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砂の城  作者: F
14/60

心配

「インターンシップの大学生?」

「うん」


いつもの女将さんの店。

秀人は路子さん、と呼んでいる。


他のお店でもいいよ、と秀人は言ったが、サヤが女将さんに会いたいとお願いした。

今日は女将さんのオススメを注文してある。


「はい、サヤちゃん。旬の長イモのグラタンだよ」 

女将さんから「熱いから気を付けて」と器をもらうと美味しそう〜と、顔をほころばせた。


小皿に取り、ふぅふぅと冷まし、一瞬熱い顔をしてから、美味しいっ!と笑顔になる一連の流れを、秀人が見守っている。

気付けばいつの間にか女将さんがサヤに携帯を向けていた。


「路子さん、今の写真全部オレに送って」

「待って、動画だから」

「えっ?」


あっという間にインスタに投稿された。

「ウチの看板娘、完璧だわ。サヤちゃんありがとう」

女将さんはサヤにお礼言うと、さっさと仕事に戻って行った。

その姿を秀人は恨めしそうに見送る。


「秀人、冷めちゃうよ」


小皿に取り分けて渡してくれるのを受け取りつつ、サヤに言う。

「あんまり美味しそうに食べないでくれる?」


サヤは不思議そうに言う。

「美味しいものを美味しそうに食べて何が悪いの?」

「…ですよね」


「それに私が美味しく食べれるのは、目の前に秀人が居るからでしょ」

「だよね!」


急に元気になった秀人が、勢いよく食べ始める。

秀人の扱いにどんどん慣れてきているサヤだ。 


一通り食べ終わって、話を元に戻す。

「インターンシップの大学生の話だけど…」

「あぁ尾崎くんだね。好青年だったよ」


「もう営業課の研修は終わったんだよね」

「営業課は1日しか居なかったからね。あっと言う間に終わったし、オレは営業に出ちゃってほぼ挨拶程度だったけど」

「そっか、秀人が関わってたら情報をもらおうと思ったんだけどな。月曜日から3日間資材課に来るんだよ」


それを聞いて秀人が驚く。

「3日間?長くない?当初の予定なら1日か長くて2日だったはず」


サヤが首を捻る。

「どこかの課で予定がくるったんだろうね」

「で、サヤさんの所は何日目に来るの?」

「?…全部だけど?」


「全部?ずっと面倒見るって事?」

「そうだよ」

秀人が固まっている。


「どうしたの?」


「江川資材課長に文句言っていい?」

「…秀人が言っても聞いてもらえないと思うけど」


「オレ、月曜日から倉庫に顔出すよ」

「いや、尾崎くんがビックリするから来なくていいし」


お互いに、いや、いやと言い合いをしてる所に、女将さんの一声が入る。


「甘いものあるよ!」

「いただきます!」

間髪入れずに手を上げるサヤ。


秀人は笑い、

「オレには温かいお茶を下さい」と言った。


女将さん手作りの自家製プリンは、昔ながらの固めのプリンだ。

甘さがちょうど良くて、美味しい。


「サヤさんってホント美味しそうに食べるよね」と言う秀人に、

「子供みたいって思ってるんでしょ」とサヤが膨れる。


秀人は笑って首をふる。

「こっちまで幸せになるって思ってるだけ」

「ホントに?」

「ホント、ホント。日常の嫌な事とか不安な事とか全部飛んでくよ」


秀人の顔が一瞬悲しさをみせた。

サヤにも伝わってくる。

「今のオレにとっては一番必要な事だし、サヤさんが居てくれて本当に良かったなぁって思ってるよ」


秀人がゆっくりお茶を飲む。

サヤの振る舞いで、秀人が少しでも癒やされてくれるならいい。


秀人をじっと見てしまう。

秀人が「何?」と見返す。


「秀人、ホントは甘いもの苦手だよね?」

急なサヤの質問に、むせる秀人。


「私と出会ってから、食べてる所見たことないよ」

「いやそれは、たまたまだと思うよ」

疑いの目を向けるサヤ。


「ダイエット、ダイエット」

「必要ないと思うけど?」

「あの、アレだよ、アレ、ねっ」

全然会話になってない。


「私のお土産選びになんで付き合ってくれたの?半分こまでして」


秀人は、少し怒ったように言う。

