其之漆 鬼の屍
「キャァァァァァァァァッ! おにいぃぃちゃゃゃん! たすけてぇぇ!」
僕はその声叫び声に刀を握りしめ後先考えず呪木に向かって斬り込んだ。
『ヒュンヒュンヒュン』
と風切音が聞こえ何本もの枝の鞭が僕に目掛けて放たれた。鞭の動きは速いけど僕の目にはしっかり見えてい!
「おりゃぁぁぁぁ!」
鞭を斬りながら呪木の懐に入り込む! 女の子が上へ上へと連れ去られて行く、僕は樹の幹に足をかけ上へ跳び上がった! あと少して手が届くと思った瞬間、右の側面から鞭が飛んできて僕を叩き払った! 咄嗟に刀を立て、鞭の直撃を防ぐ事が出来たがその衝撃をすべて受け流すことが出来ず、後ろにふっ飛ばされ地面に転がり落ち体中傷だらけになった。
「グハハハハハッ! 人間! 非力な人間よ! お前もこいつらと同じように私の糧にしてくれるわ!」
ドス黒い声が辺りに響き渡り『バキッバキガキッ!』と何かが割れる音が聞こえると呪木の大きい幹の部分が割れ、そこから出た蔓が樹に巻き付き始めた。そしてその蔓の蕾から禍々しい花がいくつも開き始めた。その花の中心は口のようになっていて『グチャグチャ』と音を立てかなり気持ち悪かった。
そして吊り下げられた女の子がその大口を開けた気持ち悪い花の真上に持っていかれた!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
悲鳴が響く『こいつ女の子を食べる気だ!』すぐさま僕は、刀を持ち替えて振りかぶり女の子を捕らえている蔓めがけて投げつけた!『ビシッ!』っと刀は蔓を捕えた!蔓が切れ、女の子が下に落ちてくる。
「きゃぁ! お兄ちゃん!」
そう叫びながら落ちてくる女の子を僕は下で受け止めた。
女の子はとても軽くまるで鳥の羽のようだった。女の子をお姫様抱っこで抱きかかえ、取り敢えず安全な場所まで呪木から離れる事に撤した。
「ありがとう……お兄ちゃん……やっぱり来てくれたんだね」
僕は女の子を抱いて走りながら『そういえばこの子の名前を聞いていなかったな』と思い
「君の名前は?」
と聞くと……
「首藤……首藤まみです……」
「まみ⁉ 僕のお姉ちゃんと同じ名前だ! ハハハハハッ!!」
僕はお姉ちゃんと同じ名前と言う事だけでこの状況下にも拘らず思わず呑気に笑ってしまった。
観覧車が見える所から随分と離れることが出来た。売店の後ろに隠れて呼吸を整える、そういえばめぐみさんがどこにも見当たらない。
(呪木にやられたの?……いやそんな事はない、もしかしたら僕を置いて帰った⁉)
考えることは悪い事ばかり。そして『ゴゴゴゴゴゴゴッ……』っと遠くから地響きが段々こっちに近づいてくる。僕は何か武器を探して辺りを見渡す。するとすぐ横に古びたロッカーがあり開けると掃除用具が入っていた。その中からデッキブラシを手に取りブラシの部分を足で踏みつけて外し柄の部分だけにした。それを両手で持ち僕は呼吸を整えた。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
そして僕の横で震えながら涙を流し、泣いているめぐみちゃんに少しでも安心できるように優しく声を掛けた。
「大丈夫だよ!僕が付いているからね!」
そう言って何の根拠もなく『大丈夫だよ』と声を掛けた。内心怖くて仕方がなかった。そしてしばらく静かな時間が流れる。『めぐみさんはどこに居るんだろう?』そう思いながら観覧車の方を見るときらっと光がこっちを照らした、と同時に『ゴゴゴゴゴッ』っと地面から地響きが鳴ったと思うと目の前の芝生がまるでモグラが出てくるように『モコッモコッモコッ』っと盛り上がった。そしてそこから『ズボッ』と両手が生えにゅうっと人?いや、頭に角がある鬼の様な者が何体も出てきた。それは大きく屍の様な異臭を放ち呻き声をあげながら僕たちに向かって来る。
「キャァァァァァァ!!!」
と悲鳴を上げるめぐみちゃん。僕はその手を握り逃げようと後ろを振り返る。しかしもう既に後ろからも沢山の鬼の屍が迫って来ていた。僕は棒を握りしめ、覚悟を決めて迫りくる屍に突っ込んでいく。
「めぐみちゃん、行くよ!僕にしっかりついてきて!!やぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
屍が僕の棒に当たるとまるで豆腐の様に崩れ、泡の様に消えていく。しかし襲って来る数が多すぎる!倒しても倒しても次々に地面から湧いて出て来る。逃げようにも全然前に進めない!そしてついに僕たちは屍に囲まれてしまった!
「もうだめだ!」
続く……