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9 まどうしってことはまほうがつかえるのか

 


 翌日の放課後、、待ちきれない様子で堀部タカヒロが声をかけてきた。


「どうだったと思う? トラップ」

「あー、どうだろな。

行って見ればいいんじゃないか」


 しまった。

 一緒に行かなくたって良いんじゃん。

 ま、どうせお前一人で行けと言ったところで無理やりお供させられるんだろうけど。


 とりあえず、俺たちが必死で掘ったナメクジトラップにはあの巨大なナメクジがしっかりとハマり込んでいた。

 あんまり直視したくない感じでぶんにゃり大人しくなっている。

 ……この後どうするんだろ。


「ほうほう、なるほど魔物を捕らえたのでございますな」


 長老がトラップを覗き込んでいる。

 

「さあさあ魔導士殿、魔物を浄化してくだされ。さすればこの場所は健やかとなりまた作物を植えられるであろうよ」


 そう言うと思ったよ……。

 堀部タカヒロをちらりと見る。

 おい、堀部。なんかこういう時のネタないのかよ。

 しかし堀部の奴は意地でもこっちを見ない。

 

 浄化、浄化……ナメクジの苦手なもの、銅線、捕殺、ガスバーナー……

 堀部と図書室で調べたことが頭の中をぐるぐる回った。脳ミソがキャパオーバー。

 えい、ここは何でもありのファンタジー世界! 魔導士の仕事は魔法を使うこと!!


「ファイヤーボール!」


 ボシュっと。

 バレーボール大の炎の塊がナメクジトラップに飛び込んだ!!

 アルコールに引火したのか、あっという間に青い火柱が上がる。

 

 魔導士として召喚されたら、魔導士なんだなあ。

 そんな阿呆みたいなことをぼんやり思いながら、俺は紙コップとナメクジが燃え尽きるのを見守った。


「もしかして、もしかするとナメクジが出たら直接魔法でやっつければ良いんじゃないか?」


 ちょっと光が見えた気がして、俺たちは辺りを見回した。

 ぶんにゃりした陸イルカ風味の魔物ナメはわりとそこらにいる。

 なるべくなら気づかれたくないので木の陰から狙って魔法を打ってみた。


 「(小声で)ファイヤーボール!」


 だがしかし、そうは問屋が卸さない。魔物ナメクジはこっちに気が付いて、火なんぞ物ともしないでずいずいと追いかけてくる!


「ファイヤーボール! ファイヤーボール! ファイヤーボール! ファイヤーボール! ファイヤーボール!」


 何回叫んだかわからないくらい連発してやっと逃げ切った。魔法って疲れる……。体力的な何かのエネルギーを魔力に変えるんだろうか? こっちが陸に上がったイルカみたいになってしまった。ぶにゃり。

 あのぬめっとした体は火にわりと強いのかも知れない。何かの間違いで魔導士になった俺の魔法ごときじゃアルコールの手を借りてやっとこナメクジに効果がある程度なのか。でも、酒のトラップごと燃やすという方向性は見えたわけだ。


******


 もちろんそれからはナメクジトラップを作りまくったさ。

 といっても所詮人力、しかも相方は堀部タカヒロ。

 やっぱり力仕事の三分の二は俺担当。

 あと、ファイヤーボールがなかなかアルコールに着火しないこともあって連発するから、すっげえ疲れる。なんだこれ。役割分担どっかおかしいところないのか。


 次の穴をどこに掘るか考えるフリで腕を休めていたら、ふわふわした茶色の髪をきれいに三つ編みにした少女が声をかけてきた。


「魔導士様、でしょう?

魔物退治にいらっしゃったんですって?」


 少女は俺たちのそばを一緒に歩きながら、


「このあたり、土が柔らかいわ。白い塔を埋めるならいい場所よ。

もしかしたらコガネの幼生体も埋まってるかも知れないけど」


 と笑いながら手を差しのべた。


「どうしてそんなことがわかるんだ?」

「私、土のことは誰よりもよく知っているの。

エイセニア・フェティーダよ。

ね、ここを見て。煉瓦の壁際に、ナメクジが隠れる場所があるはずなの」


 彼女はつま先でくるりと回り、薄いピンクのスカートがひらりとめくれて柔らかそうな足が見えた。

 アニメキャラだったら主人公じゃないのに隠れファンがつくタイプだよなあ……天然メガネっ娘で意外にグラマー。

 あの娘の素晴らしさは俺だけが知っている、みたいな……


「三角……、言いにくいんだけど」


 タカヒロがぼーっとなっている俺の袖を引っ張った。


「エイセニアの人界での姿はちょっと想像つかないと思うんだ」


 そっか、向こうへ帰ったら長老やお姫さんはバラの木、かまさんはオオカマキリだもんな。

 じゃ、エイセニアは?


「土を浄化する女神様、ミミズさん」


 わあ。


「私の仕事は、大地の毒を浄化して土の中の生き物をバランスよく増やし、豊かな土にすることよ。

土の中にはあなたたちの見たことのない生き物がいっぱいいるの。

ナメクジはほんとは敵じゃないわ。

でも、確かにこの頃のナメの大きさや増え方は、おかしいわね」


 彼女は三つ編みをそっと引っ張りながら、憂いを帯びた顔で言った。

 何だって?

 ナメクジはほんとは敵じゃない……?

 だって、あの気色悪さだぞ。

 タカヒロの大事なバーサン姫を枯らしかけたんだろ?

 長老だって、魔物退治のためにタカヒロや俺に協力させているんじゃないのか。

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