表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂の城  作者: F
44/60

重ねる足跡

春の日差しが優しく届く。

少し湿り気がある固い所を選んでゆっくりと歩いた。

今日は風もなく波も穏やかだ。


すごく遠くに小さく船が見える。

あの船はどこまで行くんだろう…


後ろを軽く振り返るとサヤが歩いて来た足跡が一直線についている。

同じ歩幅で真っ直ぐに。


今日は奈緒と一緒に買った、春色のニットを着た。

新しい服が前向きな気持を後押ししてくれそうだったから。


足跡をもっと振り返りたくて、後ろ向きに歩き足跡を辿った時、驚いて足が止まった。


「何で…?」

彼はサヤの足跡となるべく重ねるようにして歩き、真っ直ぐ歩いてくる。


会話が出来る位の距離になった時、やっと止まった。


「その服、サヤさんによく似合ってる」

「…どうしてここにいるの?」

秀人はそれには答えず、言った。


「話がしたいんだ」



「サヤさんは汚れないようにここに座って」

秀人が着ていたアウターを脱いで敷いてくれた。


「うん」


2人で並んで静かな海を眺める。

波音だけが、繰り返し聞こえる。

サヤは少し居心地が悪くて、体育座りで顔を足につけてさらに体を小さくしてしまう。


「入院している時、子供の頃に参加した砂の造形大会を思い出したんだ。

沢山、沢山砂を積んで、お城の高い塔の部分を作った。

持ってきたヘラで形を作って、スプーンで窓をくり抜いたりして、上手く出来たねって褒められて嬉しかったんだけど、潮が満ちてしまえば虚しくも跡形もなく無くなってしまう…


瑛人と同じ病気だと分かった時、オレはあの塔と同じだなって思ったんだ。

周りに気を配りながら、一生懸命自分という塔を築き上げてやっと自信を持ち始めた頃に、潮が満ちてきてオレが跡形もなく無くなる…

今まで積み上げてきたものは何だったんだって虚しく思いつつも、それでも、これが自分の運命なんだって、受け入れるしかなかったんだ」


秀人はそっと立ち上がった。

砂を払いながら、波打ち際に近付く。

海水を含んだ砂を集め、球を作ると海に向かって投げた。


また砂を集めて、次の球を作って両手で握りながら、サヤを見た。


「それでも、オレ、やっぱり逆らいたいんだよ。この押し寄せる波に。

生きたいんだよ。生きて、生きて、生き抜いて、運命に逆らってやりたい。


一旦受け入れた〝死〟という選択より〝生きる〟事にこだわりたくなったんだ。


死ぬ事が怖いんだよ。

サヤさんと出会えたから。


命ある限り、一緒に笑って、一緒に楽しんで、一緒に喜んで、時にはお互いに怒って…サヤさんが悲しむ時も、オレが側に居たい。

オレの為に泣いてるなら、一緒に隣で泣きたい。


離れてみて分かったよ。

自分がどんだけサヤさんを必要としていたのかって。

オレの〝悲しませたくないから〟って理由が、どんだけ自分勝手だったのか、一緒に悲しんでくれる存在がどんなに大切だったのかって」


秀人は、持っていた球をもう一度波に向かって投げた。今度の球は、途中で割れて辺りに散った。


もう一度砂を手に取ってサヤを見る。


「サヤさんの気持をしっかり受け止めずに、一方的に答えを出してしまった事をすごく後悔してるんだ。結果的にサヤさんを沢山泣かせてしまった。

これじゃ、愛してるなんて軽々しく言えないね。


ただ、病気を発症した事は事実だよ。

それが理由で、今すぐに抱きしめたいのに、抱きしめてあげられない事もあるかもしれない。

涙を拭いてあげたいのに、拭いてあげられる状況にないかもしれない。

それでもいい、と思ってくれるなら…

サヤさん、もう一度オレにチャンスをくれないかな」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