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❖閑話休題❖ 貴重な姫君に秘薬をお持ちする



 異界のひとびとは台風被害からはどうにか回復しつつあるが、バーサン姫ことタカヒロのお姫さんはあまり元気じゃないらしい。


「やっぱりお姫さん、だいぶ弱ってるみたいだな」

「三角もそう思う? お見舞いに行ってもだるそうに寝ておられることが多くて、あんまりお話しできないんだ。

僕どうすればいいんだろう……

肥料ってこんな具合の時あげていいのかな……」

「肥料……って、いつやるもんなんだろう」


 シロウト二人、頭を抱えるの図。でも、このままではお姫さんは枯れてしまうかも知れない。

 面倒だが背に腹は代えられない。

 人界に戻ってから、植物の専門家である母親に声をかけてみた。


「あのさあ、学校の花壇なんだけど、今時期バラに肥料ってやっていいもの?」

「今蕾持ってる? それとも春しか咲かない種類? 6月に咲いたあと、肥料やってないの?」

「えーと……

6月に咲いて、今葉っぱとひょろひょろの枝だけ。たぶん春だけ咲くやつだと思うけど……この前の台風でだいぶ枝が傷んじゃってるしなんか枯れてるみたいに見える。

肥料は春からこっち、やったことない……と思う」


 母親はちょっと考えてから


「なら、効き目の速いのを1回やってみたほうがいいわね。玄関にある白いビンの液体肥料、表示の倍に薄めてやってみなさい」

「なんで薄くすんの」

「どのくらい弱ってるかわからないから、濃い肥料を与えると却って良くないときがあるのよ。

病気で食事取れない人に無理矢理ステーキ食べさせるようなものね。

あんまり根に近いところにやらないで、15cmくらい離れたところに撒いてね。それで元気になるようだったら顆粒の肥料を周りにすき込んでやったらいいわ。あの台風の後だから土がカラカラってことはないとは思うけど、土壌のpH管理ちゃんとやってる?」


 えーーーーーと、今度タカヒロ連れてくるから詳しく教えてくださいです……。

 とりあえず、母親に言われた液体肥料のビンをカバンに突っ込んで家を出た。


 しかしお姫さんの容態は思ったより悪かったらしく、学校に着かないうちに俺は異界に引っ張り込まれた。

 午前中の授業はサボリ決定か。


「魔導士殿、アーミュティース殿を救って下さるか」


 いつもの井戸端に行くと長老が近づいてきた。


「は、故郷より秘薬を取り寄せました。でも、お姫さんの具合によっては、逆効果かも知れません」

「どうか姫君に差し上げてみて下され。イチかバチかでござる。救われることを祈りましょうぞ」


 まさかのタイミングだったから、薄めてないやつ持って来ちゃったよ。

 希釈率、拡大率、云々……面倒だ。


「タカヒロ。数学得意だよな」

「うん、まあまあ」

「これ、普通の倍に薄めて使えって母親が言ってた。でも下に置くと元のサイズに戻っちゃうだろ。どうやったらちょうど良い濃さにできるか考えろよ」

「ん、やってみるよ」


 タカヒロはお姫さんの侍女に何か頼んでいる。この侍女さんもバラなのかなあ。

 くるくるカールした金髪の侍女は小さな金色のビンと水差しを持ってすぐに戻ってきた。


「あんなちっちゃいビンでどうするんだ?」

「表示の倍、でしょ? 地面に置かなければ普通に希釈して大丈夫だよね」


 ナルホド。

 タカヒロは小ビンを手に持ったままで液体肥料を希釈し、俺に手渡した。


「これで良いでしょうか、魔導士殿」

「その小芝居やめようよ……」

「とにかく、姫君のところへ行こう。念のため、三角が手に持ったまま飲ませてね」


 姫君はぐったりとベッドに横たわっていた。

 レディ・アーミュティースさん(99歳)、28人の曾孫さんに囲まれての大往生でした……というナレーションがぴったりな感じ。

 俺たちが部屋に通されても青紫でシワだらけの瞼は動かない。

 そーっと顔の近くにティッシュペーパーを差し出したら、わずかだが規則的に動くので呼吸はしているみたいだ。


「姫君、姫君! 聞こえますか! 薬を持って来ました、飲んで下さい!」


 耳元で大声で言うと、姫君がかっと目を開けた。


「そんな大声出さないでも聞こえるわい」

「す、す、すいません」


 すんごいハスキーボイス……姫君ってイメージじゃないっていうか、老婆みたいな声……って、外見そのまんまなだけじゃん!

 やっぱりタカヒロってアタマのどっかにかなり大胆に補正かかってるよ。

 バーサン姫は薄めた肥料で元気を取り戻し、残った肥料も元気のないひとたちに分け与えられ「魔導士様の秘薬はものすごくよく効く」と密かに評判だったという。

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