15 新たなる味方を召喚(そんなつもりはなかった)
放課後の図書室で農薬を調べまくってたら、あまりに怪しかったのか司書のおねーさんに捕まってしまった。
「う、うちの部活で花を食われたんで! ナメクジやっつける薬調べてただけです!」
目が泳いでたせいか、変な汗かいてたからか。
司書のおねーさんがなかなか信じてくれなくて、宿題か何かやってた須美がいちおう顧問の大森先生を図書室に引っ張ってきて、いちおう園芸同好会が本当に存在すること、こないだ花の苗買ってきてホソボソと活動していることなどを証言してもらう羽目になった。
「で、その怪しいクスリをどうすんのよ」
「べ、べ、別に怪しくなんかない、普通に農薬だ! 花にかけるやつ! 虫、殺す!」
いちおう普通に買える自然派の農薬を買ってくることに成功したが、なんでだか須美が学校裏の庭園(ほぼ雑草)までくっついてきてしまった。
「三角、薬買ってきてくれた? じゃあさっそく」
タカヒロのアンポンタンが、須美がいるのに召喚アイテムを使ってしまった。
もうほんとこのポンコツがいつの間にかレベルアップしてやがり、須美まで異界に飛ばしてしまうなんて誰が予想しただろうか。
「あれ? 藤木さん」
あれじゃあねえだろう。
須美はキョロキョロしているがパニックになったり騒ぎ立てたりはしない。
いや、これはもしかして機能停止か? すぐ還せばごまかせるか?
「なんで、こんなところ? さっきの荒れ庭は?」
須美さん停止してなかった。ちゃんと理性が仕事してました。さすがと言うかなんというか……。
もうこれは2人分の脳ミソより3人分のほうがマシだろうということで、タカヒロが須美にだいたいのところを説明した。
「ふーーーん、それで最近ふたりでつるんでたんだ。
で、何? 電子レンジ、農薬撒いて花が元気になったら元の世界に戻れるのね?」
須美はもうちょっとアタフタとかしなくていいのかな。
まあ協力してくれるんなら助かるんだけどさ。
ところがどっこい、農薬も一時しのぎにはいいけれど、2回くらい使うともう効果がない。
こんなものなんだろうか。
再チャレンジということでネットで調べると(俺だって動画サイト以外の使い方も覚えられるんだぞ)、殺虫剤の「リザニール」とかいうやつが強力にナメクジの呼吸を抑制し死に至らしめる、とある。
リザニールかあ……しかも肥料としての効果もあるなんて書いてるぞ。
値段もそこそこ、これを「魔法の薬」ということにして異界に持ち込んだらどんなものだろう。
「リザニール……初めて聞いた。そんな強力なんだ……大丈夫かな?
三角、もし聞けたらさ、三角先生に使ったことがあるか聞いてみたら」
翌日は秋晴れの土曜日で、庭仕事をする母親を俺は何年かぶりにまじまじと眺めていた。
母親は雑草を抜きながら見つけたコガネムシやナメクジをひょいとつまんではあっさり捕殺している。
女って案外こういうこと平気だよなあ……。
相談なんてする気はなかったのだが、永遠の反復運動みたいなその姿に、思わず聞いてみた。
「ナメクジ退治にさあ、リザニールとかいうやつ使わないの?
あれ、すごい効くんだろ」
「リザニール、ねえ。あんたよくそんなもの知ってるわね。
確かに効き目は抜群なんだけど、他の生き物まで殺しちゃうからねえ……。害虫も多いけど、良い生き物も結構いるでしょ。
だから私はテデトール派よ」
母親が肥料を埋め込みながら言う。
「テデトールって何さ」
「手で取ーる。
ま、実際は箸とか軍手ね、毛虫の毛でアレルギーとか、ナメクジやカタツムリならバイキンとか寄生虫とかあるから。捕まえちゃえば、後は煮るなり焼くなり踏むなり」
「でも手じゃ限界あるじゃん、学校の花壇なんてバラだけでも何十本も植えてあるんだぜ。手で取ってたら明日の朝になっても終わんないよ」
「えー、何十本か程度だったら手で充分でしょう。百本や二百本のバラなら、手で虫取って絶滅させるくらい園芸やる人なら普通普通」
すげえ。
おばさん園芸家最強。
人生で初めて母親すごいと心から思いました。
しかし、現実にはやっぱりとっとと薬で一網打尽が迅速かつ確実じゃなかろうか。




