梓
「秀ちゃん、なんか久しぶりだね」
少し髪が伸びた梓は前と変わらず接してくれる。
「なんか梓と顔合わせるのが気まずくてさ、感じ悪かったよな、ごめん」
「ううん。秀ちゃんこそ大変だったと思うし…」
瑛人の部屋は、瑛人の遺言で梓が片付けをしてくれている。
本や雑誌が何冊か紐で括られて、あとは捨てるだけの状態だ。
他に取っておくものは、本棚にキレイに並べられてある。
「何か手伝おうか?重い物とかあればもっていくよ」
「ありがとう。こっちのはもう中身を確認したから捨てるだけなんだ」
梓が示したものを、階段下まで運んだ。
「久しぶりに瑛人の部屋を見たけど、アイツらしい部屋だなって改めて思うよ」
窓枠の上の方には好きな歌手のポスターが貼ってあるし、毎週買ってた漫画雑誌もまだそのままだ。
勉強机の上には、ミニカーがキレイに並べてある。
違和感があるとすれば瑛人が居ない事だけだ。
「秀ちゃん、これ見て」
梓がピアスの片方を見せる。
「今年のカレンダーの私の誕生日の所に、刺してあったんだよ」
「片方だけ?」
「そう。それにコレも見て」
梓が大事そうに、ファイルを開ける。
キレイに整理された中には1枚、1枚丁寧に伸ばされたサイズがバラバラのメモが入っている。
すべて瑛人の字だ。
「瑛人ね、この部屋の中に宝探しみたいに私へのメッセージをいっぱい残してくれてあるの。
毎週買ってた漫画には、一緒に笑った所に〝このシーン面白いな〟ってメモ入っているし、服の中からは、〝この服で梓の好きな映画見に行ったよな〟ってメモが入ってる。
小学校で描いた絵には、〝この頃から好きだったよ〟って。何度も見たDVDには、〝主人公のあの決めゼリフ言える?〟って書いてあるし、ミニカーの下からは〝雨の日の運転には気をつけろよ〟って…。
カレンダーには、初めてキスした日にハートのマークがしてあるし、私が忘れてたケンカした日もメモしてあるんだよ」
瑛人が梓に部屋の整理を頼んだ意味が分かった。
「この前机の下の方から【梓へ】って書かれた手紙が出てきたの。
私への感謝の言葉と一緒に〝梓はまだまだ楽しんでからゆっくりこっちに来い。他の人と恋愛してもいい、結婚してもいい。それも全てひっくるめて梓を愛してるから、安心しろ〟って書いてあるんだよ。
怒れたけど、後から考えると私を想った瑛人らしい手紙だな…って」
瑛人の事だから、罪悪感に苛まれないように梓の将来の可能性を考えての手紙だと思う。
「瑛人がどんな覚悟で、いつ頃から、死と向き合ってメモや手紙を残したのかと思うと胸が締め付けられるの。
でもね、私、この運命に感謝してる。
瑛人と出会えて、瑛人を好きになって本当に良かった。こんなに人を好きになる感情を教えてくれて、そして愛してくれた…。
瑛人の存在はなくなったかもしれないけど、私の心の中とここへ来れば至る所に瑛人は居るの。
だから、私は今幸せだよ」
瑛人、オレも逃げてないでもっと早く梓と向き合うべきだったよ…。
「まだこの部屋の中には、探しきれてない瑛人のメモとピアスのもう片方があると思うと、ここに来るのが楽しみなんだ」
梓がいい顔をする。
瑛人はよく言ってたよ。
〝梓にはオレが居なくなっても、上を向いて歩いて欲しい〟って。
秀人の目線からは、ポスターの右隅にキラリと光るものが見える。




