其之一 東城恭一郎
僕の名前は東城恭一郎、中学1年生。東城家の長男、家族はお父さん、お母さんそれにちょっと恐い高校1年生のお姉ちゃんの4人家族だ。部活はお姉ちゃんの影響でバスケットボール部に入っている。でも余りスポーツが得意じゃないので試合には滅多に出させて貰えない。でもバスケが大好きだからずっと続けていられるんだ。
そして僕には誰にも言えない、いや、もう絶対に人に言わないと決めた事がある。それは僕には皆が見えないものが見える事。お化け? 妖怪? モノノ怪? 幽霊? 未確認物体? あらゆるものが見えるんだ。
たとえばほら、そこの電柱の後ろには、作業着を着たおじさんが居る。いつも目があったと思ったら逃げるように消えてしまうんだ。それとそこには体操座りをしてブツブツ何かを呟いてるお兄さん。この人、僕が近づくと必ず背を向ける。他にもどこそこ沢山居るけど小さい頃から見えてるから今はもう何とも思わなくなった。
でも最近、この人達(人じゃないけど)僕を見ると驚いて消えたり逃げたりするんだ、なんでだろ?
そしてある日大事件が起こった。お姉ちゃんが事故にあったのだ。警察から連絡があって急いで皆で病院へ向かった。だけど車の中で、お母さんが泣き過ぎてどうにかなってしまうんじゃないかと病院に着くまでとても心配だった。しかし! 病院に着くと僕が別の事で気を失いそうになった。それは病院の周りに沢山の……沢山のぉ!あぁ! 思い出したくない! 顔が〇〇した人? や体が〇〇して〇〇した人? 、もう口に出せないような体がグチャッグチャになった物? がそこら中にいっぱい蠢いて居て、お姉ちゃんを心配しているお父さんお母さんには悪いけど僕はそれどころじゃない位に怖かった。
更に! お姉ちゃんが……目の前で包帯グルグル巻になって寝ているはずのお姉ちゃんが病室で空飛んでて、5人の禿げたじいちゃん達と話してる! とうとう僕は泣いているお母さんの後ろで、精神的に限界を迎えてしまい平常心を保てず、立ったまま暫く気を失ってしまった(チ~ン)
見えるという事を僕は誰にも言う事も、相談する事も出来ず一人で抱え込んでいる。勿論家族にもだ。普通、家族になら何でも話せたり相談できるはずなのに。その家族にさえ怖くて相談できない位、ひどい仕打ちを受けた! というのもすべてお姉ちゃん、東城舞美のせいだ!
今でもはっきり覚えている。あれは僕が保育園、年長組の頃に逆上る。夏のある日、家族揃って地元で一番大きな遊園地に行ったんだ。僕もお姉ちゃんも遊園地は初めてだったからとても楽しみにしていた。
観覧車やメリーゴーランド、コーヒーカップにゴーカート! 沢山、沢山遊んで楽しかった。お姉ちゃんに誘われてお化け屋敷に入るまでは……。僕は怖いから嫌だって言ったんだけど僕の手を引っ張り無理矢理入らされた。
お姉ちゃんは入る前に『こんなの作り物だから全然怖くないよ!』って言ってたけど、いざ中に入るとお姉ちゃんは、僕を前に歩かせて、自分より小さい僕の後ろに隠れるようにして結構怖がってたんだ。
お化け屋敷の中には人形の生首や、逆様にぶら下がった髪の長い女の人の人形が沢山ぶら下がっていた。でも僕には見えていた。その中に普通の洋服を着た人が居て、よく見ると顔から血を流していたり目ん玉が真っ黒で口を大きく開けて叫んでいる人、手や足がない人が沢山這って近づいてくる!
『ね、ねぇちゃんほら!なんか這ってくる!』
「ねぇちゃん、女の人が手招きしてる!、ほらそこ!」
「ねぇちゃん! 血だらけの男の人が、く、来る!走って追っかけて来る!」
「ねぇちゃん……! 首がない人が! ねぇちゃん……! あの人頭が半分ないよぉ! ねぇちゃん! ねぇちゃん見てよ!」
そしてお化け屋敷から出ると……。
「おおいぃ! ク○バカ恭一郎ぉぉ!! お前! いい加減にしろ! お前のせいでえぇ!! お前のせいで超怖かったんだからぁぁぁぁ!!」
と大激怒あんど大号泣! 大泣きしながら拳で顔を何発も殴られ蹴られ突き飛ばされて転び、それでも蹴られ続け、遊園地のスタッフが止めに入るまでお化け屋敷の前でボッコボコにされた。それから僕は、遊園地とお化け屋敷が大っ嫌いになり、もう何が見えようとも絶対に他の人には言わないと決めたんだ。
そんな日々が続いていたある日の事、学校から帰ると家の前に一人の女子高校生が立っていた。その女の人は、お姉ちゃんと同じ制服を着ていたので高校の友達かなっと思った。近づいて見るとその人は、色白で長い髪、背がすらっと高くお姉ちゃんとは比べ物にならない程の美人だった。近ずく僕に気付いてこっちを見ると目があってしまった。やっぱりすごい美人……思わず顔を赤くした。
僕は勇気を出して話かけた。
「こ、こんにちは。な、何か御用ですか? ひょっとしてお姉ちゃんの友達ですか?」
そう声を掛けていると、いつも玄関に屯っている白い人魂(悪霊もどき)いつもなら僕を見ると逃げていくそいつが、今日に限って僕の顔目掛けてすごい勢いで飛んできた! 僕は咄嗟に手を出し、人魂を叩き落とした。すると人魂は弾けて泡のように消えていった。どうせ今のは、普通の人には見えないからと思って女の人を見ると、瞬き一つせず僕の方をじっと見つめていた。そして……
「君……名前は……?」
と聞いてきたので
「東城……恭一郎……です」
と名を名乗ると……
「そう……」
全くの無表情で呟き、くるっと反対方向を向き、歩き出した。僕はその綺麗な人の後姿に向かって言った。
「あ、あ、あのぉ! すいません! お名前を教えてくれませんか⁉」
するとその人が立ち止まり僕の方を向き答えた。
「おうな……嫗めぐみよ……」