冷凍保存
武器をじっくりと選びながら、ウルエさんは話し出した。
「ソラは中学二年の時に転校してきて、それから高校も一緒でね……大学は私が陸上の推薦入学で上京、ソラは地元の大学に進んだんだ」
「陸上……だからか……」
ウルエさんのあの走り方だもんな、納得。
「ずっと走ることだけをやってきたのに、怪我で選手生命が終了。そしたら……な〜んも無くなっちゃった。空っぽ」
ガシャガシャ!
ロケットランチャーの四連式タイプの装填部を覗きながら、彼女は続ける。
「陸上を辞めたら、チームメイトも気を遣ってよそよそしくなっちゃって……大学でぼっち、ホームシックもあって、何もかもストレス……前と同じような量食べてたら、ちょっと太っちゃって……それをたまたま通りがかりな先輩に指摘されたら、恥ずかしくなっちゃって……で、今度は拒食症」
ふぅーーっと溜息を吐き出す。
「ソラさんとは連絡取り合ってなかったんですか?」
「……取ってたよ。でもさ……言えるわけないよ。『ウルエは私の自慢だよ!』なんてキラキラした目で言ってくれるソラに……こんな惨めで情け無い自分なんて……絶対に知られたくなかった……」
「……」
親密な人ほど、本人からの悩みを打ち明けられていないことはよくある。
必死で隠すから……心配かけたくない……恥ずかしい……様々な感情で。
余計に知らされない相手は……辛いだろう。
『どうして言ってくれなかったの⁉︎』そう、叫ぶ声が……聞こえた気がした。
「気づいたら、死んじゃってて、ここにいて……自分の部屋を作って……で、ある時、突然ソラがやってきたの」
「……執念だな」
あの大家……山吹のお婆さんが、ウルエさんが亡くなった部屋をあっさり貸し出すとは思えなかったけど……ソラさんの熱意と社長の手回しだな。
「一緒にお茶して、遊んで……変わらずに側にいて……だけど、ソラが転勤することになって……『引っ越したくない! 私はウルエとずっと一緒にいるんだ‼︎』って取り乱して……」
「ソラさんがこの異世界の住人になろうとしたから、ウルエさんは止めようとして……氷山の中に閉じ込めた」
彼女はこくんと、静かに頷いた。
連絡鏡もコンパクトミラーも割り、現実に戻る手段を自ら絶つ。
現実世界の食糧が無くなれば、ウルエさんはこの世界の食べ物を取ることを、ソラさんに許可せざるを得ない。
親友を餓死させる訳にはいかないからな。
だから、冷凍保存することにしたのか……。




