ポスター
小雨が降る中、会社に向かう。
今日入ってくる材料は、外で待機できないので倉庫内に無理やりでも先に入れる。
そこからは、スピード勝負で素早く検品して材料を動かしてもらわないと後ろが詰まってしまう。
なるべく早く家を出たつもりでも、道が混んでいる。
ふと、先日終わった選挙戦のポスター掲示が目に止まった。
候補者が雨に濡れて、泣いているようだ。
「私みたい…」
サヤは独り言を呟く。
既に終わったのに、泣いている。
もう終わったことで、泣いている。
そろそろ暖かくなってくるから、春物を見に行こうと奈緒に誘ってもらって休日気晴らしに出掛けた。
駅ビルから近くの百貨店まで足を伸ばし、飽きることなく見てまわる。
途中、刺激的な下着を目にして、奈緒に勧めてみた。
「倦怠期にはいいんじゃない?」
「たまにはいいけど…これじゃ隠れてないよ?」
2人で顔を見合わせて笑う。
今日の戦利品をテーブルの隅に置き、予定通りカジュアルなイタリアンのお店で夕食を取る。
「涼子が言った通り、ピザよりパスタの方が美味しいかも」
「うん、確かに。ワインはどう?」
「赤いのは値段の割に美味しいよ。
サヤは頼まなくて良かった?」
「今飲んだらまたみんなに迷惑かけちゃうから」
サヤが恥ずかしそうに笑う。
お昼に食堂へ行っても、全部食べきれなかった頃に比べるとサヤの食欲が戻ってきた。
最近はちゃんと味がする、とも言っている。
「そろそろ落ち着いて来た?」
奈緒に言われて、サヤは頷く。
「みんなのお陰。特に奈緒には心配かけてごめんね」
多少無理をしている所が見えるが、前に比べれば笑えてる気がする。
「ねぇ奈緒、ここは私が奢るからさ、デザート食べない?」
メニュー片手に、嬉しそうにしているサヤを見ると
良かった、と思う反面、残念な気がしてならない。
2人にはいつまでも一緒にいられるような信頼性が垣間見えていた。
どこかで、何かが、ズレてしまったんだろう。
おそらく時間が経てば、サヤも思い出話として何があったのか真相を話してくれると思う。
今は、細かい事をサヤが話さない限り、追求はしない。
多分秀人をかばっていると思うから。
「奈緒何にする?私はティラミスかな」
「じゃ、私はパンナコッタにするから半分ずつにしない?」
「いいね!」
思い通りの買い物と、美味しい食事で満足した2人は駅まで腕を組んで歩いていた。
「今度は靴見に行こうよ」とサヤが言う。
「今年は白のスニーカーが欲しいの」
「涼子も入れてみんなでお揃いにしちゃう?」
「うん!今日は涼子来れなかったからまた誘ってみよっと」
駅前の繁華街を抜けてると、会話の途中で2人同時に気付いた。
(あれは、秀人と麻生さんじゃない…?)
2人で申し合わせたように、歩く事を止め、前を見つめる。
不安からかサヤの組む腕の力が強くなるのを感じる。
麻生さんと話をしていた、秀人がこっちに気付いてサヤを認識した。
一瞬でサヤは腕をほどき、反対にむかって走り出す。
「サヤ!」
「サヤさん!」
奈緒と、秀人が同時に呼ぶ。
追いかけようとした奈緒が横目で店から出てくる悟を確認した。
(2人だけじゃなかったんだ…サヤの誤解を解かなきゃ)
「サヤ!」
奈緒がサヤを追いかける。
その時追いかけようとした、秀人は美玖に強く腕を掴まれて止められていた。
「秀人は行かない方がいい!」
「えっ?」
「中途半端な優しさは残酷なだけだよ」
何か起こったのかと、悟が近付いてきた。
「奈緒が居たよな?」
美玖が代わりに答える。
「向井さんを追いかけて行きました」
「サヤも居たのか?悪い、オレも向こう追いかけるわ」
店から他の営業社員も続々と出てきて、店の入口付近が急に賑やかになる。




