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11 美少年を推す姐さん



「電子レンジ、あんた何でこの頃堀部くんとつるんでるのよ」


 教室に戻ると、ガシガシと足音がして隣の席の藤木須美に窓際まで追い詰められた。

 この女は同中でずっと同じクラスだったが高一でクラスが分かれ、今年再び同じクラスになってしまった。

 俺より少し背が高く(タカヒロよりだいぶ高いよ)椅子2つを軽々と振り回すから近寄るのはキケンキケン!

 吹奏楽部でもきっとホルンとかチューバとか武器代わりに使っているんじゃないだろうか。


 あと俺は電子レンジじゃねえ三角レンジだ。お前は俺でコロッケあっためる気か。

 

「同じクラスなんだ、喋んの普通だろ」

「あんたと付き合ったら堀部くんがおかしくなっちゃう」


 なんだ、こいつ。

 顔に似合わず頬っぺた真っ赤じゃん。

 でもそんな顔してると、もしかして顔立ちは整っていないこともないのかもと思えてくる。

 眉が濃くてきりっとした目つきをしているから、美人とかきれいとか言う前に「姐さん」という表現が浮かんでしまうんだが。

 筋肉質のすらっとした体つき、背まで届くポニーテールのシッポ。

 これで乱暴者でさえなけりゃあ、女子としては結構見栄えがするほうなんじゃないかな、もしかして。


「堀部が好きなわけ?」


 うっかり口に出してしまったら危うく窓から突き落とされそうになった。


「それなら、俺を攻撃するより直接堀部と話せばいいじゃねえか……

ちょっと話しかければ色々喋れるだろ」

「声、かけたわよ。

かけたけど、いんぐりっしゅとかふれんちとか古いのがどうとか言って、何話してんのか全然わかんなかった。

あと、車?」


 イングリッシュローズとフレンチローズ、古いのはオールドローズだろうか。

 しかしなぜ突如車の話?

 あ、ハイブリッドカーか…ハイブリッドにも色々ござんすね。

 ハイブリッドティー、とか何とかいう話をさっきタカヒロがしていたような。

 俺はがっくりと頭を垂れた。


「須美…堀部は園芸オタクだ。

園芸同好会入ってあいつに一から教えてもらえばいいじゃねえか」

「無理だよ。

電子レンジみたいな暇人と違って、あたし吹奏楽部の次期部長だもん」


 そうか……いい手だと思ったんだけどな。園芸同好会の人手も増えるし。

 次期部長じゃ部活の掛け持ちはできないし、まさか辞めるわけにもいかないよな。

で、俺は電子レンジじゃなくて。


「4月に、1年の時から一緒に吹奏楽やってた子が辞めるって部長に言ったんだけどさ。

部長から屋上に呼ばれて」


 えっ……呼び出し!?

 しかも屋上ってベタ過ぎ。


「屋上のフェンスの前で靴脱いで座布団10枚積んだ上に正座させられて。

3年部員総勢32名でサメザメ泣きながら周りを取り囲んでたんだって」


 結局その女子は今でも吹奏楽部にいて、フルートのパートリーダーを務めているそうな。

 全国吹奏楽コンクール高校の部の入賞常連、聖ウィンター高校吹奏楽部の強さの秘密を見た。


「それで、あんたいっつも堀部くんにくっついて何してるのよ」

「くっついてるわけじゃねえ……メシ喰ったり話してるだけ」

「ふーん……それだけ?」

「それだけ、それだけ。

そういや、あいつの作った菓子はそこらの菓子屋のより美味かった」


 よけいなこと言わなけりゃ良かった……。

 長いポニーテールのシッポがムチのように飛んできて、再び窓から突き落とされかけた。

 お前の怪力じゃシャレにならないよ。

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