未攻略エリア
ジャーーンッ‼︎
「んんっ⁉︎」
なんだ⁉︎
いきなり曲調がクラシック調からロック調に変わる!
速度も急激にハイスピード……創造主メルヘン好きなウルエさん、実は意外と激しめな音楽もお好きなの⁉︎
ひゅうぅぅぅっ……
今度は何処からか急に冷たい風が吹いてきた。
ざわっと身体の中心が……なにやら蠢く?
……あぁ、胸騒ぎってよく言うけど、これのこと?
よく見ると俺の視界ギリギリ、まだ少し遠くにいるぽっちゃり白鳥がスケート靴でくるくる回転を始めていた。
曲に合わせるかのごとく、どんどん回転数を上げ……
ひゅん!
風切り音と共に、何かが俺を掠めて後方へ飛び去る!
右の額を液体がつーっと伝う感触。
そっと触ると、グローブに何かのシミ? 黒い布地だから色が分からなかったが……視線を掌からずらして、真下の地面を見ると……歪な赤い水玉模様で氷が染まっている⁉︎
血か⁉︎ 俺の⁇
額が切れたか? 一体、何が起きた⁉︎
……はっ! ライフポイントは⁉︎
ゴーグル内の画面、ハートマーク3つは健在。
今の傷はノーカウントのようだ。
無意識に、俺は真横の氷山の陰へと飛び込み、出来るだけ小さくなった……コンマ数秒後……
ガガガガガガガガガガガガガガガッ‼︎‼︎
けたたましい音と共に、背面の氷山がガンガン削れていく‼︎
下手くそなマシンガンの乱れ撃ち⁉︎
いや、あいつは何も持っていなかったぞ⁉︎
回転の遠心力で……何かを飛ばしてきてるのか‼︎
俺とは反対側の氷山の陰には、同じようにウルエさんが小さくなって息を潜めている。
俺に向かって、両手を合わせて『ごめんね』のポーズ……。
………………
いやいやいや、そんな可愛いらしいごめんじゃすまないレベルの敵ですよ!
このラスボスやばいでしょ⁉︎ 猟奇的なスワン⁇
……そりゃ、ウルエさんが前回、瞬殺されたってのも頷ける。
この最終ステージ『冬の海』は、二人ともまだ攻略してないNEWステージだったらしい。
だから、前情報が全然無かったのだ。
ソラさんを凍らせた直後、ウルエさんが何者かわからない敵の攻撃を受け、気づけば死亡していた……と。
まさか白鳥だったとは……。
彼女は創造主だけど、この異世界の増築は生成AIに指示するような形をとるのかもしれない。
……しかし……現実世界で既に亡くなっているウルエさんだから、こうして何食わぬ顔でけろっと復活しているけど……生身の俺とソラさんがもし喰らったら……異世界へようこそ、と迎えられてしまう! ウエルカム反対!
「ハルちゃん! あいつは……恐らく曲に合わせて氷の羽根を飛ばしてきてるはず!」
「氷の……羽根⁉︎」
思わず大きな声で聞き返す!
やつの攻撃が、道路工事並みの騒音でウルエさんの言葉が聞き取りにくい!
っつうか羽根って⁉︎
もっとひらひらとか、ふわふわとか……柔らか系オノマトペの代名詞でしょ⁉︎
はっ!
頭上の氷山を振り返ると、中腹がだいぶ削れてしまっている。
そのてっぺん、巨大な氷塊がやじろべえ状態でぐらついているのが目に入った……やばいっ‼︎
だっ!
慌てて、白鳥から死角になる別な氷山の陰に逃げ込む!
次の瞬間、予想通り、上から氷ブロックが落下‼︎
ずどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん‼︎
今しがた俺がしゃがんでた位置に、狙ったように落ち、砕け散った……。
………………
ふっと氷山に映った俺の顔……ブルーハワイ並みに真っ青!
いつの間にか、BGMはゆったりとした最初の優雅なクラシック調へと戻っていた……。




