❖閑話休題❖ ワタシの名前はハナ
夏休みに入った頃、警察からあの鳥の飼い主が見つからないので俺のものになると連絡がきた。
俺には懐いてくれたが家族は完全無視という潔い性格の鳥である。
毎日鳥かごを掃除して餌を新しくして水も取り替えて、ペットショップの人が言った通りに小松菜だのブロッコリーだのリンゴだの与えている。
鳥は美味そうに食べながらたまに一口分を俺にくれようとするのだ。
俺、雛鳥だと思われてんの?お前さんよりずっと大きいと思うんだけど……。
ペットショップでカゴを買い、後日お礼の菓子と一緒に借りていたカゴを返した。
そこら辺はさすがに母親が一緒に来て金も出してくれた。
改めてウチの一員となった鳥はいつまでも「鳥」と呼ぶのも何なので「ハナ」という名前になった。
最初「アオ」ってつけようとしたが、さすがにそのまんま過ぎだって弟が言うからさ。
母親がいつの間にか「ハナちゃん、ハナちゃん」って呼んでて、成り行きでハナになった。なんか昔の言葉でハナイロってのが青のことなんだと。オスかメスかわかんないけどまあいいだろ。
ハナはカゴの戸を開けてやると体操するみたいに脚を片方ずつ伸ばし、羽も伸ばし、ぶるぶるっと体を震わせてから徐ろに飛び出してくる。
それから肩に止まって「ぷいい!」と大声で鳴くのがお決まりの行動だ。これがまた頭に響くんだよ……ぜったい近所に聞こえてる。
ヒトの手に降りてきたハナがさんざん頭なでろだの喉をなでろだのそのなで方は気に食わねえだの好き放題した後は、また肩に戻って俺の髪をちくちく毛繕い……痛ってえ! 痛えよ! 繕うなよ! 俺は人間だーーー!
すごくちっちゃくてフワフワのヨワヨワなのでこっちも怖々なのだ。噛まれても髪を引っ張られてもぐっと堪えている。
ハナも俺のことは信頼……信頼なのかな……シモベだと思ってんじゃないかな……。
ハナは水浴びも大好きだ。
どれくらい好きかってえと、カゴから出て遊んでて水浴びしたくなると、自分で洗面所に飛んでって「ぷいいい!ぷいいいい!」って大声で呼びつけるんだ。で、人間が(たいがい俺だ)追っかけてって水を出し、手のひらに受ける。
ハナ様、徐ろに手の上で水浴びをする。そらもうそこら辺じゅうビッシャビシャになるさ。俺の顔やら服やら床やら。
気の済むまで浴びたハナはぶるぶるっと水を撥ね飛ばすと、俺の服に頭や体をこすりつける。すごく、ものすごく鳥臭い。
ちょっとちくちく毛繕いしてはヒトに頭をこすりつけ、またちょっと毛繕いしては体をこすりつけ、挙句人の指をクチバシで引っ張って「ここをカキカキしろ」だよ。まったくもう。




