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オススメ事故物件、今ならサービスで異世界ワープお付けします。  作者: 枝久
2ー4 

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八つ当たり

 この異世界ではもう不要となったゴーグルを外し、前方を見る。

舞い散った氷の粒達がキラキラと光に反射して、幻想的な氷上の景色が広がっている。

……ダイヤモンドダストだっけ? 綺麗だな。

小学五年生の時、教室の窓際、先生の机の上に置かれていた小さなスノードームを何故だか思い出した。


 ぼんやりと目の前の光景を眺め、佇んでいたところ……突如、強い衝撃を腹に感じる‼︎


 ドゴンッ‼︎


 そしてその勢いのまま、硬い氷上に倒された‼︎

手に持っていたゴーグルは、くるくると何処かへ滑っていってしまった。


 最終ステージクリアで完全に気を抜いていた……モーションに入ったのに、全く気づかなかった。


 バッターーンッ‼︎


「……っ‼︎」


 一瞬……痛みで呼吸が出来なかった。

俺は腹を抱え横たわりながらも、蹴ってきたその人を視線だけで見上げる。

 

 小柄な彼女の回し蹴りが俺の脇腹に綺麗にきまり、脆弱な肋骨にさらなるダメージが加わったのだ。

俺の背中を足蹴りしなかったのは、スケート靴を履いていた彼女の最上級の配慮……なのだろうか。


「……」


 何も言わずに彼女は、俺の襟をがっと掴み上げ、マリオネットのように身体は上体反らしのポーズを取らされる……骨が(きし)む音を上げ、激痛で意識が飛びかけた!


 ゴロンッ!


 冷たい氷の上で、襟で舵を取るかのように、今度は身体をくるりと回旋させられ、仰向けになった。

背中から伝わる氷の冷たさが、アイシング効果となって、少しだけ胴回りの痛覚を麻痺させてくれた。


 彼女は俺の上に馬乗りになって……顔面に一発、一発、拳を振り下ろす!


 ゴンッ! ガッ! ゴッ! ギッ!


 振り払う気力も体力もこの身体には残っていない。

彼女のなすがまま……。


 最初は自己防衛で目を瞑っていたが、今は頬の肉が邪魔して、目が自力で開けられそうにない。

だけど、感じる。

顔が腫れて、皮膚が熱を帯びている……その肌表面にポトポトと、落ちてくる水滴も……。


「なんで……なんでよっ! ……やっとまた会えたのに……また消えるなんて……空。……ねぇ、なんで君はここにいるの? あたし達二人だけの世界に……なんで他人がいるのよ……あんたのせいよ!」


 今度はドンッと、俺の胸を両手で強く叩く!


「ぐっ!」


 追加でさらに肋骨が砕けた気がする……完全な八つ当たりだ。

肺が上手く膨らまない。

浅い呼吸で、俺はなんとか声を絞り出す。


「……あ、貴方がソラさんじゃ……ないんですか?」


 俺の言葉で、(またが)る彼女は身体をビクッと震わせる。


「……あたしは『宇宙』って書いて、ソラ……あの子、君には『ウルエ』って呼ばせてたんでしょ?」

「は……はい」

「漢字は違うけど、あたし達、名前の読み方が一緒なのよ。青空の『空』……この漢字、カタカナの『ウ』・『ル』・『エ』で構成されてるでしょ?」


 彼女は空中で字を書くように、手を動かしたようだったが、目の開かない俺は真っ暗な自分の瞼の裏しか見えない。


「中学二年の時、転校してきたあたしを揶揄(からか)おうとするバカな男子達が、あたし達の名前の区別するためにって、変なあだ名をつけようとしたの。そしたらさ……『私はウルエでいいよ。この子はソラちゃんって呼んで』って……本当、バカだよ、空……」


 自分よりも常に他者を優先する……ウルエさんは死んでも、変わらずにそのままの性格なんだな。

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