16 つよそうな薬とうまそうな菓子
翌日の夕方、学校裏庭の庭園でタカヒロが待っていた。
「三角、新作の味見しない?」
「また何か作ったのか」
タカヒロはベンチに置いてあるクーラーバッグからいそいそと辞書サイズのタッパーを取り出した。
中には親指より少し大きめのシュークリームがぎっしり入っている。
「クリームの味、7種類あるんだ。食べてみてよ」
ひとつつまむと、薄紫のクリームがはみ出て見える。
そのまま一口で食うと、甘酸っぱいクリームの中につぶつぶしたものが混ざっていて、ひときわ酸っぱくて香ばしい。
生地の部分はタッパーに詰め込まれていたとは思えないほどさっくりして、ほのかに玉子のいい匂いがする。
「うまっ! お前本当によく作るよな」
タカヒロはニヤリとした。
「それはブルーベリーだね」
もう1個食べると、今度は濃い黄色のクリーム。
甘いのに、ほくほくした歯触りも感じられる。
「カボチャだよ。裏ごししてクリームに入れたものの他に、軽くゆでて賽の目に切ったのも混ぜてるんだ」
チョコレート、イチゴ、ニンジン、普通のカスタードだけのもの。
この緑のだけわからないなあ…
「どうしても聞きたい?」
タカヒロはひとの悪いにやにや笑いをやめない。
全く、逆さに吊して吐かせてやろうか。
「ピーマンをちょっとだけ入れたんだよ。意外とわからないみたいだね」
「で、殺虫剤の件だけど!」
「わ、三角ったらやだなあ、そんなコワイ顔。
ピーマン嫌いだった? でも食べられたでしょ」
お前は偏食の子供に野菜食べさせるお母さんかっ!
「うちの母親は、リザニールは他の生き物にも影響があるようなこと言ってたけど……どうせ他の生き物ったって害虫だろ?
まとめてやっつけられるんだったら願ったり叶ったりじゃね?」
「うーん、そういうことなのかな……。
そしたら、今夜、試してみようか。……帰りに買っていこう」
活動費で買うことにして、帰り道ホームセンターに寄り、5kg入りの袋を買った。
その夜、さっそく打ち合わせ通りタカヒロが俺を召喚した。
リザニールを担いで異界に出ると、すでに須美も井戸の傍で待っていた。
こいつを撒いておけば、明日の朝にはこの異界のナメクジどもは全滅だ。
何日もナメクジにナメられ続けたが(うう……。自分ながらキショイ表現をしてしまった)今度こそ俺たちの勝ちだ。




