未来の約束
秀人の出張が、いつもより長いものに思える。
仕事に集中していても、一瞬の隙をついて秀人を想い出す。
今は仕事に集中しよう、と何度も頭の中から追い払うも、何かの拍子に思い出して、心拍が上がってしまう。
「サヤ、おまたせ」
秀人が居ないからと、昨日のうちに連絡をくれていた奈緒が迎えに来た。
2人で食堂に向かう。
少し時間をずらしたから、混んではいないはずだ。
「秀人、出張どうだって?」
「ん~、久しぶりだから、疲れはどうしてもあるみたい。だけど頑張ってるよ」
「毎日電話くれるんだ」
奈緒が笑って聞く。
「電話もくるし、ラインもくるよ。さっきも音が鳴ったから、秀人もお昼で連絡してきたかも」
「マメだねぇ」
2人で日替わりを選んで、空いてる席に着き、しばらく近況を報告し合う。
限られた時間の中で、メールより直に聞きたい話題を確認するからなかなか忙しい。
少し時間をずらした理由もそこにある。
他に邪魔をされなくないから。
「最近2人でいる所を見たけど、付き合う話になった?」
サヤの顔が少しほころんだように見える。
「秀人の弟さんの事が落ち着いたら、そうしようって」
「よかったじゃない、おめでとう」
サヤの気持ちも秀人の気持も知っていただけに喜ばしい。今度、秀人にも言ってあげなきゃ。
「奈緒には色々話を聞いてもらって感謝してるよ。
今度奢るから、ご飯食べに行こう」
「私とでいいの?」
「奈緒とがいいの」
2人で顔を見合わせて笑う。
「秀人はホント、サヤに対しては一途だからなぁ。」
「自分で言うのも変だけど、私もそう思う」
「秀人が大変な時期に、サヤがよく心配してたでしょ。サヤに割く時間が負担になってないかって」
「今でも時々思う時があるよ」
「ほら、サヤはすぐそう考えるんだから。
そういう時は、素直に喜べばいいんだよ。秀人もサヤに会ったり話をしたりするのが嬉しくて、時間がなくてもそうするんだから」
「…そうだよね」
「もっと言えばさ、秀人もサヤを想うあまりに自分の気持を後回しにするところあるから、心配してる」
「そうなの?」
「秀人はかなり前からサヤの事が好きだったと思うよ。
それが、サヤの気持ちが追いつくまで待ってたり、サヤが恥ずかしがるのを分かってて、なるべく遠くから見守ったり、あれでも遠慮してるんだよ」
「奈緒、よく分かるね」
サヤが食べるのも忘れ感心している。
「こういう事は外野の方が見えてくるものなの、当事者達よりも」
「…私も秀人も奈緒には頭が上がらないな」
サヤは改めて奈緒に感謝する。
「ほらっサヤ、時間ヤバいよ。食べて、食べて」
最後は2人で急いで食事を終わらせた。
別れ際に奈緒に声をかける。
「今度、奈緒の事も聞かせてよ。あっ、涼子にも声かけて3人で女子会やろうか?」
「3人とも話すことは、山程あるね」
「涼子にも連絡いれとくね」
急ぎ足で現場事務所へ戻るサヤが、前より頼もしく見える。
秀人に愛されている自信がそこにはあるのだろう。
「サヤさん、暖かくなったらどこ行きたい?」
秀人からの質問に、う〜んと考え〝そうだなぁ〟と話し出す。
「女将さんのお店から少し走ると海があるでしょ。あそこの海でボーっと景色を眺めたり、砂浜を一緒に歩いたりしたいなぁ」
イメージすると今すぐにでも行きたくなってしまう。
「いいね、楽しみにしてて」
秀人の柔らかい声が届く。
「この前話した、大学の時の友達がこっちに遊びにくるって。サヤさんの事話したら、向こうも彼女連れて来るってさ。いいヤツだから会ってみる?」
「うん、楽しみにしてるよ」
未来の約束がまた増える。
「今日、奈緒と一緒に食堂行ったんだよ」
「それで、返信が遅かったんだね。
仕事が忙しくてキリがつかないかと思ってた」
「今度、時間が合えば一緒に食堂行かない?」
秀人が少し驚いたみたい。
「いいの?」
「空いてる時間見計らって」
秀人は笑い、〝サヤさんらしい〟と言う。
「今度社内業務の時に一緒に行こう。少し時間ズラして」
明日、やっと秀人が帰ってくる。
少し秀人が待つことになるが、仕事が終わったら駅までサヤが迎えに行く。
秀人のことだから、迎えの帰りはサヤに運転させないようにするだろう。
出張帰りの疲れた秀人に運転させるわけにいかないから、そこは断固として拒否しなくては…。
どちらにしても、早く明日になって欲しい。
早く手をつないで秀人と笑って話がしたい。




