよ。実はお揃いにしたんだ」
「いい色だし、使い勝手よさそう。
今日沢山お金遣わせちゃったのに、ありがとう。
早速使ってみてもいい?」
「どうぞ」
秀人が今までの鍵の束から1つずつ、キーケースに鍵を取り付けていく。
「ちょうどいいよ。サヤさんありがとう」
サヤに優しくキスをする。
「ついでにウチのスペアキーも渡しておくよ。いつでも入っていいから」
「ホント?じゃあ、私も早速つけよっと」
お揃いのキーケースが出来上がる。
「もう1つの大きいプレゼントはまだ家だよ」
「サヤさんの匂いつき?」
サヤが笑って言う。「新品だよ」
「本当は本人が一番いいんだけどなぁ」
そう言ってサヤを抱き寄せる。
「明日ジム行く?」
「土、日行ってないからね」
「キスマークつけといてもいい?」
「例のインストラクターの人?
つけてもいいけど、大好きな彼が居るよって言ってあるよ。そんなに不安にさせてる?」
秀人から離れて、「どう?」と聞く。
「信じてるって言っておきながら、余裕がなくてごめん」
サヤが秀人の手を握り、お互い見つめ合う。
「サヤさん…」
秀人とのキスは何度しても、胸が疼く。
「愛してるよ。オレを好きになってくれてありがとう」
「わたしこそ」
今度はサヤからキスをする。いつもと違うから、またドキドキする。
送ってきたサヤの家の前で、サヤが助手席を開けた。
「秀人、コレ例の抱き枕とお父さんからプレゼントだって」
サヤが持ってきてくれた袋を開けてみると、ゴルフのグローブが入っている。
「お父さん起きてる?」
「今日は飲んで寝ちゃってるから、お礼は言っておくよ。お父さん、逃がさないぞって感じだね」
サヤがニコニコ笑う。
「ウチは姉妹だから、秀人の事嬉しいんだと思うよ」
「うん、また会った時にお礼言うね」
サヤに軽くキスをして、手を振る。
今日1日の幸せを噛み締めながら、ハンドルを握る…。
次の投稿は明日の6:30になります。




