白紙
「サヤ、今日は予定通りに終われそう?」
通りかかった奈緒に声をかけられた。
「うん、大丈夫だよ」
「じゃ、予定通りお店に集合で」
仕事に集中している時は、秀人の事を考えずに済む。
早目に仕事が終われば、最近入会したスポーツジム
に行き身体がクタクタになるまで、運動する。
インストラクターに、「会社で嫌なことがあるの?」と聞かれる位だ。
シャワーまで浴びて帰れば、何も考えずに寝るだけでもう次の日になっている。
今日は、奈緒と涼子と女子会の日だ。
2人と会話に集中して、上手く会社の話題をすり抜けられれば、きっと秀人の事を想い出す時間は減らせる、きっと…。
「奈緒?お前こんな時間に珍しいな」
川島先輩が電話しながら用紙を片手に席を外す。
コピーをしながら、何か話している。
時計を見て、時間を合わせている。
「…飲めないくせに何やってんだよ」と笑いながら戻ってきた。
「片付けたら迎え行く」
〝はいよ、はいはい〟とあとは簡単な返事をして電話を切った。
「奈緒さんを迎え行くんですか?」
さりげなく聞いてみる。
「奈緒と涼子はザルだから全く心配いらない。
サヤだよ、サヤ。飲めないくせに調子に乗ったらしい」
バタバタと後片付けを始める。
秀人が気にしてるのを分かって、聞く。
「奈緒がオレに連絡してくるってことは、サヤとお前何かあったんだろ?」
秀人がパソコンを打つ手を止め、悟を見た。
「男同士の協定は白紙だな」
〝おつかれ〜〟と挨拶しながら出ていく背中を目で追う。
至急の資料作りなのに、手が止まる。
気持ちが悪い…頭が痛い…
毎日の検品作業がなかなか進まない。
最近、誰よりも早く出社して仕事を始めるから、まだ材料倉庫には誰も居ない。
気を抜くと、うずくまりたくなる。
胃の辺りを抑えて、撫でていると向かってくる足音が聞こえた。
姿を確認して、また作業に戻る。
「飲みすぎたんだって?」
横から材料を動かす手を貸す。
「デスクにオレンジジュース置いといたよ」
サヤはまだ無言で黙々と作業を続ける。
紙包みを開いて材料を見て、止まる。
秀人もその材料に気づく。
「あの時にもう一度戻りたいね」
坂本課長と一緒に加工した、いつもはなかなか入ってこない材料なのに…
「こんな未来が待ってるなら私は戻りたくない」
サヤは、材料をまた紙包みに戻し納品書にチェックをする。
ペンを持つ右手をいきなり掴まれる。
「最近痩せすぎだよ、ちゃんと食べてるの?」
目をそらさずにこっちを見るから、サヤがそらすしかない。
「そろそろ他の人が出社してくるから、行って」
掴んだ手を離し、秀人が倉庫を出ていく。
サヤはまた胃の辺りを撫でた。




