同い年の1日
秀人の車の中には、大小のバケツとヘラ、スコップが見える。
2リッターのペットボトルには手を洗う用の水が入っているという。
汚れてもいい上着と膝まで上げられるパンツに身を包み、海に向かう。
誕生日だし買えばいいよ、と秀人は言ってくれたが、せっかくならと早目に起きてお弁当を作った。
「お誕生日おめでとう」
「ありがと。明日は秀人の番だけどね」
「今日だけ同い年の、1年の中では特別な日だよ。それなのに、お城作りで良かったの?」
「すご〜く楽しみにしてきたんだよ!」
満面の笑みのサヤの顔に満足して、アクセルを踏む。
天気もいいしちょうど干潮と時間が合って良かった。
海までの道は、サヤの好きな音楽を流し、時折顔を見合わせ、笑いながら話をして、幸せを噛み締める。前回来た時とは大きな違いだ。
「昨日の定期検診、問題なくて良かったね」
「前回よりもさらに数値が良くなってるって。3ヶ月後にまた良ければ薬の量も減らしてくれるみたいだよ。サヤさんといると沢山笑うから、幸せホルモンが出ていいのかも」
「それならもっと沢山笑ってもらわなきゃ」
突然サヤが音楽に合わせて歌を歌い出す。
秀人も一緒に合わせる。
サビまで歌い終わると、また顔を見合わせて笑う。
「ホントにこの曲好きだね」
「うん」
「おかげでオレまで覚えちゃったよ」
車から降りると一気に海の匂いがしてくる。
自然に体を伸ばして、海の空気を吸い込む。
少し暑いくらいで風はない。
「サヤさん、帽子は被っておいた方がいいよ」
波打ち際近くまで荷物を運んで置いておく。
お城を作る位置を決めて秀人主導で底の空いたバケツに、スコップで砂を詰めていく。
ぎゅうぎゅうに砂を押し込んだバケツをひっくり返し、平坦にしておいた砂の土台の上に乗せた。
靴に砂が入るのが嫌になって、途中で裸足になる。
秀人がケガの要因になる物がないかと、確認している。
「この上から海水をかけて砂を固めるんだよ」
バケツで汲んだ海水を、穴の空いた部分に浸透させた。
しばらくしてから、バケツの周りを叩いてそっとバケツを持ち上げる。
プリンをお皿に出す時に似ていて、思わず歓声を上げる。
小さいバケツは二段目にする。
子供用のバケツで底がデコボコしてる。
ひっくり返すと、ちょうどお城の塔の上部分が出来た。
秀人は少し離れた所で、同じようにして三段の城を作った。
「お城と、お城をつなげよう」
城と城の間に砂を積み上げつなげると、ヘラを使って平らにし、段差をつけ、階段を作っていく。
側面の余分な部分は、秀人が上手く削り取ってくれた。
「すご〜い」
結構形になってて、びっくりする。
崩れないように、霧吹きで水をかける。
一旦お昼にしよう、とビニールシートに腰掛けて、海を見ながらお弁当を開ける。
「はい、大きめのおにぎりにしたよ」
「ありがとう」
「おかずはね、女将さんに教えてもらった唐揚げと厚焼き玉子と鮭の味噌焼きと…」
「全部美味しそうだよ」
厚焼き玉子を食べて、ウンウンと指でオッケーサインを出す。
食べながら、投げ出した足の大きさの違いに気付きお互い顔を見合わせた。
足を並べてみると、秀人が後ろへ下がる。
「足が長いって言いたいの?」
思わず食べる手を止め、サヤが言うと、秀人は笑って帽子を上げてサヤのおでこにキスをした。
「食べちゃったら、お城の装飾しよう。それで完成だよ」
サヤは竹串で窓を作り、近くから小さい貝殻を集めてお城を飾っていく。
秀人は、ストローを使って角に丸みをつけ下から上へキレイに模様を付けている。
「秀人すご〜い!」
かなり手の込んだお城が短時間で出来上がっていた。
「美術の成績は良かったんだ」
「すごい器用だね〜」
「サヤさんの方も可愛く出来たね」
「携帯持ってくる」
水で手を洗い流して、砂を落としてから写真を撮る。
全体的な写真を撮ろうと後ろに下がると
「サヤさん、後ろ!」と秀人が言う。
波がくるぶし位まで来ている。段々潮が満ちてきているらしい。
