14 ナメクジ、トラップ、ファイヤーボール
最近すっかり学校での昼飯どきは花壇の傍のベンチが定位置になった。
タカヒロは時々俺の分まで弁当を詰めて来る。
無理やり巻き込んだ詫びとでも思ってるんだろうか。
「だいぶ涼しくなったねー。
今日の夕方は、この間買ったバラの苗、植えてしまわないと。明日から2、3日雨だよ」
タカヒロがのんびりと言う。
弁当箱の中身はちっちゃいトンカツ、鶏の唐揚げ、タマゴ焼き、何か野菜の茹でたの、グリーンピースとかハムとか入った小洒落たゼリーみたいなもの、椎茸とサトイモとニンジンの煮たの、スパゲティ……。
朝からこんなに料理すんの?
「いや、常備菜として作っておいた物のほうが多いよ。
食べなよ」
付き合いたてのカレシに尽くす女みたいだな……。
須美が怒りたくなる気持ちもわからんではない。
「タカヒロさあ、女の好みってやっぱお姫さんみたいの? 現実の女だと違う感じ?」
タカヒロは弁当を食べていた手を止めて、怪訝な顔をしている。
「女性と言えばもちろん姫君でしょう。人界だろうと異界だろうと冥界だろうと。
背はすらりと高く、細くて折れそうだけどそれでいてしなやかな体つき。
髪はいつも結っておられるけど、ほどくと背を覆うばかりに長くてきらきら輝く赤褐色なんだ。
大きな眼は金色で、僕をちらっとご覧になるときの冷たい目つきがたまらないんだよ。
睫毛が長くて、眼を伏せると頬に陰ができるぐらい。聡明でユーモアがあって、でも近寄りがたくて…………」
タカヒロにしては珍しく饒舌にバーサン姫の美点を数え上げた。
うーん、やっぱ須美とはタイプが違いすぎるなあ……俺が会ったあのバーサン姫とも壮絶に違いすぎるってことはさて置くとしても。
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数日に渡ってエイセニアが教えてくれた場所にトラップを仕掛けた結果、かなりの数のナメクジを捕獲できた。
長老はいたく満足したらしく、タカヒロと俺を自分の屋敷に招き、村の住人に成果をお披露目してくれると言う。
「すばらしいわ、魔導士様」
長老の義姉、セクシー美女のアケイシャがうっとりと俺を見てとろけそうな眼付きと甘い声で言う。
これまでトラップを作る俺たちを胡散臭げに見ていたひとびとが大勢集まっており、「召喚士様と魔導士様のお陰ですわ」「これからは安心して蕾をつけられる」「葉も食べられなくて済むから」「もっと大株になって枝を伸ばしてもいいのね」などと口々に言っている。
アケイシャは俺の腕を取ると、きれいな女の人たちの間をにこやかに挨拶しながら長老のところへ連れて行った。
「素晴らしい働きをしてくれましたな、魔導士よ。
これからも召喚士とともにこの村のために力を貸してくだされ」
「はあ、頑張ります」
なんだか自分が間抜けに思えてくるのはどうしてだろう。
だが、ナメクジトラップの穴掘りが重労働過ぎだ。
こんなに毎日肉体労働してるのに、律儀に結構な数のナメクジがかかるってことは、まだまだ魔物ナメは一杯いるんだろう。
俺たちの努力も、氷山の一角をちょっこり崩してかき氷にしたくらいの効果しかないような気がしてくる。
来る日も来る日も落とし穴を見回ってファイヤーボールってのもなあ……。いつになったらタカヒロから解放されるんだ、俺。
もうちょっと積極的に、攻めのナメクジ退治はできないものか。
「なんかさあ、農薬で一気に解決とかできないもんかね」
タカヒロに言ってみる。
「うん、僕もそう思ってた。何か他の方法考えてた?」
最初に使ったスプレーの殺虫剤は、こっちに大ダメージになる。
あの眩暈と吐き気はできればもう勘弁してもらいたい。
「前にネットとかで調べたとき、何か駆除薬があるって言ってただろ。もうあれ使ったほうが早くないか?」
「そうだね……三角先生に何かアドバイスしてもらえないかな」
「うちの母親かぁ……」
タカヒロが首を傾げ、ちらりと俺を見た。
「普段あんま喋んないんだよな……喋るネタもないしさ」
「そんなもの?昔から?」
「いや……、ガキの頃は親の後くっついて歩いてたけどさ……。
フツウだろ、いつまでもガキじゃないんだし。
母親なんて何もわかってないくせに口うるさいばっかじゃん」
「そう?そうかあ……まあ、農薬ぐらいなら種類とか値段とかネットで調べられるんじゃないかな」




