足跡をたどる
秀人の話は、一語一句聞き漏らさなかった。
話している時も、秀人から目を離さなかった。
でも、すぐには返事が出来なかった。
秀人は持っていた砂をその場に落として、手の平の砂をパンパンと払った。
「もうオレの気持ちは変わらないから、いつまでも返事は待つよ。今日は話を聞いてもらえただけでも良かった。」
「うん」
サヤもゆっくり立ち上がる。
「せっかくだからさ、もう少し歩かない?」
秀人の提案にサヤが頷く。
2人で並んで、歩きながら最近の話をした。
それは今までよりもぎこちなく、当たり障りのない話題になった。
何かを避けているような、深く踏み入れてはいけないような。
本当は話したい事があるのに、話さなくては前に進めないのに、お互い言い出せなかった。
「サヤさん、ここで引き返そう。真由ちゃんに夕方までに帰るって言ってあるんでしょ」
「うん」
2人で来た足跡を戻ろうと、方向を変えた時、サヤが止まって手を出した。
「秀人、帰りは手を繋いで」
「いいけど、砂で汚れちゃうよ?」
「それでもいい」
秀人が微笑み、サヤの手を握り、サヤを見つめた。
2人でゆっくりと来た道を戻る。
しばらく2人とも無言で歩くが、繋いだ手が2人の気持を繋いでいた。
秀人が時折確認するように、下を向いて歩くサヤを見た。
しっかりと握り返してくれる手と温もりに安心し、距離が近くなって自分に正直になると、サヤの目から次第に涙がこぼれた。
「…病院で、手を握ってくれなくなった時が一番ショックだったんだよ」
「うん…」
「独りで答えを出さないでって言ったじゃない…」
「うん…」
サヤの頬を涙が伝う。
「食堂の前でも、今ならまだ引き返すのに〝間に合う〟って…」
「あの時はそう言うしかなかったんだ」
2人とも、立ち止まり向かい合う。
サヤは涙がとめどなく溢れ、しゃくりながら泣いている。感情が止まらない。
「この2ヶ月間、秀人を忘れるために私がどんだけ頑張ったかわかる?みんなにもすごく助けてもらったんだよ。
それなのに、何で今さらかき乱すの?なんで今さら私が必要なんて言うの?
どうして、最初から私を信じてくれなかったの?
2ヶ月間、忘れる努力をしてたのに、急に元の気持に戻れると思う?」
「本当にごめん…
ただあの頃からオレの気持ちは変わってないし、むしろそれ以上にサヤさんが好きだよ」
繋いだ左手が痛い位だ。
潤んだ秀人の目がサヤを見つめていて、繋いでない方の手がサヤを慰めていいか迷っている。
「なんでそんな事を言うの…?
秀人なんか嫌い、大嫌い!
でも…隣に居たら手を繋ぎたくなるし、笑って話したくなる。身体に触れたくなるし、抱きしめてもらいたくなる…こんな優柔不断な私が一番大嫌い!」
サヤは泣きながら秀人の胸に飛び込んだ。
秀人も砂で汚れた手に構わず、思い切りサヤを抱きしめた。
「オレが全部悪いんだから、サヤさんは自分を責めずに、オレを責めて…」
秀人はサヤの頭を撫で、サヤを落ち着かせる様にゆっくり話す。
「ずっとこうして抱きしめたかった…
抱きしめて、サヤさんに謝りたかった。
これからは今まで以上にサヤさんを大切にする。
だからもう一度オレと付き合って欲しい」




