油断
流れ聞こえるヴァイオリンの優美な音楽とは真逆……ギラつく武器を氷山の陰から敵の巨体へと向けつつ、ソラさんのいる氷山へとすっと意識を割く。
キュィィィィィィィンッ……ドゥルンッ!
チェーンソーの音が止まった⁉︎
がばっ‼︎
姿勢を思いっきり捻り反らして、ここから見えそうで見えない彼女らのいる氷山の向こう側に視線を送る!
ぐぎぎっと眉間に皺を寄せ、目を凝らすと……わずかに見えた!
スローモーションのように弧を描いた白い……白い手袋をはめた……小さな手?
ウルエさんはフィンガーレスグローブだ……あれはソラさんの腕‼︎
よしっ!
ガチャッ!
氷上で踊る鳥に素早く集中を戻し、PDWをぐっと握り締める!
この銃の弾丸は、キャラメリゼアーモンド弾が使用されている。
最終ステージ用の弾薬は、今までと違いドームテントの箱の中に数種類用意されていた。
バニラ鳥のあの体躯じゃ、ウルエさんの言う通りチョコフォンデュ弾じゃないと撃ち取れないだろう。
他には、ラムネ弾やブラックココアクッキー弾にラムレーズン弾とバリエーションあり。
……全部アイスやシャーベットに混ぜると美味しいやつだな。
せっかくなら、お餅製な捕獲用弾丸でもあったら良かったな……巨大な薄餅でバニラアイスをくるっと包んで足止めし、始末できたかもしれないのに……。
「ソラッ! 起きてぇぇぇぇっ‼︎」
突然、ウルエさんの悲痛な声が俺の耳をつんざいた!
それを合図に、無意識に足が動く!
ダッ‼︎
「ウルエさん‼︎」
ソラさんを氷山から救出できたはいいが……目覚めないのか⁉︎ 仮死状態?
氷山一つごとに、振り返りながら、元の場所へと急ぎ走り戻る‼︎
ダダッ! ダダダッ! ダダダダッ!
走って、足を止め、振り返る……を繰り返す。
俺が振り向く度に、顔を明後日の方向へと背けている敵……なんか、イラッとする。
もう、そこでゆっくりくるくる回っとけや!
ざざーーっ!
「ウルエさん! ソラさんは⁉︎」
「い、息はしてるけど……目が覚めなくて……」
スライディングにて到着し、両手を氷面に付けて這いつくばり、横たわるソラさんの口元に耳を近づけると……確かにすぅすぅと寝息は聞こえる。
俺の人工呼吸はいりませんね、うん。
顔色はまだ青白いが……呼吸は浅くないし、リズムは比較的安定してる。
なら……今は目の前の敵を倒すことが最優先!
「とりあえず、アイツを倒してからソラさんを……」
「ハルちゃん! 後ろっ‼︎」
ウルエさんの言葉と同時に、背中に感じる異常な殺気‼︎
振り向きざま、背中の武器を手に取り、構える!
ガチャッ! ぐにゅり……
「ぐにゅ?」
手から伝達する冷たい感触が、状況を飲み込めない俺の脳味噌に、半拍ズレて届く……あぁ、反応が遅れた。
敵に向け、構えたロケットランチャーが……俺の右手首まで、奴の身体にしっかりとめり込んでいた!
なっ⁉︎ こんな接近されるなんて⁉︎
……そうか!
アイツ、少しずつ回りながら近寄ってきてたんだ!
『だるまさんが転んだ』かよ⁉︎
クラシック調音楽の時には即死攻撃が来ないから大丈夫、と勝手に思い込んでいた……くそ、油断した!
銃口もトリガーも覆われちまったら、弾丸は放てない!
やべぇ……。
「ハルちゃぁぁぁぁぁん‼︎」
彼女の声が空へと響き渡った。




