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軍需産業大学  暗号通信研究室

 ある国の、ある地域に学校法人 軍需産業大学による学園都市があった


 軍需産業大学の校舎が小高い丘の上に城のように、そびえたち


 市長も警察署長も税務署長も、市会議員の多数派も

 地域内にある軍需企業の経営者も、軍需産業大学のOB


 軍需産業大学を中心に地域経済が循環している




ここは、その軍需産業大学の一角にある研究棟の一室、暗号通信研究室



清水寺という男が今年4月に大学院を卒業した後、研究室に残る事になった


研究室にいる助手の中で一番若いので同じ研究室内にいる人は全員が先輩


たまたま、今年1月から追加で研究室に来たのはその男だけだったので

まだ大学院生という事もあって、当然ながら一番の下っ端



指示されて言う通りにアレコレと面倒くさい確認作業をする日々


 論文の中に散りばめられた専門用語に誤りが無いかの確認をしたり


 学術理論としての論理矛盾が無いかのチェックをしたり


 基本的な間違いが無いかを確認したり


 論文テーマから根本的に外れている章が無いかを確認したり


 誰にでも理解しやすくしすぎると

 把握能力の低い、言いやすい対象のアラ探しをするだけが上手な人間に

 なんだ、こんなもんかと舐められて、雑音が発生するのが嫌なので

 わざと前提専門知識が無いと理解できない内容を書いた部分が

 前提専門知識との整合性を保持できているかの確認をしたり


 知的所有権データベースを検索して

 既に誰かが同じような学術論文を発表して

 商用化して特許取得していないか

 著作権侵害が無いかの確認をしたり


 禅問答のような検討会で何日も研究棟に引きこもっている内に

 何日も不眠不休で過労性鬱病になったりした前例があって

 大学の偉い人に大目玉を喰らってから、必須の日常ルーチンになった

 最低限の健康状態を維持できる栄養を摂取して

 睡眠をとっているかの記録をとったり


と、同じ研究室の人が、ひたすら深く深く掘り下げて考えるために


面倒な確認作業は全部、一番年下の男にブン投げられてきて

その確認雑務を消化していた



・・・



そんなこんなで、2月が終わり3月の受験シーズン明け


 専門用語 誤認識・曲解チェック


 引用基本論理との矛盾チェック


 基本記述ミス 有無チェック


 論文テーマとの 整合性チェック


 業界標準との 整合性チェック


以上の確認作業は研究室の人間が全員集合して

各自が論文を読んで確認結果を語る検討会方式になって


 知的所有権データベース検索確認


 研究室在籍者の健康状態記録


以上の確認作業は、当番制で作業する事になった


その説明をした一学年上の先輩が言う


「いや、大変だったろう? 一番最初の1・2月だけ


 新しく来た人間が全部やってみる事になっているんだ


 いや なにね 長年、同じ事の繰り返しな強制連想方式を繰り返しているから


 視点や常識、論文執筆作法とかが固まって

 ここにいる人間だけにしか理解できないものに成ってないか

 逆に何かが見えなくなってないかを確認するために


 新しく来た人間の視点から見てもらう事になっているのだよ


 いや 本当に御苦労さんだった



 でね、研究室に来た人間が

 最初の一年に担当するのが慣例になっている事があってね


 大学付属 第三高校の学生向けプログラミング授業を

 1週間に数時間だけ担当する事になっているんだよね


 ひょっとしたら勉強した中から天才プログラマーが出現するかもしれない

 そういう可能性を求めて基本中の基本と、基本用語を説明しているのだけれど


 そこの先生を来年3月まで、してくれるかな?

 教師資格を取得してたよね?