「足が濡れたぁ〜」サヤが大きな声を出してキャッキャと笑う。
足裏に当たる砂が波にさらわれていくのがくすぐったい。
帽子も取って大きな声で楽しそうに笑い、波と戯れるサヤを見続ける。
秀人にはそんなサヤが眩しく映る。
「もう少しで、波に持っていかれちゃうね」
ビニールシートに座って2人並んで海を眺めている。
秀人が言葉少なくなっているのは、入院中に考えた事が影響してるんだろう。
「シュウト…」サヤが優しく秀人の手を握る。
秀人がサヤをみる。
「秀人は私の英雄なんだよ。
何年もあの塔の上で助けを待っていた。
毎日無気力だった私を救って、日常に色を付けてくれたのは秀人だよ…。私を救い出してくれてありがとう。
そんな事を思い出させてくれたから、このお城作った事も時間も無駄じゃないよ。
たとえ跡形も無くなってもね…」
「サヤさん…」
どちらともなくキスを交わす。
「この後路子さんのお店行こうと思ってたけど変更していい?」
秀人が、サヤの髪を触りながら聞く。
「どこか行きたい所があるの?」
「オレの家で何か美味しい物作るよ。ケーキは買ってあるんだ。美味しいケーキって評判らしいよ。
それで…釣られたフリしてほしいんだ…」
秀人がまっすぐサヤを見る。
「…うん」
隣で包丁を握るサヤを何度も見てしまう。
髪は軽く束ね、砂で汚れた服は乾かしているので秀人のスエットを着ているが、あきらかに大きい。
「何度も見ないで。恥ずかしいから」
「もうお互いを知ったんだし、そんなに恥ずかしがらなくても良くない?」
「うるさいなぁ、もう」
恥ずかしがるサヤがまた可愛くて見てしまう。
「このビーフシチュー、市販のルーでも全然美味しいね」サヤが美味しい顔になっている。
「サラダも食べて」
「うんっ!このドレッシングも美味しいよ」
〝この前ネットで見てね…〟と話す秀人の料理は、始めたばかりにしては、とても美味しいし、彩りも考えてある。
何でも器用にこなすタイプだと改めて思う。
器も、ゴールデンウィークに一緒に選んだものだ。
サヤ用のお茶碗もお箸もお揃いで嬉しい。
「一緒に食べるご飯は美味しいね」
そう言って、サヤが笑った。
ケーキにロウソクを立て、火を付けて、部屋の電気を消した。
ロウソクの火がユラユラ揺れて、2人の顔がオレンジ色になる。
「23歳はどんな年にしたい?」
「仕事は、新しい事にチャレンジしたいな」
「おっ、素晴らしいね」
「プライベートは、秀人と沢山笑いたい」
「絶対そうしよ。サヤさん、火を消す前にキスしよ。写真も撮ろう」
淹れてもらったコーヒーと一緒にケーキを食べる。
「このケーキ、生クリームがすごく美味しいよ!」
「会社の人に美味しい店を聞いたんだ」
「秀人、甘いの大丈夫なの?」
「瑛人が良くなるように、願掛けでお酒と止めてただけだから…でもやっぱり甘すぎちゃうね。サヤさんのなら食べれるけど」
そう言って、サヤの口元に付いたクリームを拭き取って舐めた。
「誕生日プレゼント、何にするか迷ったんだけどね…」秀人が箱からネックレスを取り出した。
「すごく可愛い…」
「サヤさんに似合うと思って…付けさせて」
首に手を回して金具を繋ぎ、頬にキスをする。
「やっぱりよく似合うよ」
「ありがとう」とサヤが微笑む。
「もう1つ…」
「えっ、もう充分だよ」
秀人が携帯を見せる。
「サヤさんの好きな歌手のライブのチケット取ったよ」
「えっ!」
サヤが手で口元を押さえる。
「チケット…なかなか取れないんだよ?」
「喜ばせたくてつい頑張っちゃった」
「すごい、秀人。でも私、明日こんなにいろんなプレゼント用意できてないよ?」
「今日、サヤさんと一緒になれた事がオレにとっては一番のプレゼントだよ」
「でもそれは私にとっても同じだから…」
お互い見つめ合ってするキスは何回目だろう。
1回、1回長さも深さも違うけど、同じ気持ちなら合わせる事が出来る。
「秀人、帰れなくなっちゃうよ…」
「ちゃんと送るけど、もう少しだけオレに任せて…」
次の投稿は明日の6:30になります。




