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23 召喚! 天気図と一斗缶!!



 アリディフォリアはそれ以上俺たちを責めることもなく立ち去った。

 村へ近づくにつれて、地面の泥、折れて吹き飛んだ木々の被害が多くなる。家々を回って、流れ込んだ泥を掻き出したり崩れた壁や使えなくなった家具を取り除ける手伝いをしたが、地面がドロドロで被害の範囲も広く、作業はやってもやっても終わりが見えない。

 

「せめてお天気になれば良いのにね! 地面だけでももう少し乾いて動きやすくなれば」


 額の汗と泥を腕でゴシゴシ拭きながら須美が言う。


「こんな時こそ、魔導士様の出番なんじゃないの? 何か地面を乾かす魔法とか家の泥を流す魔法とかないの」


 地面を乾かすって……どうやれば? 家の泥だけ流すとか都合よすぎな気がするんだが……確かに何か魔法の使いどころを考えてみてもいいかもな。

 魔法は体力を削るからあんまり大掛かりなやつは無理だ。

 ましてや俺はなりたてホヤホヤのエセ魔導士、できることにも限りがある。

 何か、何か……。そう、自然現象がここに移動してきてくれるとか、できないものか。

 温風、温帯低気圧、地中海性気候、春一番……

 あったかくなって、乾燥するには、高気圧を呼べばいいのでは。

 タカヒロが高気圧を召喚して、俺が風であったかい空気を拡げれば……?


「秀才タカヒロ出番だ!! 乾燥する日の天気図!」

「え? え? えーっと……

春の北海道の天気図を召喚っ! 高気圧2つはそのままこの地域を覆って待機! 低気圧3つは勢力弱めで高気圧にちょっと押され気味で!」


「よしきた、俺もやってみるぞ!

風の神よ、美しきアネモネよ、この暖かき風をこの地に拡げ給え! エアーブロー!!」


 風が吹き始める。

 始めは冷たい空気だったが徐々に暖かくなってくる。暗い雲に覆われていた空が、次第に晴れていく。

 台風のような暴風でなく、花見の季節のようなふわりとした風。


「おお……、太陽の神がお姿を現した……」


 いつの間にそばに来ていたのか、長老やバラの木のひとびとが明るい声で空を見上げている。

 みんな、泥まみれのボロボロだなあ……。


 『春の北海道』はまだちょっと寒いけどすっきり晴れて乾燥した気候だ。異界の村も水がどんどん引いていって道や家々の前も乾いた地面が見えるようになってきた。

 まあでもまだ道のりは長そうだ。村の家を直したり泥を掻き出して床を拭いて家具を外に出して乾かして……。

 とにかくありがたかったのは、堅い木や石造りの家が多かったこと。日本家屋じゃないから畳もないし。しっかり掃除して清潔にすれば、感染症はあまり心配ないかも知れない。あとは水場がどうなっているか。

 力仕事に疲れると、3人で村の井戸を点検して回った。濁ってしまってすぐには使えない井戸がほどんどだった。これはどうしたものか……


「なんにも無しでキャンプしてると思えば、汚染された井戸水を煮沸して使っても不自然ではない、よね」


 タカヒロが顎に指を当てながらつぶやく。


「そうだね、布とか小石とか砂利とかで濾過装置を作っても、おかしくはないわね」


 須美までそんなことを言い出した。


「超大きい一斗缶を召喚」


 なんかタカヒロがやけっぱちになってきた。召喚するものが即物的過ぎねえ?

 濾過器には炭もいるんだよな。炭、炭、炭の作り方……「酸素のない状態で木を燃やす。酸素と結びついちゃうとただの灰になるから気を付けて」お、おう、サンキュータカヒロ。

 崩れた壁からレンガをもらってきて竈を作り、折れた木をぎっちり詰めて空気が入らないようにしてからファイヤーボールを叩き込み、ゆっくり蒸し焼きにする。

 一斗缶の底に高温ピンポイントのファイヤーを当ててから尖った石で叩いて孔を開け、須美が言ってた布だの小石だの砂利だのの層に炭も入れる。

 濁った井戸水を少しずつ注いでみると、どうやらきれいな水がポタリポタリと出てくるようになった。

 さあ、それじゃあ「おいしい水作り隊」の結成だ。村中の井戸に足りるだけの濾過器をつくらないと。俺とタカヒロは次から次へと一斗缶の召喚と穴開け。村から長老をはじめとする「力仕事は専門外」の方々を集め、須美の指導のもと小石や布を集めてもらって濾過器の生産ラインをつくる。

 あちこちにある井戸のほとんどに濾過器を取り付け、長老の名で「井戸の水が再び澄んで安全になるまでは、濾過器を通した水だけを飲むように」とみんなに通達してもらった。ふう、これで水問題は当面なんとかなりそうだ。俺とタカヒロの力も底をついてしまった。

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