クソ鳥野郎!
胴体から切り離された左の翼が、空中を一旦舞ってからドサッと氷面に落ち、それはピクリともしない……切れた部分からの再生はないようだ。
そのまま、バニラ鳥は片翼のまま何事もなかったかのように踊りつつ、氷上ステージ中央……定位置へと滑り戻った。
感情の『喜怒哀楽』はあるが『痛み』はプログラムされていないようだ。
攻撃を受けた『怒』よりも、ウルエさんを仕留めた『喜』が勝ったのだろう……ちっ。
ふと……以前、遊園地の日雇いバイト中に見た、親に買ってもらった二段アイスクリームのアイス部分だけを食べる寸前に落っことした幼い少女を思い出した。
天国から地獄への表情変化がとても印象的だった。
コーンの上から逃げ出したチョコレートアイスとストロベリーアイスは、食べられることよりも自死を選んだ……と、くだらないことを思い描いたっけ。
現実に目を戻す。
翼を捥がれた箇所から、乳白色の液体がぽたぽたと垂れ流れるが、すぐにパキパキッと凍る。
「ちっ! クソ鳥野郎がっ‼︎」
ソラさんが大人しそうな見た目とは真逆の言葉を吐き出し、額にあったゴーグルを下ろす。
ゴーグルから飛び出たマスク音と、怒りと共に込めた弾丸の装填音がカシャッと見事にハモッた。
今は彼女に丁寧な説明をしてる場合ではない。
自己紹介含め、全てを省いて状況を告げる!
「音楽が変わると、高速スピンで鋭利な氷の羽根か、灼熱のバニラの羽根を飛ばしてきます! 当たれば即死です!」
「……オッケー。私は本体を狙う。君は足元を狙って」
彼女の判断が俺のと相違なくて、小さく安堵する。
言葉はいらない。
目的はただ一つ……バニラ色のクソ鳥野郎をぶっ飛ばすことだけ。
ジャーーンッ‼︎
三度目の曲の変調……来る!
さっき吹き飛ばされた片翼分の質量が減ってるから、攻撃力も少し減るはず……バランスが偏ったことで、スピンの力も弱まって……。
すると、目の前の敵は残された翼を天高く伸ばし、顔を空へと向け、自身の回転半径を小さくしやがる!
……っつうことは遠心力増大⁉︎ 殺傷能力アップ⁉︎
あぁ、やっぱ、こいつムカつく‼︎
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ‼︎」
羽根が飛んでくる前に、持ち合わせた武器ありったけの弾丸を奴の足元の氷面に絶え間なく撃ち込む‼︎
あいつの回転力を上げさせてはいけない‼︎
氷面を荒らして、滑らかな高速スピンを回避せねば‼︎
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ‼︎
一心不乱にアサルトライフルの銃身を向ける‼︎
止まれっ! 止まれっ! 止まれっ! 止まれーーっ‼︎
「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ‼︎」
ソラさんも本体に向けて連射するが、奴の纏う冷気と風圧で弾丸は悉く重力に従って落下する!
ゴトン……コロコロコロコロ……
凍りついた弾丸が荒れた氷面を転がって……俺の足元にまで、いつの間にか到達していたらしい。
だが、それに気づかずに乱射を続けていた俺は……見事に踏んづけて、派手にすっ転んだ‼︎
つるん、べしゃっ‼︎
「ぐえっ! ぐぉぉぉっ痛ぇぇっ……はっ、ヤベッ!」
転倒した拍子に、明後日の方向に打ち上げてしまった弾丸達!
ある距離まで飛行し……そして、力尽きては墜落する。
ひゅーーん、スポッ!
………………
……シュッ シュンッ‼︎
「「⁉︎」」
今のって……何? もしや……くしゃみ⁉︎
えっ⁉︎ 鳥って……くしゃみするんだ。
偶然、奴の鼻の中に俺の放った弾丸が吸い込まれた……のか⁉︎
ぐらっ!
予期せぬ身体の反射によりバニラ鳥の巨体が回転を止め……中心軸がずれ、傾斜する‼︎
その隙を見逃さず、ソラさんがチョコレートフォンデュ弾をウルエさんのロケットランチャーで撃ち込む‼︎
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ‼︎」
ズドン! ズドン! ズドン! ズドン!
彼女の放った四弾は全弾命中!
身体のあちこちを吹き飛ばされたラスボスは……氷上から消え散った……。
『殲滅完了、最終ステージクリア!』
ゴーグルが発するいつもの機械音が……俺には少しだけ優しい音に聞こえた気がした……。




