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12 アリディフォリアさんの実力



 今日もまたまた飽きずに魔物ナメクジ対策のトラップを作っている。

 柔らかくて掘りやすいとエイセニアが言っていたあたりは、エイセニアの家にほど近い村はずれだった。

 からりと開けて日当たりが良く、しっとりと濃い土色の畑がなだらかに起伏を繰り返してどこまでも広がっている。

 村のひとびとは、てんでに訪れてこの畑を大切に手入れしているそうだ。

 しかし、畑に何か植えられているようには見えない。

 ただいつもきれいに耕され、堆肥を入れ、雑草を抜き、保たれている。


 ただきれいにしておくだけの土地?

 不思議に思いながら念のため魔物除けにコーヒーの粉を撒きながらエイセニアの家を通り過ぎる。

 もうちょっとこう何とか、一気にナメクジを片付ける方法がないものだろうか。

 タカヒロは姫君の見舞いに行ってから追いつくと言っていたがなかなか来ない。ちくしょう、今日は100%俺が穴掘りかよ。

 ぼんやり考えながら土を掘り返し、ふと後ろを振り向くと、目の前にお会いしたくない魔物ナメが接近していたのだった。

 ぬめっとしてぬらっとして意外とデコボコのある体表を見て、俺はトリハダが立った。

 俺の世界のナメクジなら手のひらサイズだが、こいつは小型イルカくらいあり、眼はどこを見ているのかわからず、ねっとりとした口からじわりと覗く細かい歯(歯だよね、あれ、やっぱ。口の中にあるし)は、異界にいる限り俺たち人間など簡単に引き裂くことができる。


 ナメクジはコーヒーの粉をものともせず、俺に向かって突進してきた。

 コーヒーの粉、効かないじゃん……。

 まだら模様の茶色の顔、歪んだ口がぬめりと目前に迫る。

 何か、何か呪文! 何か、ほら、いい感じの!

 ポケットの塩とか塩とか塩とか……ない! いや、持ってても相手があのサイズじゃタカが知れてる!

 ナメクジの生臭いにおいが背後に迫った。

 だめだ、やられる……。

 その時、緑の影が俺の前にすっと降り立った。

 鋭い銀の光が閃き、大鎌の刃が息を呑む間もなくナメクジを一刀両断する。


「ふむ、あっけないな」


 意外に良く透る高い声でアリディフォリアがつぶやく。


「あ、ありがとう……、助かった」


 何だか腹の中がよじれるような感じがしてなかなか声が出なかったが、ようやく礼を言った。

 ナメクジはものの数分でアリディフォリアの餌食となった。

 餌食。

 文字通りの意味で。

 華奢な肢体のイケメンのくせに、こいつものすごい大食漢らしい。

 しかも生肉……。

 当分ユッケとタルタルステーキは食いたくない。

 アリディフォリアは口元を払ってちらりと俺を振り返り、きらめくグリーンの眼を眇めて薄く笑った。


「安心しろ、お前は喰わぬ」


 あ、当たり前だ!

 タカヒロくーーーん、キミの友達、ちょっと怖いよう…。


 アリディフォリアはくりりっと首を傾げている。

 こういう仕種は昆虫っぽいね。


「やはりお前たちのやり方は解せぬ。

一度に喰いきれないほど捕まえて、ただ殺すばかりではないか」


 食べるためにナメクジ捕ってるわけじゃないんですってば……。


 やっと来たタカヒロをつかまえてアリディフォリアに助けてもらったことを話すと、実にのんびりと


「あー、そうだろうね。

かまさんは肉食だから」

「ででででもさ、あのサイズのナメクジをものの数分で完食ってスゴ過ぎね?」

「交尾後のオスを喰うときはもっと速いらしいよ。

逃げられないうちに喰わないといけないって言ってたし」


 交尾後?オス?


「カマキリだから」


 そこじゃなくて。


「かまさんが女性だって知らなかったの?」


 知りませんでしたー。

 メスだったのか……。

 そして、俺なんか問題にならないくらい強いのか……。

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