「そんなの、サヤさんと話すキッカケが欲しかったからに決まってるだろ」


ふてくされてる秀人にサヤが笑って言う。

「秀人、可愛い」





「寒くない?ちゃんとマフラー巻いて」

サヤの首元を気にしてくれる。


「ありがと」

女将さんの店を出て、恒例になった散歩をする。


空気が冷たいけど、澄んでいて、星がキレイに見える。

あの星がオリオン座かなぁと話しながら、自然に手をつなぎ、空を見上げて星を指さしたりして、サヤの歩幅に合わせて歩く。


「また伊藤主任に見られちゃうかな」

「そうしたら、さすがにオレが話するから、サヤさんは心配しなくていいよ」

「うん」

 

お店では話せなかった、弟さんの症状について聞くも、「今は落ち着いているよ」とだけ俯きながら秀人は言った。


そこにはサヤの質問を受け付けない空気があった。

口には出さないが、秀人の態度からあまり良い状態ではないのだと、察した。


それっきり、秀人は空気を変えるように最近あった話をする。

いつもなら、秀人の一語一句に反応するが、今はなんだか集中出来ない。


だんだん女将さんの店が見えてきて、駐車場に秀人の車が見えた時、強い風が吹いた。

ホコリが舞って、サヤが顔をかばう。


「サヤさん、大丈夫?髪が乱れちゃったよ」

秀人がサヤの髪を直す。


「秀人…」

「どした?」

サヤの髪を直しながらこちらを見る。


「弟さんの事、話したい事があったら、いつでもいいから話してね」

秀人の手が止まる。


「私は聞く事しか出来ないけど、秀人の心が少しでも軽くなればいい」

サヤも秀人を見つめる。


「私に心配かけないようにしてるけど、秀人が思うより、私は強いよ」

サヤがゆっくり秀人に抱きついた。


「もし、独りで泣いたりしたら許さないから」


サヤのぬくもりが感じられた時、ただ体が自然に動きサヤの体に手を回し、抱きしめた。

サヤはいつまでも、震えるその体を慰めた。




家に着くと、いつもは寝ている時間の母が起きていた。

「ごめん、待っててくれた?」


「もう子供じゃないんだし、信用してるんだけど、つい心配しちゃって。

早くお風呂入っておいで」と言う。


サヤは素直に「ありがとう」と伝えた。





月曜日の朝は忙しい。

各部署へ書類回覧しに行くと、見覚えある後ろ姿の人が居る。

目線の先は材料倉庫だ。


そっと近づき、

「何してるんですか?」と声をかける


ビックリした秀人が、慌てた素振りを見せた。

「奈緒さん!」

「インターンの研修中か」

「今日から3日って長くないですか?」

「サヤ、準備頑張ってたよ。前までそんな感じじゃなかったのに…。秀人のお陰かもね。」


2人でサヤの様子を見る。

資料を見せながら、身振り手振りで説明をしてる。


「相手が男の子だから心配で見に来たんじゃないでしょうね?」

「いやいやいや」

どうやら図星らしい。

本当分かりやすい性格だ。


「秀人が思うより、サヤは秀人が好きだと思うよ」

秀人が即反応する。

「奈緒さん、そこの所もう少し詳しく教えて下さい」

「嫌だ」

逃げる奈緒を追いかける秀人。

秀人の笑い声が聞こえた気がして、サヤが振り返るもそこには誰も居なかった。





「川島さん、ピンクのマーカー持ってます?」

悟は引き出しから、ペンケースを取り出し秀人に渡した。


「はいよ、多分入ってると思うけど」

「ありがとうございます」


秀人はペンケースの色を見て、同じ色のサヤのマフラーを思い出した。


あの日、サヤに抱きしめてもらって流した涙は、サヤに染み込んでしまったかもしれない。


ただサヤの笑顔だけが見たくて、心配をかけたくなくて、気丈に振る舞っていたが、サヤには何もかもお見通しだったんだ、と思う。


せめてサヤに染み込んだ悲しみが、サヤを苦しめなければいい。

抱きしめた時のあの温もりと、か弱い肩の感触が忘れられない。


「川島さん、男同士の話してもいいですか?」

「お前なんだよ、改まって」

「サヤさんの事です」


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