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砂の城  作者: F
21/60

おにぎり

仕事始めは、まず体を慣らすことから始める。

休み中に忘れてしまった感覚を取り戻し、スムーズに仕事が進むようにして。


休みで調整していた材料が、どんどん入荷する。

考えるより早く体は感覚を取り戻していく。

いつもより、数倍午前中が短く感じた。


お昼休みでガランとした現場事務所で、ホッと息をつく。

午後からは大量な納品書と格闘しなくては。


トントン、と扉を叩く音がする。

顔を覗かせた秀人が、

「サヤさんお昼は?」と聞く。


「お弁当持ってきてるよ」

弁当袋をかざす。


「ちょっと寒いけど、駐車場のスペースで食べない?」

秀人はコンビニ袋を持っている。



上着を着て、2人で自販機横のベンチに腰掛ける。


秀人が暖かいお茶を買ってくれた。

手を温めながら、秀人はコンビニのおにぎりを、サヤは自宅から持参したおにぎりを食べる。


「今日は食堂行かなかったの?」

秀人が聞く。


「忙しいのが分かってたから、持ってきたんだよ」

「そっか」


「秀人は今日1日社内?」

「そう。家の事で遠方の出張は見合わせてもらってたから、だんだん出張の準備も兼ねて」


「だんだん日常に戻ってくんだね」

秀人は、そうだね…と言って遠くを見た。

まだまだ心の中は、追いついてなさそうだ。


「サヤさんおにぎり何個?」

「2つだよ」


「1個交換しない?」

「いいけど、秀人じゃ小さいサイズかもよ」


はい、と渡すと「鮭は食べられる?」とコンビニのおにぎりを渡された。


「サヤさんが握ったサイズだね」

「わかんないじゃん、お母さんかもしくは真由の可能性だってあるじゃん」

サヤが試すように言うと、「サヤさんだよ」と言う。


「何回手を握ったと思ってるの?」


見透かされたようで少し悔しい思いをする。

そんなサヤを見ておにぎりを食べながら秀人が笑う。


「最近、自分でも少しずつ料理するようになったんだよ」と秀人が言う。

意外な告白にへぇ〜と驚く。


「ちゃんと買い物も行くの?」

「今のスーパー遅くまでやってるからね」


1人分って難しいし忙しいから面倒だと思うんだけど。


「私でさえ週末に手伝う位なのに」

「だって美味しく出来るようになったら、サヤさんそのうち遊びに来てくれるかと思ってさ」

「えっ?」


「サヤさんは美味しいもので釣ればオレの部屋に来てくれる」

そう言ってこっちを見る。


「そんなに食べ物に釣られると思う?」

と聞くサヤの質問に、

「釣られたフリして来てくれるのを待ってるの」

と答える秀人。


「ホントに…」声にならない声を発して秀人を見てしまう。

秀人と話してると、どうしてもペースが狂って負けてしまう。


「今度、お弁当持って散歩行こう。大きめにおにぎり握るからね」と、サヤ。


「おっ、やった!もちろん膝枕付きだよね?」

「それは、お約束できません」

「サヤさんのケチ!」と言ったかと思うと

「あっ、そうだ!」

と言い、そっと耳打ちする。


「今度はオレが膝枕するよ。で、起きたらサヤさんからキスして」

「ちょっと!」

恥ずかしさから秀人を叩くと、秀人は大笑いした。




この寒いのに、わざわざ外で食べなくても…。

2人を見かけた奈緒が思う。


楽しそうに話す声が聞こえてきそうだ。

特に笑ってる秀人を見て安心する。


午前中は、すぐ隣の島にいても声さえ聞こえてこなかった。

まだすぐには元気出ないだろうと、配慮した位だ。


今の秀人を見ると、サヤが一番の元気薬らしい。

人目もはばからず2人で居るという事は、何か進展があったのかもしれない。 


この前サヤと話した時には、ただ秀人の心配をしていた。

短時間でも会いに来たり、マメに連絡は入れてくれる。

実家の母親の様子を見るため、行き来をしている秀人は、独りで休む時間がないんじゃないか、サヤに割いてる時間が負担になっていないか、そんな心配ばかりしていた。


結局あの2人はよく似ている。

相手を想うあまりに、自分の気持ちが二の次になっている気がする。


   

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