氷上の敵
ガシャコンッ!
弾薬を装填し、武器を全身に装備……そっと呼吸を整える。
あぁ、心拍数が穏やかではないな……気持ちの昂ぶりが拍動を煽ってしまう。
攻撃……当たったら死ぬ……被弾しない為にはどうするか……もしくは……敵の攻撃力を下げさせるか……考えろ……頭を使え……生き抜くには……ぶつぶつぶつ……。
「ハルちゃん!」
「うわぁぁぁぁっ!」
「そ、そんなにびっくりしなくても……」
独り言を呟いて、しばし自分だけの世界に旅立っていたせいで、ウルエさんの声掛けは心臓飛び出るかと思うほどに超びびった!
ステージ開始前に心臓止まったら、マジで洒落になんねぇ!
「……で、ウルエさんはソラさん救出に……それ使うんですか?」
ちらっと目を遣ると、彼女の手にはなにやら物騒な道具……チェーンソーが握られている。
「凍らせるのは簡単なのにさ、ソラを氷の中から出すには……氷を削るしかないんだよ、しかもゲーム中に……。何でもそうだ。元に戻すのってなかなか難しい……でも……あの時の選択は正しかったと、信じてる……信じたい。後悔は……まぁ、一割ぐらい、かな?」
そう言って、困ったように笑った。
そうだな……人生で、後悔のない選択なんて……本当難しいよ。
『自分に後悔はない!』なんて断言する人程、暗示のように自分にただ言い聞かせているだけかもしれない……まるで呪言だな。
「今回の敵は、チョコフォンデュ弾をしっかり命中させないと勝てないわ」
「……俺の方に引き付けて置くので……ソラさんを助け出して下さいね。こっちは……なんとか持ち堪えてみせます」
互いに頷き合い、俺達はゴーグルを降ろした。
カシャン!
マスクが口元を覆う。
四度目……これが最後のステージであり、最難関。
『汝、敵ヲ殲滅セヨ。』
もう聞き慣れた機械音声。
表示された数字は1。
ライフポイントのハートは3つ。
オレンジ色の明滅がパッとレーダー上に出現した。
少しずつ、こちらへと近づいてくる。
まだ、ゆっくりとした移動速度……。
「あれは……?」
すると、突如どこからともなく、聞いたことのあるクラシック音楽が流れ出す!
肉眼で、確認出来た……氷上に、敵‼︎
バニラアイス製の……アヒル? ガチョウ?
……いや、ずんぐりむっくりとした……白鳥か⁉︎
お尻がプリプリ!
しかし、でけぇな! 高さ3mくらいありそうだぞ⁉︎
足元は特注サイズなスケート靴を履いている。
………………
え? 白鳥の氷海……ですかい?
これが、最終ステージ『冬の海』の敵キャラ⁉︎
ラスボス‼︎




