触れる
秀人は、今、瑛人さんが一番でいい。
その分、私が秀人を想うから。
会えない時は、何をしていても、ふとあなたを考え、触れたいと思ってしまう。
あの大きな手、抱き寄せられる時に触れる首元、耳元で聞こえる声、胸板や体温を感じたい。
なんなら抱き寄せてくれなくても、手を繋いで歩いて、他愛もない話をして、あなたを笑わせたい。
笑った顔を見ていたい。
あなたが笑えば、自然と私も笑顔になる。
忘年会の後の同期会で、悟に言われたよ。
この前、男同士で話をしたみたいだね。
あなたのまっすぐな想いに、負けたって言ってた。
だから、悟は私たち2人を応援してくれるんだって。頼もしいね。
奈緒にも聞いたよ。
インターンの子の研修の時に、遠くから見守ってくれていたみたいね。
あなたのことだから、絶対に様子を見に来るかと思ってたから、拍子抜けしちゃった。
内緒にしてたけど、あの尾崎くん、来年ウチの会社の入社試験受けるみたいだよ。
研修の時に、秀人に親切にしてもらったんだって。
挨拶程度だって言ってたのに。
私が想う以上に、あなたはいつも私を想っていてくれる。
でも、気付いてないかもしれないけど私も相当愛している。
「眠れてないの?」
いい天気のお昼下がり。
正月休みでお出かけの人が多いのか、人通りが少ない。
いい天気なので近所を散策している。
秀人はあくびを我慢するから涙目になって、よく目を擦ってる。
「近くに公園があるから行こう」
サヤの案内で向かう。
ちょうど風が建物で遮られて、ポカポカして暖かい。
ベンチに座ると、サヤは膝上を叩いた。
「寝転んで」
「ここで?」
「誰も居ないしいいじゃん。サヤさんの膝枕は二度目はないよ」
そう言われちゃうとなぁ…と言いながら秀人はサヤの膝を枕に寝転んだ。
「やばっ、寝ちゃいそう」
太陽が眩しいから、秀人は目を閉じ片腕で目の辺りを覆う。
「寝ていいよ」
「ホントに?」
「少しゆっくりして」
「ありがとう…」
目の前の秀人の顔をついじっくりみてしまう。
肌が綺麗で羨ましい。
前髪は少しクセがあるね。
触れたくてそっと触れてしまう。
頬に触り、見える眉毛をゆっくり愛でる。
最後に親指で唇を撫でると、そっと秀人の手が伸びてきてサヤの手の平にキスをした。
そのままサヤの手と自分の手を重ねた。
秀人は目を瞑ったまま話す。
「サヤさんに、瑛人会わせたかったなぁ」
「うん、私も会いたかった」
きっと仲良くなれていた気がする。
「路子さんの店のインスタ見てたら、ニヤニヤしてる、ってサヤさんの事がバレて。
今度、瑛人と彼女の梓とオレ達2人で会いたいなって話してた」
「そうだったんだ」
「元気な時は、早くサヤさんに会わせろって応援してくれてたよ」
余計に瑛人さんに会っておきたかった。
サヤの左手は秀人の頭をゆっくり撫でている。
…だんだん秀人の手の力が抜けるのがわかった。
少しでも疲れがとれたらいい、と思う。
秀人は夢を見ていた。
今日は梓が泣いていない。
瑛人と笑いながら話をしていて、ホッとする。
瑛人と梓が秀人を呼んでいる。
こっちへ来い、と。
すぐに行きたいが、サヤが居ない事に気付く。
ちょっと待っていて、サヤさんを連れて行くから。
辺りを見渡しても、サヤがいない。
大声で叫んで必死に探すが、サヤが見つからない…。
だから手を離すな、と言っただろ?
瑛人の声が聞こえる。
…急にハッと目が覚めた。
「ごめん、寝ちゃった」
目をこすりながら体を起こす。
「大丈夫だよ。まだ1時間位しか経ってないよ」
最近より深い眠りだったが、夢があとを引いている。
「暇だったでしょ」
立ち上がって凝り固まった体を伸ばしながらサヤに聞く。
「全然。これ見て!秀人の寝顔を隠し撮りしちゃった」
サヤがうふふと可愛く笑う。
撮った写真を見せながら、「秀人も知らない顔でしょ」と言って画面を見ている。
そんな姿を見ていると、夢の中でサヤを見つけられなかった焦りと
本人がここに居るのに、なぜ他を見てるのか、という感情が複雑に入り混じる。
「サヤさん、オレはここに居るよ」
「えっ?」
屈みながらサヤの前髪を上げると、おもむろに額にキスをした。
優しく頬を撫でる。
「驚かせちゃった?」
サヤは笑って首を振る。
「ちょっとはビックリしたけど…」
秀人がしゃがみ、ベンチに座るサヤを見上げる。
「サヤさん、来月の初旬には忌が明けるんだ。
そしたらオレの彼女になってくれる?
今から予約しておきたいんだ」
秀人のまっすぐな視線に吸い込まれそうになる。
サヤは笑って「はい」と答える。
恥ずかしそうに返事をするサヤが愛おしい。
秀人の顔がゆっくり近付いてきた時には、サヤの準備も出来ていた。
2人はゆっくりと優しくキスをした。
唇を離すと、お互い照れてしまうが、そのまま秀人はサヤを抱きしめた。
「愛してるよ、サヤさん」
「私もだよ、秀人」
「本当は悼まなきゃいけない時期なのにって、瑛人にはちゃんと謝っておくよ。
でもきっと喜んでてくれてると思うけどな」
そう言ってサヤの頭を撫でた。




