弱い部分
長い大学の休みが終わる真由を、新幹線が停まる最寄り駅まで秀人の運転で送りに来た。
昨晩決まった時に、秀人に余計なこと聞かないでよ、と念押ししておいたが、不安が残る。
母も、一緒に行こうかしら?と言い出したのでそれは断った。
秀人と真由は大学生活の話をしている。
フランクに接してくれるので、サヤも真由も気を使わずに済む。
真由は妹特有の雰囲気で、どんどん質問をするから秀人が答えるのが大変ではないかしら…と心配してしまう。
「ところで、お二人は付き合って長いんですか?」
突然の質問に、驚くサヤ。
「最近からだよ」
運転しながら普通に返す、秀人。
「秀人さんはお姉ちゃんのどこが好きなんですか
?」
「ちょっと待った!踏み込みすぎじゃない?」
急いで後部座席を振り返る。
「そう?」と真由。
隣から「そうでもないよ」と秀人。
「美味しそうに食べる所とか。仕事に向き合う姿勢とか。まぁそれは後から気付いたんだけど。
一番はやっぱり笑った顔かな。
サヤさんと初めて話した時はヒドかったんだよ。
定時で帰るのを生きがいにしてたからさ、オレの問い合わせにも話半分で帰っちゃって…
あの頃は仕事に対して素直じゃなかったよね?」
サヤを見る秀人。
「まぁね」
「食堂で友達同士、笑って話ししてるのを見て、可愛い人だなぁって思って会いに行ったから、去り際とのギャップに逆に興味持っちゃって」
「えっ、そうだったの?」
初めて聞く話だから驚く。
「もうそこからは、ずっと好きだよ」
妹相手に、聞いてるこっちが恥ずかしい。
「お姉ちゃんも、お母さんに料理習ったり、コスメ好きな私にお化粧品の事聞いてきたりするもんね。秀人さんの為だよね」
秀人がサヤを見て、そうなの?と笑って聞く。
苦笑いしか出来ない。
ロータリーで先に降ろしてもらって、真由を改札口まで送る。
「秀人さん、いい人で良かったね」
「そうだね」
「あんなにお姉ちゃんを想ってくれる人居ないよ」
「分かってるよ。
それより、あんたもいい人見つけなさいよ。変な人に引っかからずに」
「お姉ちゃんこそ秀人さんに捨てられないようにしなよ」
本当にいつまでたっても生意気なんだから。
改札口で待っていると、秀人が追いついてきた。
新幹線で食べて、と真由に紙袋を手渡す。
「ありがとう、秀人さん」
「気を付けて」
真由は、手を降って元気に行った。
「真由にまで優しくしてくれてありがとう」
駐車場まで戻る間、並んで歩く。
「サヤさんの妹さんだからね」
「姉妹似てる?」
「不思議だけど、あんまり顔は似てないのに声はそっくりだね」
「よく言われる。真由に電話がかかってきて、嫌な相手だと変わりに出て、ってよく言われたよ」
「妹って感じするよね」
「瑛人さんとはどうだった?顔はよく似てたけど…」
秀人は思い出すように言う。
「近所の人によく〝お前は秀人か?瑛人か?〟って聞かれたよ。
瑛人の方が背が伸びるのが早くて、体格もそれほど変わらなかったから。
免許取ってからは、梓も入れた3人でいろんな所に遊びに行った。
場所によっては妹の実果も入れて、テーマパークも行ったし、近所の祭りにも行ったし…」
「楽しそうだね」
「オレにとっては瑛人と梓が仲良く笑い合ってる姿が微笑ましくて羨ましくて…。
お互いに信じあってる、って気がして。
その姿を見るだけでなんか満足してた気がする。
瑛人の病気が判明した時も、治療中も、梓だけは気丈に前を向いてたよ」
「強い人なんだね」
「オレもそう思ってたけど、瑛人に見せないように病室から出て泣いてる姿や、告別式で泣き叫ぶ梓を見たら、人ってそんなに強いもんじゃないんだって思った…。
人って思っている以上に弱いよ」
秀人が手を繋ぐ。
「だからサヤさん、弱ってたらちゃんと教えてよね。その為にオレが居るんだからさ」
「それはそのまま秀人にお返します。
秀人って弱ってる時隠そうとするから。
お互いに弱い部分も共有して、強くなるんでしょ」
分かってないなぁ、と秀人は言う。
「男はなかなか自分の弱いところを言いたくないんだよ。特に好きな相手には、自分が守りたい、自分を強く見せたいと思ってしまうものなの」
「じゃ秀人を見て、今弱ってるな、って思った時はどうしてもらうのが一番いい?」
秀人がサヤの顔を見て考える。
「ただ、こうして側に居てくれればいい。何も話さなくても、手を繋いでくれればいい」
瑛人さんの事はずっと続く。
だからずっと側に居て、こうやってちょっとずつ話を引き出して、思い出して、秀人が瑛人さんを想える時間を増やしていけるようにしたい、と思った。




