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砂の城  作者: F
24/60

余韻

確かに雨足がひどくなった。

明日からの出張に響かなければいい。


〝今から会社出るよ。雨だから、着いたら連絡入れるよ〟


仕事をやり終えて、そのままサヤの自宅へ向かう。

出張前にあの笑顔に会っておきたいから。


最近、サヤに対して自制心が足りない。

離れたくなくて、いつも視界に入れておきたくて、体の一部が触れていたい。


それでも迎えに行く時は、その望みが叶うからまだいい。

別れた後は、記憶を辿って想い出すしかないから、虚しくなってまたすぐに会いたくなる。



「サヤさんの傘に入れて」

駐車場から女将さんの店まで、短い距離だが傘が必要な雨量だ。

秀人が傘を持ち、サヤの肩を寄せる。

こういう時、遠慮しなくて良くなったのも嬉しい。

歩き出す瞬間に立ち止まると、「?」と見せる顔に軽くキス出来るのも。


「ちょっと!」

少し赤らむ顔で小突いてくるサヤが可愛らしく、

「誰も見てないよ」と肩を寄せる手に力を込める。


いらっしゃい!、と出迎えてくれた相変わらず元気な路子さんに、オススメを聞いて注文する。


料理がくるまでの間、サヤは路子さんにお弁当のおかずについて、質問していた。

冷めても美味しいもの、隠し味、彩り…

今度、お弁当を持って出掛けようと約束した事を覚えていてくれたのだろう。


秀人は少しネクタイを緩め、くつろぎながらそんなサヤを見守る。



路子さんが持ってきてくれた、カキフライが今日のオススメらしい。


「携帯、携帯」と探してる路子さんに声をかける。

「今日も撮るんですかね?」

「雨だし平日だしサヤちゃんは可愛いいし、必須でしょ」

「別にサヤさんが良ければいいですけど?」


あれ?と路子さんが不思議そうに言う。

「いつも嫌がるじゃない、とうとう諦めた?」


「大人の余裕っす」

へぇ〜っと路子さんが声をあげる。


「女将さん、今日は写真にしましょう。動画はさすがに恥ずかしいです」とサヤが言う。


そう?と不服そうな女将さんだが、

「じゃ、サヤちゃんが言うなら写真にしようか」とポーズを求め、それにサヤも応じている。


早速投稿されたインスタを見てみる。

秀人が、ヤバっ、と言う。

机に突っ伏すまで、見た事ある光景だ。


そんな秀人から携帯を借りて、サヤも確認する。

「女将さん、この前も思いましたが写真撮るのお上手ですね」 


女将さんは、誇らしげに答える。

「コツは、サヤちゃんが心の底から〝美味しい〟って思ってる瞬間を見逃さない事!」


「なるほど〜」サヤが感心している。


店の扉が開いて、お客さんが入ってきたようだ。

「看板娘ちゃん見たから食べに来たよ」

どうやら近所の常連さんらしい。


「カキフライ売り切れたら、次、寒ぶりいくから!」

サヤを予約して、仕事に戻って行った。

 



美味しいご飯を食べながら、仕事の話を沢山して、同期や上司の話をして、サヤは新しく買った服の話を、秀人は大学の友人の話をして、家族の話をする。


会話の中で、笑い合ったり、共感したり、お互いの意見を言い合ったり、それが食い違ったとしても、同じ時間を共有出来る事が楽しい。


今までも、沢山話をしてきたつもりだったけど、また新たな秀人の一面が見つかるな、とサヤは思う。



「秀人、明日早いんじゃない?」

秀人の腕時計が視界に入って、驚く。


「もうこんな時間か」

秀人が携帯を確認する。


「ごめん、サヤさん。1本電話させて。さっき話した大学の友達から着信入ってる」

携帯を持ちながら、席を外す秀人を見送る。


「お腹いっぱいになった?」

1人になったサヤに女将さんが声をかけた。


「はい、今日も美味しかったです」

お腹の辺りを触ってしまう。


「サヤちゃん、秀人の事よろしくね」

女将さんに、改めて言われると緊張する。

「はい」


「この前、独りでふらっと来たのよ。

サヤちゃんと来るようになってからは、始めて」

秀人からは何も聞いてない…。


「独りでずっと考え事をしているみたいだったから心配してたんだけど、今日はいつも以上で安心した。

瑛人くんの事は聞いてたけど、何か思うところがあったんでしょうね」


独りになる時間は大切だ、とは頭では分かるけど、寂しさを感じるのは否めない。


「見てれば分かるけど、秀人はサヤちゃんが大好きだし、何かあったら力になってやって」


「分かりました」

サヤが笑顔で答える。




雨は相変わらず結構な量が降り、乗り込んだ車のフロントガラスが一瞬で曇る。


秀人が持っていたタオルでサヤの濡れている所を拭く。


「この前みたいに風邪ひいちゃっても送迎できないから」

「私はほとんど濡れてないから、大丈夫。ほら、タオル貸して」


秀人の濡れている所を拭きながら、

「この前とは逆だね」と笑う。


秀人がずっとサヤを見ていたのは、分かっていた。

サヤもわざと目を合わせなかった訳じゃない。

秀人の手がサヤの頬を撫でた時、やっと秀人を見つめた。


「私が今何を考えてるか分かる?」

「オレは早くサヤさんとキスがしたいなあって思ってるけど?」

サヤがそっと笑い、秀人の唇を優しく触る。


「心の底から〝愛してる〟っと思ってる瞬間を、見逃して欲しくないなって」


いつもとは違うキスに、鳥肌が立つ。

会えない間中、余韻を残す位に、体に刻まれた。


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