透明人間
ロビーは色々な人が通る。
ガヤガヤしていて、服装もバラバラで、サヤのように会社帰りの人もいれば、松葉杖をついた人もいるし、子供連れの親子もいるし、医療関係の人もいる。
沢山の人が通るのに、誰もサヤには気を止めない。
透明人間になったように、周りから遮断されてしまって、周りだけが時間が経過して、サヤの空間だけ時間が止まってしまった。
「今日はわざわざありがとう。
サヤさんは、その…、秀人とはお付き合いを?」
秀人のお母さんとロビーの長椅子に座っている。
「正確には、瑛人さんの事が落ち着いたら、と」
「そうなのね…
あの子は昔から、自分の事より周りを優先する子で…分かるでしょ?」
「はい、私の事も大事にしてくれます」
お母さんを見ると、優しく頷いている。
「私の具合が悪かった時も、会社の後わざわざ寄ってくれる子で…。
瑛人の事で、気持ちと身体がなかなかついていけなくってね。
最近やっと、なんとか落ち着いてきた所だったんだけど…
瑛人の幼馴染の梓ちゃんの話は?」
「何度か聞いてます」
「一番は梓ちゃんが悲しむ事に、秀人はすごく胸を痛めていたの。自分達家族の事で申し訳ないって、事あるごとに言ってた。
瑛人の遺言で、部屋の遺品整理を梓ちゃんがしに来るんだけど、見ていられないようで梓ちゃんが来ると何処かへ行ってしまう」
「そうなんですね…」
「妹がたまたま聞いてたんだけど、仏壇の前でいつもより瑛人と長く話しをしてたみたい。
梓がこんな時に自分だけ幸せになって申し訳ないが、あなたの事はどうしても諦めきれない、だから梓には瑛人から謝っておいてくれ、って。
ただ、あなたを悲しませる事だけは絶対にしない、って」
少し沈黙が流れる。
ふと見るとお母さんの手が震えている。
「だから…私からこんな話しをして申し訳ないんだけど…秀人が今後どんな答えを出しても、察してあげて欲しいの」
秀人が今後答えを出す…?
「お母さん…それはどういう意味ですか?」
サヤが静かに聞く。
「私が…私が…全部悪いの。あの子達を健康な身体に産んであげられなかった…私が」
(あの子達…?)
体温が一気に下がり、震えが止まらなくなる。
声が漏れそうになるのを必死で手で押さえた。
お母さんが、サヤの手を握る。
「瑛人が発症した時よりも、医学も進歩して上手く付き合っていけるようになってるとお医者様は言っていたわ。でも、秀人がどう思うかは…」
「お母さん!病気のこと、秀人は?」
「もう分かってると思う。瑛人が倒れた時と同じだから…」
透明人間になってどの位時間が経ったのか分からない。
携帯が鳴っているのに気付き無意識で取る。
いつの間にか、雑音はせず、人もまばらで、静かになっていた。
「サヤ!何処に居るの?」
「お母さん?…秀人が…秀人が…」
止めどもなく溢れてくる涙が温かい。
頭がすごく重くて、もう何も考えたくない。




