其之陸 鬼退治
僕はその捉えし者を見て驚愕した! それは観覧車自体が大きな樹、禍々しい大樹になっていた! そして観覧車に木の根が巻き付きそれが四方に蔓を伸ばし、その先に何人もの御魂が捕まって苦しんでいる。
「やはり……呪木……しかしこの大きさは一体……」
めぐみさんが呟いたと同時に、『シュコォォォ!』っと大きな木の枝らしきものが飛んできた!
「危ない……」
と、めぐみさんから蹴りを喰らい僕は真横に『ウゲェ!』っとふっ飛ばされた。
『ガッシャァァァン!』
ふっ飛ばされた先は、『武士の館』の入口だった。その入口に侍のマネキンがあり腰に刀の造り物が刺してあった。
僕は、その刀を腰から引っこ抜き振りかざした。
「清い力かなんか知らないけどやってやる! 絶対女の子を助けるんだ!」
僕は刀を握りしめお化け屋敷の方向へ駆け出した。その途中捉えられた御魂が助けを求めてくる。
「たす……けて」「苦しい……」
「どうか……おたすけを……」
僕は立ち止まり、その足に絡まった蔦を斬りながら進んだ。すると御魂の顔が爽やかな笑顔に変わり、
「ありがとう……お兄さん」「ありがとう……ございます」「あぁ……ありがとう」
御魂達はお礼を言いつつ白く輝きながら空へ登って行き少しずつ消えていった。そして一人の老人の御魂が恭一郎の前に歩み寄り語り掛けてきた。
「お若いの……お名前を教えて下さらんか……?」
「東城……恭一郎で……す」
「恭一郎さん……本当にありがとう……わし等はここに巣食う呪木に長い間捉われ、魂氣を吸われていたのじゃ。残念な事に沢山の御魂があ奴に魂氣を吸い尽くされ家に帰ること叶わず朽ち果ててしまった……
わし達はお前さんのおかげで帰る事が出来そうじゃ……」
「帰るって何処へ帰るのですか?」
「決まっているだろ、愛する家族の所だよ、では行くとするかな」
「ちょっと待ってください! 女の子、おさげ髪の女の子を知りませんか! 僕に助けてって言ったんです! 何処にいるか知りませんか⁉」
「女の子…………ひょっとしたら鬼が連れている子どもの事か? 呪木の手下の大きな鬼が自分の糧として連れまわしている子どもに多分違いない」
「糧?」
「そうじゃ、鬼の腹が減ったらその連れまわしている若い魂氣を喰らうのだ。しかし気を付けなされ、鬼は狂暴で邪悪、慈悲も知らぬ。しかし頭はあまり良くない、しかしお主のその清い力……その力があれば鬼など相手にならぬじゃろ。しかし呪木を倒さぬ限りここに捉われておる他の御魂は救われぬ。恭一郎殿、呪木をあの諸悪の権化を倒してくだされ……無念の思いで……消えていった……御魂達の……仇を……打って…………く……だ…………され……」
そう言いながら老人は輝きながら空に昇り消えていった。僕は体の奥底から湧いて出てくる怒りを感じていた。『糧?喰らう?』そんなの絶対に許せないと。
すると暗闇の奥からズムッ、ズムッ、ズムッっと大きな重いものが歩いてくる音が聞こえてきた。奥の街頭に照らされ、その巨大な者が次第の僕の目にも見えてきた。そして街灯に照らされたその者の正体は……黒ずんだ巨体に大きな頭、その頭には、くの字に曲がった角が二本。そいつは僕を見るなり、
「グガァァァ!! おまえ……ヴォ……くう! 喰らっで……ちからヴぉ貰う!お前食う!」
何を言っているのか分からないぐらい訛っていたがとにかく僕を喰いたいらしい……と鬼の手を見ると何かをぶら下げている。よく見ると……女の子だ! あのおさげの女の子が木の根にまかれ鬼の手に持たれている! 僕は怒りで体が震え刀をギュッと握りしめた。そして知らぬ間に鬼の元へ突っ込み切りつけた。鬼の体から無数の枝の鞭が僕めがけて放たれた! しかし何故かその枝がまるで野球中継のリプレイのようにゆっくりと動いて見える。
「見える! 見えるぞ!」
鬼の懐に入り込み鞭を根元から切り、殴りくる左手を下から切り上げ切断!
「グギャァァァ!」
切られた腕が泡になって蒸発する、鬼の悲鳴が響く。僕は女の子が捕らわれている右手を狙いさらに懐に踏み込んだ。すると鬼は、素早く後ろに跳ね飛び僕の太刀を交わした。
「おまえ、許さない、じぇったいにゆるざない!」
そう言いながら後ろを振り向き走り出した。ドスドスドスドス! 大きな足音を立てて逃げる鬼。
僕は、鬼を追いかけた。巨体のくせに走るのが速い! 走って逃げている方向は観覧車の方向だ。
「だ、だすけで! 蛇鬼ざま! だすげで、ぐだざい!」
そう叫びながら観覧車に哀願する鬼、次の瞬間! 地面から無数の根がアスファルトを突き壊して生え出し鬼を貫いた! そしてそのまま上空へ持ち上げ更に観覧車からも枝が伸び出て鬼を貫いた。
「グガガガガガガ……蛇……鬼ざま……どうじで……どうじで……」
力なく話す鬼、女の子を捕らえていた鬼の枝が力なく外れ落ちそうになった。
「う、うん……ここはどこ? えっ? キャァァァァ! 助けてぇぇ!」
女の子が目を覚まし、自分の置かれている状況に気付き悲鳴を上げた。僕は女の子に声を掛け、真下に走り行き受け止める準備をした。
「大丈夫! 僕がここにいる!」
そう声を掛けた後、するっと枝から抜け女の子が落ちてきた。僕は真下に行き受け止めようとした時シュッと枝の鞭が女の子を掴み空高く巻き上げた!
「キャァァァァァァァァッ! おにいぃぃちゃゃゃん!」
つづく