隠れた言葉
ノックして入ると、半身を起こしていた秀人が
「サヤさん」と言った。
その一言で、胸が軽くなる。
いつもの秀人と同じだから。
「連絡出来なくてごめん」
「ううん」首を振る。
今日は顔色がいい。
「秀人、先にお花生けさせて。小さな花瓶持ってきたから」
近くの水道を借りて花を生ける。
「個室だから、気を使わなくていいね」
「実は月曜日にもう一度検査して、水曜日には退院出来そうなんだ」
「そうなんだ!思ったより早くて安心した」
床頭台に花を置く。
一気に華やかさが増したようだ。
「可愛いい花だね。サヤさんみたい」
秀人が赤い花びらを触る。
少し悲しそうな顔をしている。
近くにある椅子に座って、秀人を見る。
「秀人、手握らせて…」
昨日のように秀人の左手を、サヤの両手で握る。
早く元気になりますように…。
手の甲のホクロも愛おしい。
今日はその手がギュッと握り返してくれる…一瞬だけ。
次第に力が抜けていく手に、戸惑い、秀人の顔を確認すると、サヤをまっすぐ見ていた。
「これからのことを少し考えたいんだ。僕に時間が欲しい…」
〝オレ〟、じゃない。
秀人の中では、すでに答えが出てるの…?
顔が上げられなくなった。
絶対に泣かないと誓ってきたのに…。
「サヤさんをこれ以上泣かせたくないんだ」
秀人の手がサヤの顔を上げ涙を拭う。
「昨日から何回泣いたの?目が腫れてるよ」
だったらそんな優しそうに見ないで。
「分かってる?私が今一番悲しむのは、秀人を失う事だよ?」
「分かってるよ…」
「分かってない!」
涙を拭う秀人の左手を取る。
「お願いだから、独りで答えを出さないで…ちゃんと2人で話しをさせて…お願い…」
秀人がサヤの右手を握り返した。
「ちゃんと納得がいくまで、話しをしよう。約束するよ」
サヤの手を握った左手がまだ熱い。
サヤにもまたあんなに力があるとは思ってなかった。
床頭台にある花を見つめる。
梓はいつも白い色を瑛人の病室に飾っていた。
珍しく赤い色を持ってきた時に、聞いた事がある。
「秀ちゃん、この花は〝ストック〟っていうんだよ。花の色によって花言葉が違うの…
赤い色は〝私を信じて〟
昨日、ちょっと瑛人とケンカしちゃったから」
少し笑いながら、梓は言っていた。
〝私を信じて…〟
花びらにまたそっと触る。
これからは〝独りで泣くな〟という約束は破り続けなくてはいけない。




