味覚
最近、ご飯を食べていても味がしない。
味覚がおかしくなってしまったみたい。
どうしても食べる量が減ってしまう。
母を心配させたくないから、無理やり最低限の量は食べる。
「おにぎりにする?」
残したご飯を見て母が言う。
「大丈夫、自分でやるから」
炊飯器からもご飯を足して、ラップに包んで握りだす。
今日のお昼の分とジムに行く前に食べる分だ。
横に並んで母も手伝ってくれる。
「サヤのおにぎりは小さいのよ。それじゃもたないよ。ジムも寄ってくるんでしょ」
炊飯器からまたご飯を足す。
「多いよ」
「ボディービルダーでも目指してるの?お腹割れてきたか、見せてよ」
母が服をめくってくる。
「ちょっと握ってるんだからやめてよ」
朝早くから、キャッキャと親子でじゃれ合っていると父が食卓につき、「オレにも、おにぎりちょうだい」と言っている。
〝はい、はい〟と母が味噌汁とともに用意しだす。
サヤを見送った妻に声をかける。
「…サヤはどうだ?」
「忘れようと必死みたいね。時間が出来たらジムへ行くか、独りでドライブ行くか、奈緒さん達と食事に行くか…予定を沢山入れて…。
周りの同期の子達が支えてくれてるみたいだから安心してるけど、ツラそうね…」
戻ってきて、隣に座った。
「この前酔ったサヤを連れてきてくれた大柄な子も同期か?」
「悟くんね。あの子久しぶりに会ったのに、〝お母さん、若返ってます〟って言うのよ」
妻が思い出したようにケラケラ笑う。
「お世辞だよ」
「分かってます。何にしてもサヤは頑張ってるから…
そういえば、私があなたと付き合っている時も、何度か泣かされた気が…」
「おっと、時間、時間」
慌ててその場を後にしながら、妻に声をかける。
「真由帰ってきたら、いつもの所予約して!」
「はい、はい」
食後に娘たちが大好きなケーキが食べられる、ホテルのレストランだ。
いつまでたっても娘達には甘い。
昼休み、女将さんのインスタが更新されているのを見つけた。
新メニューが出るらしい。
久しぶりに会いたくなる。
DMを送るとすぐに返事が来た。
〝看板娘待ってるよ〟
確か、秀人は明日は1日出張だと奈緒が言っていた。
営業部のホワイトボードを見たらしい。
だから、お昼は食堂で一緒に食べようと誘ってくれた。
秀人をなるべく避けているのを、奈緒もよく分かっている。




