17 乙女を助ける騎士様(ただし俺ではない)
リザニールは顆粒状の薬剤を土に直接撒いた後、まんべんなく水をかける、と説明書きにある。井戸端で水を汲んでいると、遠くで女の悲鳴が聞こえた。
「助けて! 助けて!!」
俺は考える暇もなく深緑の草を踏んで走り出す。
タカヒロも後を追ってきたが、天はタカヒロに頭脳と料理の才能と割とイケメンな顔を与えても俊足にはしなかったらしい。
そして足はかなり速いはずの俺をはるかに追い越して須美が駆けていく。
蛇行した川の、川石がゴロゴロ露出しているあたりまで来ると、牛ほどもある巨鳥がエイセニアの豊かな腰の辺りをくわえ、今にも飛び去ろうとしている。
エイセニアのひらひらしたドレスは破れ、傷だらけの腕や脚がむき出しになっていた。
「何すんのよこの鳥! その子を放しなさい!!」
須美が巨鳥に向かって木のバケツを投げつける。
「エイセニアを放せっ! ファイヤーボール!」
しかし鳥はびくともせず、エイセニアを銜えたままバサバサと羽ばたいた。
えーーーと、ファイヤーの大きいやつ……はエイセニアが危ない!
「ウォーターボール! の、もっと大きいの……えっと、大津波!」
「そこはタイダルウェーブじゃないの!?」
須美の的確なツッコミが功を奏したのか水の塊が鳥に向かって押し寄せる。
鳥はエイセニアを地面に落とすと、すかさず俺にクチバシを繰り出してきた。
木のバケツを盾のようにして攻撃をかわすが、何しろ鳥が大き過ぎ、力も強過ぎ。
やばい、逃げないとこっちがやられる。
須美がすかさずエイセニアの手を掴んで、やっと追いついたタカヒロと3人で川から少し離れた木陰に逃げ込んだ。
ところが、涼しい木陰に飛び込んだ途端、目の前に魔物ナメ。
前門の鳥、後門のナメクジかよ。
えい、昨日の敵は今日の友、じゃなくて敵の敵は味方だ!
俺たちは巨鳥をナメクジに任せることにして(いや、ナメクジを巨鳥に任せたのか)そのまま村を目指して一目散。
エイセニアはミミズだけあって走るのはあまり得意ではないらしい。
俊足の須美がエイセニアの手を握り、引きずるようにして必死で村まで走った。
エイセニアはうわ言のように「助けて、鳥が、鳥が」と繰り返しながら須美にすがりついていた。
メガネのない彼女は、少女マンガのお約束のようにきゃしゃな目鼻立ちの美少女っぷりを余すところなく露呈している。
手足の傷はどれも擦り傷のようだったが、鳥にくわえられた腰の辺りからドレスが破れて、白い腹や肩、豊かな胸元が見えている。
乱れた三つ編みや細い首も痛々しい。
な、何か被せてやるもの。
マントでもあれば颯爽と傷ついた乙女を包んでやれるのだが、あいにく布といっては土を運ぶ麻袋くらいしかない。
須美がさっと自分のパーカーを脱いでエイセニアに着せてやった。
「もう大丈夫。あなたケガだらけよ、家まで送るから手当てしないと。
あたしは藤木須美、こいつらと一緒のクラス」
「は、はい、……あなたは騎士様? なんてお強いの……助けてくださってありがとう。
わたし、エイセニアです。家は村はずれの、そこの茶色い家なの……」
エイセニアを家に送り届けると、茶色い肌と茶色い髪のエイセニアにちょっと似た感じの女の人が何人も出てきて「エイセニア様」「どうなさったのですか」「よもやそこな魔導士がエイセニア様に無体を」などと口々に言いながらエイセニアの手当てをしてくれた。
タカヒロが事情を説明して謝ったけど、何でみんな俺のほうを疑わしげな眼で見てるんだろ、しょぼん……。