 教育委員会の教育基本方針資料を読んで


 後は、そうだなあ


 青年教育心理学の最新版も読んで

 どういう情操教育をするのが基本なのかも勉強してくれるかな


 何、たったの1年くらいだから・・・


 そういえばね


 第三高校へ行くと理解できると想うんだけど


 世代によって


 教員免許をとった時に教わった内容が少し違うんだよね



 昔、帝国主義が主流派だった軍で偉い軍人が偉かった頃

 その頃は、ひどかったって話だよー


 気合いと根性教育

 生徒を優秀な強く戦える兵隊にするみたいな教育


 戦後生まれの人間にとっちゃ

 すっごく変だったけど偉いから誰も文句が言えない


 そんな馬鹿げたのが当たり前だった頃よりはマシだけれども

 多少は世代間ギャップってもんが発生してんだよね



 ちなみに今は、同じクラス、同じ班での集団行動が何より最優先

 その集団内で、どう生きていくのが良いかっていう道徳観を恐育された年代が

 校長とか教頭とか、学年主任とかで偉いんだよね・・あの大学付属校じゃ


 ためしに、ゆとり教育とか言って

 集団行動のための礼儀とか常識とかを教育しないと どうなるかなで

 数年やって失敗したから、というか失敗させたから

 集団行動最優先派が主流で教育委員会でも偉いらしいんだよね


 その集団行動優先主義で、一緒にしない方がいい子供まで一緒に一律教育して


 その結果、大量発生して学校内じゃ問題になってんのが

 差別する側になりたい。誰かを差別する側に陥れたいって願望を抱える子供が

 増えちゃいました、どうしましょうかってな問題でね

 

 差別アダナ禁止とか、差別抑制策とかアレコレとしているらしいんで

 

 その差別抑制のための倫理学、道徳を発展させた学問の実験みたいな


 ”差別絶対否定 と 平等絶対肯定”てな理屈を


 道徳だか倫理の教師をしている学年主任さんが発明したらしいから


 それに、1年だけでいいから、学校内じゃ、そのオッサンが決めたルール

 てか倫理観ってか 倫理学の理論に、つきあってやってくれ


 ちなみに、これが、そのオッサンが書いた倫理学の本



 とはいえ


 そういった集団行動恐育とかは担任教師とか生活指導とかが、やるんで


 可能な限りノータッチで

 変だなー どうしてかなー とか思っても

 言葉にして言うなよ、結構、面倒な事になるから



 担当のプログラミング教育をするだけでいいからね


 くどいようだけど


 本当に余計な事を言うなよ?



 まあ  ”プログラミングとは?”


 てのをさ、小学生にも理解できるように

 説明すればいいだけだから 簡単 かんたーん 大丈夫 だいじょーぶ」



「え? 小学生にでも? 高校生なんですよね」



「あー、そうだね。言い間違い。言い間違い。

 

 まあ、その・・でね 何を説明したかの前例記録と

 説明項目を目次形式に記述してあるエクセルシートがあるから

 どれを使用するかと、今年の最新版の教科書とを照らし合わせて


 授業に使うのを研究室の全員にメールで送付してね。授業の一週間前に


 こうした方が、教員の内輪にある暗黙の了解に抵触しないとか


 江戸時代 農村の村の掟やぶり村八分にならなくてすむとか


 色々と説明メールや指摘メールが返送されてくると思うから



 それから、言いにくい事なんだが


 そのぉ 差別は無いし誰にでも可能性はある平等なんだけど・・


 まあ、いいか、これは自分が行った時だから、今は違うだろ」



「なんすか 言いかけて やめられると 気になるんですけどぉ」



「気にすんなよ。行けば、わかるよ。大丈夫、大丈夫」



数年前にプログラミング教育というものが始まってから

毎年、どんなカリキュラムをレクチャーしているのかの資料を読んでみる


過去に天才と呼ばれた人が、どんなプログラミング教育を受けたかを

調べた履歴が、ずらずらと並べられ 結構な量



 ユーザーから金を集金する事に関して天才的だった

 ユーザー・サポーター


 顧客対応をして、どう改造すれば金になるかを見極めて

 製作統括や宣伝を担当したりする

 カスタマイザー


 次世代に、どんなソフトウエアを扱う会社が

 グローバル大企業へと成長するか

 将来性のあるシステムを開発した

 スタートアップ企業を見極めて投資した

 ベンチャー・キャピタリスト




 世界中から優秀なプログラマーが集結する国の地域で

 争奪戦になって年棒世界記録を樹立するほどに優秀な

 プログラマー


 多くのユーザーが今でも利用している人気ソフトウエアの

 ユーザーから見える部分から、内部構成までを設計した

 ソフトウエア・デザイナー


 英語で書かれたマニュアル、操作パネル、専門用語を

 母国語変換したり、業務アプリを自国商習慣向けに改造する

 ローカライザー


 ソフトを輸入して国内でユーザーが増えるかを判定

 各種ライセンス契約や、国内販売代理店などを探す

 サプライヤー


 色んな権利関係とかの交渉仕事をしたネゴシエーター



 それら各種職種の人々を探して採用して

 全体を統括したマネージャー



最終的に何の職種で成功したかはバラバラな

軍需産業大学 情報学部 出身者を


初等教育から高等教育まで同じような傾向の教育を受けていたという前提で

民需企業からヘッドハントされた人を含めて追跡調査したらしい



そして大学経営者の会議で固まった方針は


 後で応用編を構築するために必要な基礎部分を

 広く浅く、満遍なく説明して、各人の向き不向きを

 チェックしていく形式


 付属中学、付属高校、大学と進学していくに連動して

 16年かけて適応性に合わせて指導していく


といった方針


各自の適性によって、ある程度は分岐していく予定らしい


なのに一律に同じ事を説明していく


なので


 自分が専門性を高めたい項目以外の授業時に

 無関心になって意欲が堕ちてしまう 


という現象が発生するのを、どうするか?


などなどと、あれこれと発生した問題への対処履歴

試行錯誤した過去履歴が並び


今年、自分が担当する事になった学年で

去年、実施した授業内容を一通りチェックしてみる


時間が、あまりないので、とりあえず

去年、最初にやった授業の資料を少しだけ

今年の教育指導要領にあわせて書き直して


研究室在籍者の全員にメール送付


ただ、去年までの資料に書かれた高校名が


大学敷地内に隣接した

第一高校 情報工作科 では無く


第三高校 情報工作科 と修正されている事に


少しだけ、不安感というか違和感を感じた。





軍需産業 第三高校は、市内で大学校舎から一番離れた逆サイドにあり


そこは、流れものや不法移民が住み着いて

土地の値段やアパートなどの借家家賃も安く

マフィア経営の店が並ぶ歓楽街に隣接した

ガラの悪い地域であった


第三高校を設立した偉い人の主張は


 強くなりたいという向上心と

 勝ちたいという負けず嫌い精神は秀でているが


 根気良く勉強するなどの色んな事への把握能力が無かったり

 常識的で礼儀正しい人間に見られたいという意識が欠如している


 いや、だから余計な事を考えずに戦場で戦える人間


 普通の平和な日常では犯罪者になってしまいそうなほどに

 壊れた心の持ち主だから最前線の戦場で戦う歩兵としては

 使える人間が発掘できるかもしれない


というものだが、現状は、軍が作った実験場と呼ばれる


 別名『使い捨て兵隊 養成所』


教育専門用語だと教育困難校と言うのでしょうか

校内では、国の定めた公的な法律が通用しません


軍による 軍のための 軍で偉くなった偉大な軍人による

私法が適用された学校


強く勝つためには何をしてもいい

という思想だけを心に刻む教育方針で運営されています


学力偏差値は国内最低。


馬鹿とハサミは使いよう

使い方によっちゃ使えるんじゃね?


という発想で全国の中学から

体力自慢な根拠の無い自信だけはある

イカレた狂暴な生き物を集めた高校。



という衝撃的な実情を初日に説明され




その上、今年入学した情報工作科を三年間、卒業まで面倒みて下さいね。

というような事を言われました


「んん? 三年間? いや 一年と聞いていたんですが?」


『いいやあ、前例では全て三年間は担当して貰ってますが

 それに、第三高校に入学してからプログラミング教育を

 受ける生徒なのでゼロから教えて下さいね


 ああ、それと英語教師が退職してしまったので、ついでに英語も』



「え? 付属小中と9年間、すでに教育を受けていると聞いたんですが?

 プログラミング教育だけでいいと聞いてきたんですが?」



『いや、それは第一高校や第二高校ですね

 第三高校の情報工作科は全くのゼロからのプログラミング教育です


 何も知りません。何の教育も受けてません

 逆に、だから変な先入観とかが無くて いいじゃないですか! ね!


 ついでにグローバルIT企業による

 専門用語になっているカタカナ英語も教育して下さい


 ちなみに英語教育もゼロからで、幼稚園児レベルからです


 よろしく 御願いしますね。』



この時は、いくらなんでも、幼稚園児レベルって


・・・と思っていました。


最初の英語授業をして実際に生徒を見るまでは

新任の教師を からかう冗談だと・・

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